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第10話 番犬の悩み

  犬丸いぬまるたちはその後もスライムを狩ったが、アイテムボックスの育成は捗々しくなかった。


 兎田山うだやまによると、狩った素材の売り方で今後が変わると言う。


 一、ゲート付近の店に卸す。

これは日本円で売り買いすることになる。初期装備で使ったお金が少しはバックされ、素材を預けておけば付与エンチャントして次の武器や防具を作ってもらえる。


 二、異世界の店に卸す。

当然、異世界の通貨が手に入る。『翻訳(トランスレーション)』スキルがあれば、そのお金で異世界アイテムを買うことも出来るらしい。

兎田山はレベル十に上がった時に『翻訳(トランスレーション)』を取得して、村で『転移石』を買い求めたそうだ。


 猫宮ねこみやは犬丸と相談して、二に決めた。親からは期待とお金をこめて渡されている。限度額まではまだまだ余裕があった。


 『転移石』がなければ前に進むにも時間がかかる。他にも便利なアイテムがあるなら、ご当地マネーはやはり必要だ。

兎田山はそれを聞くと、犬丸と猫宮の倒したスライムと『魔核』を受け取って、買いに出すと言ってくれた。


紫里ゆかりくん、優しいわ。ああいう人が案内人なら、みんな助けられてきたんでしょうね」


『転移石』を使った兎田山は一瞬でこの場から消える。

 こうしたサービスにも手馴れているように見えた。


「お嬢はどう思う、あいつをパーティにいれるの」

「紫里くんの意思を尊重したいわ。命懸けなんですもの、案内人のままで居たいと言うなら無理強いは良くないと思うの。慧士はなんだかんだ、紫里くんのこと気に入ってるのね?」

「アイツはなんか無害そうだし――俺には訳わかんねえこというけど、お嬢へ変なことは言わねぇだろ。時々キモイけど、お嬢がターゲットじゃねぇなら俺はいいと思う」


 散々な言われようだが、猫宮以外に興味を持たない犬丸としては相当例外処置なのだ。

 兎田山が変人だったこそ、受け入れられたらしい。


「じゃあ、村につくまで気長にお願いしないとね」


 犬丸はムッとして端正な顔を顰める。

「お嬢が頼むことねえ。俺がやる」

「ダメよ、パーティ組むのなら私からもお願いしないとね」


 猫宮は笑って犬丸の額をつつく。

 過保護な番犬は、いつも猫宮を甘やかそうとするので、窘めるのは猫宮の仕事だ。

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