目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
縄文ファッカー
縄文ファッカー
早川隆
ミステリーサスペンス
2025年04月05日
公開日
2.3万字
連載中
1万年の時を越えた悠久の謎解き物語 1万年前・縄文時代の受傷人骨をめぐる、時空を越えた人間模様と徐々に明らかになっていく謎。 第1回 千鳥涼介コンテスト(ちとコン) ミステリー部門優秀賞受賞作品 【参考文献】 「受傷人骨からみた縄文の争い」  内野那奈 「縄文人はどう生きたか」  Discover Japan 2018年9月号(特集)

第1話

モルモルポカリの丘の上、だがと・・・はウキウキ、ハミングしながら、小脇に小さな神さま抱え、まるで大地の重力が半分になったかのような足取りで歩いていました。ウキウキなのも道理も道理、だがと・・・ちゃちま・・・からたったいま、交接と結婚の同意を得てきたばかりなのです。大事に抱えた小さな神さまは、そのしるし。それはちゃちま・・・が生まれたときに練られ焼かれた分身で、それを託す相手と、自分は心も身体も (そして命も神さまも)添い遂げる、という、彼女の強い強い意思表示なのです。


これがウキウキせずにいられましょうか?この世界に男と生まれて16まわり。身体はゴツゴツと大きくなり、あちこちもしゃもしゃ黒い毛生えて、駆ければししより疾く、ぶつかれば熊をも跳ね飛ばし、潜ればわに・・より巧みに身をくねらせてどこまでも深く沈んでいくことの出来るだがと・・・にして、集落いちの美少女ちゃちま・・・を射止めることは、およそ生まれ出でし存在として最高の栄誉であり、またとこしえに続く、夜の悦楽の約束でもあったからなのです。


射止める。そう、まさにだがと・・・は、ちゃちま・・・を文字どおり (いや、この時代にまだ文字はほとんど使われておりませんが)弓矢で射止めたようなもの。だがと・・・は集落いちの弓矢の名手で、どこからどう射ても百発百中、狩をするごと見事な獲物を仕留め、おいしいおいしい高タンパクの食事を、集落のみんなに持ち帰るのです。


そして、二番目の名手がちゃちま・・・です。彼女の腕前はほぼ百発九十九中。狙いは正確ですが、かよわい女の子であるため弦を引く力が弱く、まだそんなに大きな獲物は狙えません。しかし勝気な彼女はだがと・・・に弟子入りし、日夜努力してこの地位を手に入れました。ふたりは弓矢の稽古を通して心を通わせ、そしてこのたびの結婚と相成ったわけなのです。まずはめでたし。めでたし。


さて、そんな幸せ者のだがと・・・の姿を、遠目に苦々しく眺めていた男たちの一団がありました。


みな同年代で、同じように筋骨隆々としていますが、しかしその顔はどれもみにくく歪んでいます。生まれつきそうだったのではありません。現にそのうちもっとも若いひとりの顔つきは、まあ現代の水準に照らしてもかなり整っているといえるでしょう。しかし彼らはたったいま、ちゃちま・・・が神さまをだがと・・・に渡したというバッドニュースを聞いたばかりなのです。彼らの胸のうちはたち騒ぎ、波立ち、歯の奥がぎりぎりと音を立ててきしみました。共通の嫉妬を、わざわざ言葉を発してまで共有する必要はありません。彼らは互いに目配せし、そしてその場で即断即決。そのままモルモルポカリの丘の裾野を周り込み、だがと・・・がその緩やかな稜線を、楽しげにハミングしながらかけ降って来るのを待ち受けました。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?