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序章 五話「正義なき拳、覚悟の剣」【改稿版】

「ここは……」


 ゲートをくぐるとそこには何もない真っ白い空間が広がっていた。ルークが辺りを見渡していると、目の前にヴェルディ学園長のホログラムが現れた。


「よくぞここまで来た! いよいよ、最終試験じゃ。試験について話そうかの。あ、ちなみにこのホログラムは一方通行で質問には答えられんから悪しからずの」


 そう言い、映像が現れる。


「最終試験で君たちには10の空間に別れてもらう。それぞれの空間では、森や街中、砂漠や洞窟など様々な場所になっており今までの君たちの行動や戦闘能力から”苦手”と推測された空間へと転送される。各空間には70名ずつ転送されるんじゃが、その空間ごとにミッションが設定されており、その空間ごとに好成績を収めた60名のみが我が学園の門をくぐれるというわけじゃ」


 (地形とミッション次第か……。)


 ルークが冷静に分析する。


「さぁ、最終試練だ、若者。――運命を握れ!」


 そう言いホログラムが消えると同時に一つの扉が現れた。ルークは、その扉を開け歩を進める。


 扉の先には、街が広がっていたがあちこちで火災が発生し、魔法が飛び交って沢山の街の人達が逃げ惑っていた。


「いったいこれは……」


 ルークも状況が飲み込めずにいると目の前に文字が浮かぶ。


『ミッション:最善の選択をせよ。詳細:敵の襲撃から街を守れ。指揮官を倒す、住民を救う、魔物を討伐する――その全てが評価される』


「まるで二年前の……いや、今はいい」


 瞬時に状況を判断し、街で一番高いと思われる時計台に登る。


 見渡すと、街は火の海。魔物が群れで襲い、冒険者と志願者が応戦していた。


 ルークはすかさず魔法を発動する。《ソナー》――魔力の波が街を走り、魔物の群れと冒険者の位置が脳に浮かぶ。


「指揮官は……探知外か。魔力の扱いに慣れてる証拠だ、相当強いな」


 客観的に状況を整理しながら、”最善”を探る。


 どんどん外から魔物が街に入ってきており、他の志願者や冒険者も押され始めていた。


「先に強そうな魔物から叩くか」


 ルークが時計台から身を乗り出し移動しようとすると、一人の男が下からルークを押しのけ飛び登ってきた。


「どけ! 邪魔だ! どこに居やがるッ」


 その男は褐色の肌に白い髪をオールバックにして後ろで束ね両サイドを刈り上げた髪型。黄色と青のオッドアイで筋肉質な体格をしている。目つきは悪いが、見ただけでわかる程に猛者のオーラを漂わせていた。


 男は辺りを見渡し何かを探しているようだ。


「あいつだな、ぶっ潰す!」


 男は何かを見つけ迷わず一方向へと飛び出すと踏み込みで時計台の一部が吹き飛び崩れる。


「おいッ! おまっ……」


(っち、もう行っちまいやがった。にしてもなんてやつだ、ただの踏み込みで時計台の一部が崩れたぞ)


「って、それどころじゃねぇ!」


 ルークもすぐさま時計台から飛び降り、街に侵入した魔物を間引いて回る。次から次へと現れるが、ルークが強いやつを優先的に倒してる為か、さっきよりは戦況は悪くない。


 魔物を倒しながら街を屋根伝いに走って回っていると街の外れにある広場から、大きな魔力反応を感じた。ルークは足を止め、そちらの方をみると半球体状に光の属性を帯びた魔力の壁が広がる。


「対魔物用にアレンジした結界か! やるな」


 他にもその結界に気付いた志願者たちが、結界の方へと住民たちを誘導し始めていた。


 ドォオオオオン!!!


 今度は別の方から大きな音と共に地響きがルークの方まで響く。


「あっちの方は確か、白髪のやつが向かった方か!」


 音の方角を見ると大きい建物が崩壊していってるのが見える。次の瞬間、また凄まじい音がすると建物が次々と崩れ半分魔物になった大男が打ち上げられた。


「なんだあいつは! あんなやつソナーには反応なかったぞ!」


 ルークはその瞬間、脳裏に一つの答えが浮かび、その男に向かって走り出す。


「――あいつが指揮官かッ!」


 急ぎ向かっていると崩れた街の方から別の人影が姿を現し、大男の上まで飛び上がる。


「さっきの白髪!?」


 飛び上がったそいつは時計台でルークが会った白髪の男だった。


「クソ雑魚がッ! くたばれェエエ!」


 白髪の男は大きく振りかぶり、拳にとてつもない魔力を込めると一気に大男に向かって振り抜き殴り飛ばす。大男は両手でその拳を受け止めるも建物を壊しながら一瞬で地面まで叩きつけられ、周囲に土埃が舞う。


 (なんて威力……ッ!)


 空中から降りてくる白髪の男を見ながらルークは心の中でそう思った。空中という足場のない環境で放たれたにも関わらず、その攻撃の威力は凄まじい。鍛え抜かれた体幹と技の練度があってこそ、成り立つ。


 白髪の男が降り立つと、ルークや他の志願者たちの前に再び文字が浮かぶ。


『敵指揮官が討伐されました。これにより、魔物の襲撃が止まります。街の中の魔物が掃討され次第、試験は終了となります』


 やはり、さっきの半魔物の大男が指揮官だったようだ。他の志願者たちは、その文字を見るや否や、一斉に点数稼ぎをするかのように街に繰り出し魔物を討伐し出す。


 ルークもその場を後にし、戦闘に参戦していると何故か遠くから悲痛の声が聞こえてくる。おかしいと思ったルークは眉をひそめると、その声の方へと急ぎ向かう。


 辿りついた先に見えた光景は、敵の残党を掃討しようと暴れまわる白髪の男の姿だった。


 周りの状況など関係なしに繰り出される攻撃に他の志願者や住民たちが巻き込まれている。


「あいつッ――! やめろッ!」


 むやみやたらに大技を繰り出す白髪の攻撃にルークの魔力を帯びた斬撃をぶつけ相殺すると、白髪の男はルークの方を振り返り睨み付ける。


「ああ? なにしやがんだ雑魚。邪魔だ、消えろ!」


「周り見ろ! お前の攻撃が味方にも当たってんだろ!」


「うるせぇッ!  俺が全てぶっ潰す! 指図すんじゃねぇ!」


 大きく踏み込み瞬時にルークの前まで移動し、拳を振りぬく。


 ルークもすぐさま反応し、避けるもその拳は地面にあたり、四方八方に地を砕く。巻き上がった砂埃と一緒にルークも飛ばされると、白髪の男も飛び上がり、ルークの背後を取り拳を振りかぶる。


 その拳には、敵将を討った時と同じ密度の魔力が込められていた。


(――ッ! やむを得ないか……!)


 ルークは体勢を捻り整えると白髪の男のほうを向き、自身と剣に魔力を流す。


 連戦で少なくなった魔力を絞り出し《身体強化》、《感覚強化》、《鋭利強化》、《靭性強化》、《闇・火属性付与》を瞬時に発動。ルークの剣が蒼い光と黒焔を纏う。続けて高速詠唱を唱える。


「夜を裂き、魂を焼き尽くす焔となりて、我が刃に宿れ――《ゲヘナバースト》」


 剣に纏った黒焔が迸り、大気を焼く。一気に振り抜かれた剣身は、白髪の男の振り抜いた拳と空中で衝突すると、大気を震わせ、衝撃波が街に広がる。


 衝撃の強さに両者の表情が歪む。――しかし、その鍔迫り合いを制したのは一閃の蒼い光だった。


「はぁ、はぁ」


 地面に着地したルークの剣から輝きが消え、ルークは魔力切れを起こしていた。


 呼吸を乱しながら振り返るルーク。そこには額から血を流しながら、片腕を黒焔に焼く男の姿があった。


「おい、お前。名前は?」


 男は怒りに満ちた表情を浮かべながら振り返り、小さく問う。


「……ルークだ」


 二人の間に少しの沈黙があった後、文字が浮かび上がる。


『魔物が掃討されました。試験は以上となります、お疲れ様でした』


 その文字と共にルークが光に包まれると男はルークに向かって告げる。


「ルーク、か……次は潰す。俺の名は、バルバトス――お前の名、覚えたからな」


 向けられたその鋭い瞳を見送りながら転送される。光が収まると、そこは真っ白い空間だった。

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