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第11話 異世界の味

「お待ちどうさまでした」

 軽く息を切らして兎田山うだやまがゲートの方から走ってきた。


「あ?メガネ、なんでそっちから来た?」


「『転移石』を使うとこうなるんですよ。飛んだ座標がどこであれ、ゲート傍に戻されてしまうので、村からゲート近くに飛んで、戻ってきました」


「ごめんね、紫里ゆかりくん。そんな手間かけていたなんて」


「いえ、僕も用事があったので大丈夫ですよ。こう見えても毎日五キロ以上は走ってますから」


 そう言えば――犬丸いぬまるに追いついてきたときも足が早いと思ったのだ。

 ヒョロついてると思っていたが、意外にマラソンランナー体型なのかもしれない。


「まず、『魔核』が一個銀貨一枚で売れました。ブルースライムは一個銅貨五十枚ですね」


 兎田山は、それぞれにお金を並べる。不思議な色のコインだった。

「これは僕の奢りで。ベリとチリィのジュースです」

「ベリ……?」

「ベリは、ストロベリーとブルーベリーの間みたいな味がする実です。村の周辺でよく採れるものです。チリィはオレンジと蜜柑の間のような……甘味は少し強いかもですね」


 陶器のコップに並々とジュースが入っている。全体的に淡い紫色だ。

 口に含むと、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。


「甘くておいしい……!爽やかなのに、凄く飲みやすい!」

「……確かに旨い」

「推しから生ボイス頂きました!旨い!」

「うるせえ、これ、幾らだったんだよ!」


 兎田山は指を三本立てた。


「器は後日返すと言ったので、純粋なジュースの単価は銅貨三枚ですね」

「は?安くねえか?」

「『魔核』がそれなりに高いんですよ。こちらの世界の人も、『スキル』がないと魔物は倒せないんですって。だから冒険者や、我々『放浪者ノーマッド』頼みなんです。『魔核』は小さいものでも魔道具になったりしますから」


 異世界人が処理できなくなった魔物が溢れてゲートが生まれたのか――それとも全く別の理由なのか。

放浪者ノーマッド』は、その原因と対処。レベル上げは生き抜く為の必須だ。


「十二時ですね、帰還しましょう。初日に無理すると辛いですよ」

「明日は早めに潜るわ。紫里くんもそれでもいいかしら?」

「いいですよ」


 ゲートまでそう遠くない。

 ハイランカーは『魔よけテント』を持って潜りっぱなしなのだとか、兎田山がエンドゲート知識を教えてくれたのだが、犬丸も猫宮も体が重かった。


 改めて、ケロッとしている兎田山の凄さを感じながら、抱えているツルハシの軽さの有難みを感じる。

 ゲートを出てから、兎田山と連絡先を交換したのだが、二人とも疲労で黙りがちだった。

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