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第14話 わんこはサプライズをしたい

  一時間後にゲート前に待ち合わせすることになった。


 放課後、直帰してマンションから一緒に行こうと猫宮が兎田山を誘ったのだが、推しと歩くなんてバチがあたる、とよく分からないいつもの理由で断られる。


 犬丸はお弁当の手作り。猫宮はゲートに潜る荷物を纏めていた。

 近くにスーパーがなく、遠距離にしかないので、日々の食料も猫宮の実家から配達される。


「つくづく、住むに向いてねぇな……」

 ハンバーグを捏ねながら、犬丸がキッチンでひとりごちた。

 学園の生徒もほとんどが電車通学で、近場に住んでるものは少ない。犬丸たちだって『ジョブ』があると判明してから、こっちに転入してきたのだ。


「なぁに?」

「いや、この辺殺風景だなって」

「ゲートのせいで、この辺の一般人は転居させられたらしいわ」


 グループチャット以外でも、猫宮は兎田山と話してるようだ。チラッと嫉妬が沸くが、相手はあの変人メガネだと犬丸は自分を宥める。


「あの服、紫里くんが知ったら喜びそうよ」

「まだ終わらないけどな」


 犬丸たちは新人放浪者ノーマッドだ。毎回兎田山の手のひらで驚かされてるのも面白くない。   

 犬丸の中でよくわからない対抗心が燃えていた。

 朝の隙間時間にミシンで手作りしだした犬丸、兎田山に知れたらまたおかんスキルの高さに騒がれるだろう。


「出来上がったら付与エンチャントしてもらう?何がいいかは紫里くんにきかないとか分からないけれど」

「あの鳳ってオッサンに聞くか」


 あくまで犬丸はサプライズにこだわりたい。

 猫宮は、自分の誕生日プレゼントなどをいつも必死で隠そうとしてる――だがあれこれバレていく――犬丸を知っているので微笑ましい。


 今日は二人とも学校ジャージだ。またあのスライムのぬめぬめと戦うのだから当然である。

 聞くことが増えた分、早めに到着しなければならない。犬丸は作業ペースをアップさせながら、弁当箱に詰めていった。


****


「服の付与エンチャントねぇ、『耐久』や『防汚』、『防御アップ』『速度アップ』『気温調節』あたりかね、俺だと」

「気温調節〜?」

「沼地ゾーンだとじとじとするし、砂漠ゾーンなんかでは気温が高いのを適温に近づける付与エンチャントだ。いっとくがおっちゃんの付与エンチャントの中では1番人気だぜ」


 早足で鳳の店に向かうと、様々なカスタマイズを提案される。

 犬丸と猫宮は顔を見合わせた。エアコンのような名前に脱力したが、考えてみれば優秀そうだ。


「あ、いっとくが一般素材じゃ付与エンチャントは二個が限界だからな。沢山つけたければ異世界素材にしてくれよ。ウルフの素材とかが最低限だ」

「素材の買い取りとかはどうかしら?」

付与エンチャント一つで一千万から二千万だからな、それを服三つ分なんだろ?」


 押し売りしないだけマシなのだが、序盤で装備を買うとあとあと――と兎田山にも言われている。


「半年も頑張れば優秀なやつはラビット系素材あたりなら取れるからな、まあ頑張んな」


 自作で服を作り始めていた犬丸、完成はしていないが、ムダになったと分かって脱力する。


「そんなにカスタマイズしたいなら、兎田山にも払わせたらどうだ。あいつなら払えるだろ」

「そりゃ、素材はとってんだろーけど、アイツは異世界の村に素材降ろしてるはずだろ」

「それは知ってる、たまに依頼してこっちに持ってきてもらからな。そうじゃなくて――UDAYAMAホールディングスの息子。……知らんかったか?」


 犬丸も猫宮も絶句した。

 こっちの財閥を山に喩えれば榛名山、あちらは富士山より高い。


「はぁ?!あいつそんないいとこの出なのか?!」

「……ふりかけおにぎりで油断してしまったわ」


見かけても分からないことを、知ってしまった。

 慣れたふうなのに、カジュアルな兎田山からは金持ちオーラが微塵も感じないが。


「あれっもうこちらにいらしたんですか?」

「てめーにはガッカリしたぜ!!メガネ!」

「いきなりの推しボイス、堪能ですねえ」


 店に入ってきた兎田山を見て、犬丸は思わず八つ当たりをした。

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