「ふぉっふぉっふぉ、今年はなかなか豊作じゃの。ようこそ、志願者諸君。わしは、ヴェルディ・フォン・ベルロン。この学園で学園長をやっておる」
ヴェルディが話し始めると先ほどまでの寒気が消え去った。金の装飾がされた白いローブに身を包み、白の長髪、長い白髭。優しそうな表情と瞳とは裏腹に貫禄を感じさせる雰囲気を纏うその老人は髭を触りながら話を続ける。
「さっきのはちょっとしたサプライズではあるが、既に諸君らの試験は始まっておる。今、意識を保っておるものは一次試験合格じゃ。これより諸君らには、二次試験を受けてもらい、合格した者は最終試験に進んでもらう。そして全ての試験を乗り越えた者は、晴れて我が学園の生徒として再来週より通ってもらうことになるじゃろう。まぁそれは追々じゃの」
そこまで話すとヴェルディは、パンっと手を叩く。すると闘技場全体が明るくなり、周りがよく見えるようになった。ルークが周りを見渡すと先ほどまで気を失っていた志願者たちの姿がなくなっていた。
「さて、失格者たちには退場してもらった。早速諸君らには二次試験へと進んでもらおう。ここを出たら外に学園の先生方が待っておる、その先生たちの誘導に従って二次試験の会場へと向かっておくれ。諸君らの健闘を祈っておるぞ」
そう言いヴェルディはその場を離れ居なくなった。それをみて観客席にいた志願者の人たちが次々と移動を始める。
(あれが、神雷のヴェルディ学園長か……。なかなか、ハードな入試になりそうだな)
冷や汗を滲ませながら、ルークも他の志願者たちと一緒に闘技場の外へと出る。外にはヴェルディの言うように先生たちが立っており、誘導をしていた。案内されるまま、足を進めると大きな噴水の前に着いた。
噴水の周りには四つの門があり、門の内側には白い光が揺らいでいる。
「これは、ロストレリックで転移門と呼ばれている。この先が次の試験会場となっているから志願者の者は、こちらのゲートより二次試験会場へ進んでくれ」
(本では見たことあるが、実物を見るのは初めてだな。失われた古の産物……か)
誘導に従い、ルークはゲートをくぐる。すると、その先には広場があり周囲は森に囲まれていた。
入ってきたゲートが消え閉ざされると、全員に聞こえるようにどこからか声が聞こえて来た。
「これより二次試験を開始する。現在、ここに居る930名の志願者にはこれより3人一組でサバイバルをしてもらう。と言っても、何日間生き残れというものではない。森に隠れた我が学園の新二年生6人がこれより君たちを殺しにくる。残りの生存人数が700名になった時点で終了だ」
殺しにくるという突然の声にあちこちでどよめきが走る。
「これはあくまで試験だ。本当に死ぬわけではない。ここでは死ぬほどのダメージを受けた場合、強制的に外に転移させられるようになっており、外に出ると身体の状態はゲートをくぐる前に戻るから安心して試験に臨んでくれ。言っておくが、もちろん魔物も存在するし罠も沢山仕掛けられている。知恵と己の価値を証明して欲しい。それでは試験開始!」
開始の合図と共に一斉にパーティ勧誘をする声があちこちから上がる。
「誰か!俺と組もう!俺は剣士で実戦経験もある!」
「私はヒーラーです!ある程度の怪我であれば治癒できます!」
「僕は、シーカーだ!索敵や罠なら任せてくれ!」
各々が勧誘しあいパーティを組むと次々と森の中へと姿を消していく。
(3人一組か……、さてどうしたものかな)
ルークもまた周囲を見渡し、他の志願者たちの様子を見る。強そうなやつはいれどルークは声をかけない。
(強いやつはいるが……違うな。この試験で生き残るにはパーティでの連係が必須。即席で連係を取るのに”プライドありき”の強さは逆に邪魔になる。もっと、冷静に状況を見れて柔軟に……ん?あいつらは……)
ルークの目に映ったのは、男女の二人組で残りの1人を探しているパーティだった。癖っ毛のある赤髪で薄い青の瞳の少年と、サラッとした茶髪のロングヘアーと瞳の少女のチーム。
「なぁ、お前らのとこまだ空いているのか?」
ルークは赤髪の少年に声をかけると、少年は一瞬怪しそうに目を細めたあとルークの問いに答える。
「ああ、まだ空いているよ。俺も彼女もアタッカーでヒーラーかシーカー、もしくはタンクが欲しい」
「悪いが、俺もアタッカーだ。魔剣士をやっている」
ルークの魔剣士という言葉に反応し、少女がルークに視線を移す。反対に少年の方は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
「はぁ?!魔剣士だぁ~?一番話にならねぇじゃねーかッ!魔剣士は、魔法と剣術両方が一流で初めて成り立つ役割だ。大人でも大抵が中途半端になる中、今の俺らの歳で魔剣士なんざ論外だろ!」
「いや、待って。私はこの人をパーティに入れたいな」
「おいおい、冗談だろ?!魔剣士なんて入れてる余裕なんてねぇぞ!分かってんのか?この試験は一生に一度しか受けられない!落ちたら終わりなんだぞ?!」
「大丈夫。私、人を見る目だけは超一流だと思ってるから!」
ルークの加入に反対する赤髪の少年を物ともせず、少女は真っ直ぐにルーク見つめる。
「悪いが、俺はまだお前らのパーティに入るとは一言も言ってないぞ」
ルークの一言に二人は面を食らったかのように目を見開き驚く。
「はぁ?!お前馬鹿か?!どうあがいてもお前が選べる立場じゃねーだろ周り見てみろ!未結成のパーティも残り十数組しかいねぇ、そんな中でお前を取りたがるパーティがいるわけねぇ」
「そうかもな。だが、俺が加入するパーティの条件は俺がリーダーをすることだ。代わりとして確実に勝たせてやる。この意味が分からないパーティならどのみち上にはいけねぇよ」
顔色一つ変えずそう言う放つルークに苛立ちを見せる赤髪の少年。
「お前さぁ……」
「ストップ!」
今にもルークに殴りかかりそうな赤髪の少年を少女は制止する。