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第12話 子猫の覚悟

  解散して帰宅――とはいっても三人とも同じマンションなのだが――小桜こざくらがシャワーを浴びてぼうっとしていると、ノックが聞こえる。


 慧士けいしは合鍵を持っているのだが、決して勝手に開けない。

「どうぞ?」

「お嬢……大丈っ?!」

顔を出した慧士が顔を火照らして、また玄関に戻る。


「おおおおお嬢、足はしまってくれ!!生足は……その」

「あ」

 ゆったりとしたパジャマなので下着は隠れていたが、慧士がこの手のことにうるさいのを忘れていた。


 自分でも思ったよりぼんやりしていたのだ。案の定、ズボンは脱衣場に置き忘れていたままだった。


「ごめんなさい、もう大丈夫よ」

 慧士は玄関で落とした荷物を拾って、片目を覆いながら入ってくる。

 普段は怖いものなど何も無い顔をしているが、小桜の前では感情の起伏が激しい。


「疲れてんのに悪いな。なにか食べたかったら作るけどどうする?」

「ううん、ゲートの中ではお腹すいてたんだけど、今は眠たいの」


 慧士は持ってきた大型スポーツバッグに、小桜のツルハシと防具を仕舞った。

 ソファに座る気分ではなくて、なんとなく壁に凭れて座る。すると犬丸もちょこんと隣に座った。


 肩にふれる体温が、お互いに沁みる。


「モンスターを、倒したのよね?」

「……あぁ」


 小桜は『騎士』だ。そのうちレベルがあがれば、剣でウルフを屠る日がくる。

 小桜は『ジョブ』が分かってからずっと、自分が前衛で良かったと思ってきた。いつも、慧士が自分から重荷を取り上げてしまう。


 幼なじみとして、慧士から庇われることに慣れる自分が嫌だった。

「お嬢と俺の『ジョブ』が取り替えられれば……」

「私はこれで良かったと思ってるわ。背中は慧士が守ってくれるんでしょう?」

「あぁ」


 ふいに肩を抱かれて、小桜の未だ湿り気を帯びた髪が無骨な指にすかれる。

 慧士の不安が強い表れだが、たまに周囲には付き合っていると思われる仕草だ。


 明日には、先に自分が強くなってみせる。

 充分に強くなったら、慧士に告白するのだ。

 そこで、小桜の意識は落ちた。



「小桜……絶対に傷つけさせないからな。俺が絶対に守ってみせるから」


 慧士は軽い寝息をたてる小桜を抱き抱え、ベッドに寝かせる。

 神聖な乙女――まだ、手を離したくない。


 もっと強くなるまで、成果をだして猫宮家に強く発言できるほどの力を持ったらその時は――。


 髪に触れるか触れないかのキスをして、慧士はアラームをかけてから部屋を施錠した。

 今は安眠を誰も妨げないように、と。

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