アイテムボックスと唱えると、犬丸の体は疲労に引っ張られた。
猫宮は草原に思わず座り込んでいる。
「ステータスで、アイテムボックスの中身を確認してください。個数が出ますので」
ウインドウを触ると、ブルースライム十個。魔核二十個。
足元には、収納しきれなかったスライムがまだ残っていた。
「なんだこれ、すげぇ疲れるな……?」
「推しの新規絵が――おっとなんでもないです。残りも頑張って収納してみてください」
スライムを倒すより、収納する方が大変だとは予想外だった。
兎田山の謎の言葉に突っ込む気力もなく、一つ一つをねじ込むが体力がこそげ落ちるような。疲労がじわじわと染み込むような体感。
その間、兎田山はスライムを狩りながらすぐにアイテムボックスにしまっていて、とても手馴れている。
せっかく手にしてる『スキル』も、当分必要無さそうだ。
猫宮が汗だくで追加で三個収納する。その汗を拭って、犬丸は水も携帯しなかった事を悔いた。
「あの五千円のお水、並んでたのはこういうわけなのね」
「エンドゲートの周りは機密厳守の為にコンビニの一つも立ってませんからねぇ。慣れてる方たちはもうあの高いの買ってますよ」
「ちっ……気づいとけば俺が荷物持ったのに」
案内人が雑すぎると思い返して忌々しい。
井戸や川がある訳でもないのだから、一言あってもいいだろう。
「案内人の方も仕事が増える一方ですからねぇ」
犬丸の思考を見抜いたように兎田山が言って、リュックから大きな水筒を取り出した。
「案内人て、あのヤクザみてーなやつだよな」
「あれ、政府の役人の方なんですよ。『スキル』のない人間でエンドゲートのこと知ってる方は役人の方だけなんで。怪しまれないように勧誘して、鑑定水晶が光らないと言い訳するのも大変らしいですよ」
「装備が高いことばかり聞かされたわ」
兎田山が水筒の予備コップに、犬丸たちの分も惜しみなく水を注いでくれる。
次いで、おにぎりを取り出した。
「水、サンキューな。次回はぜってぇじぶんで用意するわ……って納豆くさッッ!!」
「いえいえ、推しには課金していくタイプなのでお気にせずに。仕方ないじゃないですか、納豆巻きなんですから」
「紫里くんの手作りなのね。そっちはふりかけ?」
兎田山は、猫宮にどうぞとおにぎりを差し出す。
犬丸は添加物を猫宮に食べさせるジレンマと、空腹で我慢させる辛さに挟まれたが、栄養バランスは明日から考える事にした。
「なぁ、メガネ。明日は礼に俺が夜食作ってくるよ」
「ひょえっ推しの手作り……?!食べずに飾ってもいいですか?」
「食えよ、食い物飾って何になんだよ!!気持ち悪ッッ」
「え?宝物になるんですよ」
猫宮がおにぎりを食べながら笑う。普段はこうした物は禁止されているので、初のふりかけご飯である。
「慧士がこんなに仲良くなるなんて。紫里くんってすごいわ」
「仲良くなんてなってねえッッ!!」
「やめてください、僕は推しと自分は絡めたくないんです!」