「先輩! 絶対にこの人の刃物に触れないでください!!」
「……っ!?」
突然の警告に、僕は息を呑んだ。
「この人の周りには……殺された人の怨念が漂ってます!!」
「……!!」
「それが、その人のナイフを“霊の武器”として成り立たせています!」
「つまり……僕も食らったら、普通に死ぬ…!?」
手にじっとりと汗が滲む。
指先が微かに震えた。
今までの霊とは違う。
黒崎という霊は明確に生きた人間を「殺す手段」を持っている。
——ダンッ!!
鋭い足音と共に、黒崎が跳躍した。
シュバッ──!!
ナイフが横薙ぎに閃く。
僕は反射的に飛び退いた。
刃が鼻先をかすめ、冷たい感触が肌を撫でる。
「遅ぇよ。」
ヒュンッ——!
背後から風を裂く音。
次の瞬間、鋭い痛みが腕を走る。
「ぐっ……!」
服の袖が裂け、血が滲む。
——“生きるか死ぬか”の闘い…。
これが僕たちが歩む、“未来の現実”だった。
だが——すべての始まりは、もっと静かで、穏やかな春の風の中だった。
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風が春の訪れをそっと運んでくる。
花びらが空に溶けるように舞い、柔らかな陽射しが街を包む。
ここ、
遠い昔、桜の木々がこの土地に根付き、春に花を咲かせて人々を見守ってきた。
言い伝えによれば、丘の上の
川沿いの並木が目を覚まし、風が花びらを地面に淡いピンクの絨毯のように敷き詰める。その瞬間が、小さな幸せを閉じ込めた一枚の絵のようだった。
⸻
新学期の朝。
教室に足を踏み入れると、窓から差し込む陽射しが机に柔らかく落ち、小さな光の粒が埃と一緒に揺れる。
友達の笑い声が遠くに漂い、新しい制服の匂いが春の空気と混じり合う。
自己紹介は簡単に済ませ、平凡な一日が静かに流れ始めた。
昼休み。
購買のパンを頬張りながら、友達とたわいもない話をしていた。
「今年は何か面白いことあるかな?」
誰かが笑いながら呟く。
僕は小さく首を振り、「別に、普通でいいよ。」
そんな何気ない時間が、胸にそっと積もる。
窓の外では、桜織神社の
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放課後。
昇降口を出ると、夕陽が校庭を淡い金色に染めていた。
その先には、
そして、その向こうには——
教室の窓からも見えた
神社の周りには、どこか特別な空気が漂っていた。
「昔からこの土地を見守る静かな守り手が宿っている」——そんな噂が、風に混じって耳に届く。
その時——
夕陽に照らされ、横顔が儚く透き通るように美しい。
茶色の髪がポニーテールにまとまり、春の風に揺れるたび、どこか切なげだった。
その姿が、桜と夕陽に溶け込むように、静かにそこに在った。
……僕の目が、離せなくなった。