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縁が結ぶ影 ──呪われた巫女と結ぶ少年──
縁が結ぶ影 ──呪われた巫女と結ぶ少年──
Aihey
ホラー怪談
2025年04月06日
公開日
13万字
連載中
──あらすじ── 恐怖から始まり、静かな余韻で終わる物語。 幽霊が視える少年・悠斗と、呪われた村から来た少女・美琴。 桜織市――春になると桜が舞うこの街で、ふたりは数々の霊障に立ち向かいながら、過去に封じられた“呪い”の真相に迫っていく。 命をかけて、誰かを守るということ。 恐怖の中で芽生える、あたたかな恋。 そして、桜が導く――運命の選択。 これは、「祓う」のではなく「結ぶ」物語。 怖さの裏にある“悲しみ”と“赦し”を描いた、心揺さぶるヒューマンドラマ系ホラーです。 最後に残るのは、恐怖ではなく――優しい余韻。 ── 【作者の言葉】 毎日20時更新です! この物語は、「恐怖の中にある優しさ」や「別れと再生」をテーマにしています。 もし何か感じるものがあったら、ほんの一言でも感想をいただけると、とても励みになります。 応援していただけると、本当にうれしいです。

一話

「先輩! 絶対にこの人の刃物に触れないでください!!」


「……っ!?」


突然の警告に、僕は息を呑んだ。


「この人の周りには……殺された人の怨念が漂ってます!!」


「……!!」


「それが、その人のナイフを“霊の武器”として成り立たせています!」


「つまり……僕も食らったら、普通に死ぬ…!?」


手にじっとりと汗が滲む。

指先が微かに震えた。


今までの霊とは違う。

黒崎という霊は明確に生きた人間を「殺す手段」を持っている。


——ダンッ!!


鋭い足音と共に、黒崎が跳躍した。


シュバッ──!!


ナイフが横薙ぎに閃く。


僕は反射的に飛び退いた。

刃が鼻先をかすめ、冷たい感触が肌を撫でる。


「遅ぇよ。」


ヒュンッ——!


背後から風を裂く音。

次の瞬間、鋭い痛みが腕を走る。


「ぐっ……!」


服の袖が裂け、血が滲む。

——“生きるか死ぬか”の闘い…。


これが僕たちが歩む、“未来の現実”だった。

だが——すべての始まりは、もっと静かで、穏やかな春の風の中だった。



風が春の訪れをそっと運んでくる。


花びらが空に溶けるように舞い、柔らかな陽射しが街を包む。


ここ、桜織市さくらおりし風穂県かざほけんの平野部に広がる穏やかな町だ。


遠い昔、桜の木々がこの土地に根付き、春に花を咲かせて人々を見守ってきた。


言い伝えによれば、丘の上の桜織神社さくらおりじんじゃに宿る神が、桜の枝に命を吹き込み、この町を護ったという。


川沿いの並木が目を覚まし、風が花びらを地面に淡いピンクの絨毯のように敷き詰める。その瞬間が、小さな幸せを閉じ込めた一枚の絵のようだった。



新学期の朝。


教室に足を踏み入れると、窓から差し込む陽射しが机に柔らかく落ち、小さな光の粒が埃と一緒に揺れる。


友達の笑い声が遠くに漂い、新しい制服の匂いが春の空気と混じり合う。


自己紹介は簡単に済ませ、平凡な一日が静かに流れ始めた。


昼休み。


購買のパンを頬張りながら、友達とたわいもない話をしていた。


「今年は何か面白いことあるかな?」


誰かが笑いながら呟く。


僕は小さく首を振り、「別に、普通でいいよ。」


そんな何気ない時間が、胸にそっと積もる。


窓の外では、桜織神社の桜翁さくらおきなが、丘の上に佇みながら春の光に穏やかに揺れていた。



放課後。


昇降口を出ると、夕陽が校庭を淡い金色に染めていた。


その先には、桜翁さくらおきなと呼ばれる、桜織市さくらおりしで最も古い桜の木。


そして、その向こうには——桜織神社さくらおりじんじゃ


教室の窓からも見えた桜翁さくらおきなが、枝いっぱいに花を咲かせ、夕陽に照らされて揺れている。


神社の周りには、どこか特別な空気が漂っていた。


「昔からこの土地を見守る静かな守り手が宿っている」——そんな噂が、風に混じって耳に届く。


その時——


桜翁さくらおきなの下に、一人の少女が立っていた。


夕陽に照らされ、横顔が儚く透き通るように美しい。


茶色の髪がポニーテールにまとまり、春の風に揺れるたび、どこか切なげだった。


その姿が、桜と夕陽に溶け込むように、静かにそこに在った。


……僕の目が、離せなくなった。


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