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第15話 兎は開眼した。

「……なんかボクやりましたかね」


 犬丸いぬまるからギスギスした空気を送られて三時間、スライムを狩り続けて兎田山うだやまは距離を取られている。


 二人の真ん中でスライムを倒していた猫宮ねこみやは、スライムをアイテムボックスに苦労していれながら苦笑した。


慧士けいしは、仲良くなった紫里ゆかりくんがUDAYAMAホールディングスの家の出だと知らされなくて不貞腐れてるのよ」

「ほほぅ、モブ壁としては推しに関心持たれたくなかったのですが……特に話す必要もないと思っていました。すみません」

小桜こざくらは……間違ってねぇ……けど!こっちは猫宮財閥だって聞いたら一言言えば良いだろが!」


 アイテムボックスに移し替えた水を取り出して、兎田山は口を潤す。


「なにしろエンドゲートは生産職でないと儲からないでしょう?装備にお金がかかるじゃないですか。家にコネや名誉が生まれると言っても一般のご家庭で装備をほいほいと買えると思いません。ですから、自衛隊や警察官以外のメンバーは、ある程度の地位や財産があって当たり前だと思っていてですね……」


「気づかなくて悪かったな!!おまえはオーラとか服装とか諸々成金くさくなくてわかんねーんだよ!」


 兎田山と猫宮は、含み笑いを見せる。

 犬丸の嫌味は本音が分かりやすい。

 分かりやすく拗ねている。

 そんな二人の顔を見ると、ふいっと犬丸は顔をそらしてツルハシでスライムに怒りをぶつけた。


「おお、尊い照れ顔……。猫宮さんらお付き合いが長くても、こんな反応は可愛いでしょうね?」

「そうね。幼稚園からの付き合いだけど、可愛いわ!」


兎田山の質問に、猫宮の返事は問いから少しズレている。


「いえ、ですからお付き合いされてから――」

「あっ、そっちの意味ね!確かに幼なじみだし、慧士は私のボディーガードだけど、男女の意味では付き合ってないわ。何故かよく間違えられるんだけど、本当よ」


 兎田山は衝撃のあまりツルハシを取り落とした。

 政府からゲートの存在を告げられた時ですら、こんなにショックを受けたことは無い。


「つつつつつつ付き合ってない?」

「ええ、幼なじみで護衛対象なだけよ」

「ほっっえっっっあっっ冗談とかではなく??」

「ええ、全然違うわ」


 猫宮の否定の度に、犬丸が地面に手をついて真実の言葉の暴力に土にのめり込んでいるのだが、さすがの兎田山は取り乱していてもその光景を見逃さなかった。


(おそらくエモエモ両片思いなのに、どちらもそこに気づいてないやつ――!犬丸くんは恋心自覚済なのにカラぶってる?!まさかのスパダリ推しが不憫?!)


「決めましたっっ!!この腐男子兎田山、カテゴリーエラーですが、犬丸くんと猫宮さんの両名を推しと決めて!ノマカプ推しに開眼です!!」


 高らかな兎田山の宣誓。幸運なのか残念なのか、犬丸たちに兎田山のセリフの意味は伝わらない。


「「は?」い??」

「これは神が与えたもうた萌え!!視野狭窄せずに幅広いジャンルを楽しめというお告げです!!」

「わかる日本語しゃべれやッッ!」


 犬丸の魂のツッコミは、兎田山の心にクリティカルヒットしなかった。

 腐男子ふだんしとしても、ノーマルカップリング推しに目覚めても、この場の自分の存在が推しの邪魔だということに。


「ああああああ、自分の存在が癌!!!チュートリアル達成しなければいけない任務なのに、なんて邪魔なんだ僕は……!!いや、ベストポジションで推しを見れる……?」


 猫宮が兎田山の苦悶をスルーして、レベル一に育ったアイテムボックスに『魔核』を詰め込んでいると、兎田山が弱々しく提案する。


「お二人共に、僕のことは見えない空気みたいな存在だと思ってくれませんか……?」

「何言ってんだッッ!案内人が消えてどーすんだ、ボケ!」

「紫里くんには同じパーティ仲間になって欲しいのよ、そんなの無理だわ」


 美形二人は、兎田山の意見を瞬殺で否定したのだった。

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