「
「この杖ですか?金貨二枚です」
「金貨??」
「ほとんど一日歩きますが、この始まりの草原から向こうに異世界の村があるんです。そこで素材を売り続けてこの世界の貨幣で買いました」
「げっ連休とかじゃねぇと無理じゃねぇか。お前よく行ったり来たりしてんな」
「そこも魔道具ですね。『転移石』というアイテムを買って、魔力を込めると一瞬で村に転移できますよ」
兎田山は、
「そのアイテムは一人用なんですよ〜。推しに意地悪するわけないじゃないですかー!」
「つまり、紫里くんはそんな便利なアイテムがあるのにわざわざ今歩いて私たちにレクチャーしてくれてるのね?」
「と、いうか僕は新人の方を始まりの村まで案内するのを仕事にしてるんですよ。ですからお二人が村までいけるようになったら、別のメンバーとパーティ組んでくださいね」
兎田山は、食事中に近寄ってきたスライムを倒しながら水を飲む。
兎田山には『
あまり火力のないスキルを選んできているので、好きで案内人をしている。
「じゃあ、村までいったら紫里くんとお別れなの?」
「そうですね、
「お前、その杖……魔法使いじゃねえの?」
犬丸的に遠回しだが、意訳すれば「仲間になってやってもいいんだからね!」であった。
「供給過多……!ま、眩しい……!」
「やかましい」
悶える兎田山を見捨てて、犬丸もおにぎりを頬張った。食べ慣れない味だが、噛み締めると次第に疲労が軽くなる感覚がある。
ステータスを見てみると、アイテムボックスのレベルが0,五になっていた。
「あれ見て……!」
どこからともなく、白い狼が二匹、こちらを目掛けて駆けてきていた。
牙をむき出し獰猛そうな顔に、犬丸は思わずツルハシを握る力を込める。
「ホワイトウルフですね。では、ここは僕が」
射程圏内にくるまで、兎田山は魔力を杖に込めた。
ウルフ系の魔獣の中では、かなりの雑魚だが万一仕留めそこなえば、新人である推しの危険にもなる。
「
水の刃が幾重にも杖から飛んで、ホワイトウルフに襲いかかった。
反撃させる暇もなく、鋭い斬撃がウルフの首を飛ばして青い血がしとどに溢れる。
兎田山は、飛んだウルフの首の額を叩くと、『魔核』を取り出した。
「あっちゃあ、思ったより穴空けちゃいました。素材引き取りで値下げされるなぁ」
「凄いわ、紫里くん!」
「メガネてめぇ、強いじゃねえか!!」
「犬丸くんもそのうち瞬殺できるような相手ですよ。何しろ僕は始まりの草原と始まりの村の周辺でしかレベル上げしてないんですから」
経験値上げの狩場は他所にあるようだ。
猫宮は、兎田山に収納されるウルフの残像を見送った。
まだ、あんな相手を倒せるような想像は出来ない。