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冥府の王
冥府の王
早川隆
SF宇宙
2025年04月06日
公開日
2万字
連載中
クゥトルフの雰囲気をまとう宇宙探査SF。感覚転移の異能の持ち主アイは、育ての親カールに伴われて、冥王星系への遠隔探査ミッションに従事する。星系最大の衛星カロンにある氷の大峡谷に降り立った探査用スレイヴを通じて、そこにある異様なものに気付き、やがて冥府の門衛が現れる・・・自己解釈によるクゥトルフ的世界観で、ごりっとしたサイファイ書いてみました。ラストは少し思弁SF風に味付けしております。暗くて重くて読者を択ぶ、のはいつものことですが(笑)お楽しみいただければ幸いです!

第1話

アイが目にした初めての風景は、眼の前いっぱいの星々。


白、赤、橙、そして青。ぜんぶ合わさってきらきらと輝き、あちこちに光芒を投げかけながら、自分の涙でにじんで見えなくなる。背景には広々とした漆黒の夜空。どこか遥か彼方からのほのかな光に照らされて、星々は、ちりちり破ぜる線香花火のひげの先のように、しずくを撒きながら滝を零れ落ちる水のように、アイの視界から次々と消えてゆく。


さまざまに煌めき、なにごとかを囁きながら名残惜しげに去ってゆく。そしてしばらくすると、アイは虚空の闇の中に、ひとり、ひっそりと取り残されているのだ。


アイには記憶に残るその風景が、夢なのかうつつなのかわからない。おそらくそれは、幼きみぎりにアイが見た夢の中の光景に過ぎないのであろう。しかし、なぜアイがそんな夢を見たのかは謎だ。彼女は幼かったし、夜空に輝く星々を見たことなんて、それまで無かったであろうから。


もしかしたらそれは父祖伝来の、遺伝子レベルで刻み込まれた原初の記憶だったのかもしれない。夢ではなく現実に、アイの祖先が遠い昔どこかで見た光景だったのかもしれない。


ともかくそれは、彼女の持つ、人生で最初の記憶だ。

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