「分かった。あなたでいいよ。パーティに入るなら、強さを見せてね?」
「今すぐか?」
「ううん、サバイバル期間中で大丈夫」
ルークは小さく頷き、手を差し出した。
「悪くない、良い判断だ。俺はルーク、よろしく」
「私はララ! こっちはガイ」
ララがにっこり笑いながら言うと、ガイも不満そうな顔をしながら手を差し出し、握手を交わす。
「っち、俺はガイだ。”特別に”パーティに入ること認めてやるよ。新人!」
「お前も新人だろ」
「そういう意味じゃねぇよッ!」
ルーク達が言葉を交わしていると、突然、森の中から1本の矢が放たれた。すぐに全員が反応し、矢を避けるが、次々と飛んでくる。
「っち、どうやら他のパーティからの攻撃だな。一旦、森に入ろう。ここだと良い的になっちまう」
「そうだね、その方がいいかも」
二人が森に向かって走り出す中、ルークはその場に立ち止まり、周囲を見渡した。
「おい、ルーク! なにやってんだ! 早く行くぞ!」
「いや、いい。そのまま行ってくれ、あとで合流する」
「ちょっ、おいっ!」
ルークは一通り見渡した後、別の方向へと足を踏み入れた。
(この試験、どこか引っかかる。まずは情報だ。試験の裏を知らなきゃ、勝てねぇ)
走りにくい森の地面を避け、ルークは木の上に登り、木から木へと飛び移りながら進んでいく。地面の方では、罠に足を取られたパーティや、他のパーティと戦っている姿が見える。
木々の間を進むルークは、微かな気配を捉えた。茂みの中に隠れている生徒を見つけ、ルークは音を立てずに木から降りて声をかけた。
「なぁ、そこにいるんだろ? 先輩」
「面倒くせぇな、ヒヨッコが自分から出てくるとはよ。自分から話しかけてくるなんて自殺願望でもあんのか?」
茂みから現れたのは、ルークより少し背が高く、筋肉質な体格をした金髪の男だった。派手なネックレスと左耳に三連ピアスをつけ、少しチャラい見た目だが、醸し出している威圧感は虎のように重々しい。
「んや、少し聞きたいことがあるんだ。今回の試験、いくつか不可解な点がある。一つ、在学生が参加する理由。二、志願者が在学生を倒した場合。三、先生の不在の理由」
ルークの問いにロイドがニヤリと笑い、答える。
「そんなことかよ。まぁ、教えてやるよ。ヒヨッコが知ったところで、俺に勝てねぇからな。一つ目は、点数稼ぎだ。俺達は成績が悪くてな、救済処置みたいなもんで、お前らを退場させた数だけ点数が補填されるんだ。二つ目、俺らはそれぞれ胸に着けたバッジがある。このバッジを持って広場にいけば、合格の近道だぜ。ま、生き残れるかどうかは別だがな。三つ目、ここはロストレリックの門が作り出した疑似空間だ。先生は現実側で監視してる。以上、これでいいか?」
「なるほど、そういうことか。ありがとう」
ルークが礼を言い、立ち去ろうとすると、男は突然剣を抜き、ルークの前に立ち塞がった。
「おいおい、聞くだけ聞いて、はいさようならってのはないだろ? 礼には礼で返すのが常識だ。俺の点数になって礼を返してくれよ」
剣を構え、ルークを睨む。しかし、ルークは一切表情を変えず、静かに男を見つめた。
「辞めておいたほうがいい。他の志願者を襲撃するならまだしも、先輩じゃ俺には勝てない」
「ほう? ヒヨッコが生意気言うじゃねーか」
二人の間に沈黙が流れる。破ったのは、ルークの小さなため息だった。
「俺はルーク。後悔しないでくださいよ、先輩」
「はは、俺に勝てたなら覚えといてやるよ。俺はロイドだ、よろしくなヒヨッコ」
ルークが剣を抜く。刃から青い光が一閃し、空気が震えた。
(こいつ……、なんて目してやがる。あれは生死を分けるような戦いを何度も経験してきた目だ……)
ロイドが一呼吸つく瞬間、先に動いたのはルークだった。圧倒的な速さで距離を詰め、低い体勢から剣をロイドの喉元へと突き刺す。
(くッ! なんだ、その速さ!? あっぶねぇ!)
ロイドがその速さに目を瞠る。
上体を反らし、ギリギリで攻撃を交わすと、反撃に移る。だがルークは何でもないかのようにその攻撃をいなし、すぐに背後に回り込むと、ひねった体の回転を利用して剣に力を乗せて振り抜く。
その剣筋は青い閃光と共にロイドの首を見事捉えた。
「運が悪かったですね」
「っは、バケモンかよ……次は負けねぇぞ!」
ロイドの体は光の粒となって消え、地面には剣と盾が描かれたバッチだけが残された。
「バケモン……ね。皮肉にしては刺さる言葉だな……。さて、あっちはどうなってるかな」
――その頃、ガイとララは……
「っち、また来やがったッ! 森に入ってからずっとこんな調子じゃねぇか!」
「ガイ、右の茂み! 別の気配がある!」
その声にガイは剣を振り、グリーンウルフを斬り伏せる。
「家族の為に、こんな所で終わるかよ!」
森に入ってから、魔物と他パーティからの襲撃が続いていた。ガイは剣を振りながら、ララと共に戦闘態勢に入る。
「群れが多すぎる! 指揮してる奴いねぇのか!?」
「わかんない! 生態系がおかしいよ!」
ララは杖を構え、魔力を込めて詠唱を始める。
「集いて青冰の形をなし、仇なす敵を討ち滅ぼさん! 《アイスニードル!》」
足元に魔法陣が浮かび上がり氷の棘がグリーンウルフを貫く。
――だが直後に力が抜け、膝をつく。
「おいッ! 大丈夫か!?」
「はぁ……はぁ……、大丈夫。連戦で少し魔力切れ起こしただけ……。休めばすぐ良くなると思う」
タンクが不在の中、ガイは前衛で攻撃と守りを同時にこなし、ララは攻撃魔法を連続で使い続けていた。試験開始から一時間が経過し、連戦というのもあって既に限界が近い。
そんな二人の前に、茂みから現れた3人――鋭い目つきの剣士、杖を握る魔法使い、盾を構えるタンクが、獲物を狙うように微笑む。
二人の額に嫌な汗が流れ、顔を歪める。