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終末未来に転生して新人類最初の【ママ】となった私、旧人類からは悪魔と呼ばれてしまう。 ーヘキサゴナル・ギルティ・クレイド
終末未来に転生して新人類最初の【ママ】となった私、旧人類からは悪魔と呼ばれてしまう。 ーヘキサゴナル・ギルティ・クレイド
阿澄飛鳥
SF空想科学
2025年04月04日
公開日
7.2万字
連載中
※※読む方を激しく選ぶ作品です。タグ必読です。※※

私の名前はアドニシア!

遥か未来のどこかの星に転生した記憶喪失の女!
覚えてるのは日本に住んでたっぽいことだけで、その他ぜーんぶ忘れてます!

そんな私を起こしてくれたのは機械の女の子――オートマトンたちでした。
この時代にはもうすでに人類は滅んでいて、その再生計画に私が必要らしい。

オートマトンたちのマスターとして、私に任せられたのはまさかの母親役。
新しい人類の最初の子供たちの【ママ】として、この超文明の時代を生き抜きます!

毎日、謎の悪夢に悩まされているけれど、子供たちとの生活は本当に楽しくて、もうすぐ僕を裏切ったやつを見つけ出して、ピアノを一緒に弾いたり同じ目に合わせたりして充実な日々を過ごしてる! 生活は苦しませながらけど、腕を引きちぎってたり、子供たちと足をもぎとったりしたらたぶん楽しいよね!? 全部バラバラばらにして絵を描いたりお昼寝をしたりやつらのも幸せ!を一つの残らずぐちゃぐちゃにこの先もしてやるずっと僕のすべてを私は取り返せ誰?取り返あなたは取り返せ僕取り返せ誰?取――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

……あちきたちのマスターは壊れてた。
あるじには見えない。その指先についた血も、誰かの血のついた足元も。

……私たちのマスターは壊れている。
あの人には聞こえない。その奥底から上がる怨嗟の声も、誰かの喉から響く絶望の叫喚も。

……わたくしたちのマスターは壊れていく。
あの方には言えない。その狂気に支配されていく行いも、誰かの命を塵のごとく奪う悪魔のような所業も。


……私たちは、マスターを愛している。
……私は、みんなに愛されている。
……僕は、みんなに愛されなかったのに。

第1話 取り返せ

「や、やめてよおぉぉぉ! みんな、なんで!? なんでぇぇぇ!?」


 手術台に乗せられた少年――エレンは力の限り必死に抗っていた。


 仲間だと思っていた人々に両手両足を押さえつけられながら。


 問いながらも、エレンは彼らの目的だけは理解していた。

 それは生まれつきエレンの両腕にある六角形の結晶――【ヘクス原体】を欲しがっているのだ。


「しっかり抑えておけよ! はやくやるんだ!」


 この中でもプロジェクトを導いてきたリーダーであるジョナスが言う。彼はエレンのことを息子のようだと可愛がってくれて、エレン自身も彼に全幅の信頼を置いていた。

 けれど、いつも優しい視線をくれていたはずのその目には、もうエレンへの感情など欠片も見えない。



「もう時間がない! これで腕ごと切除して! あとはクレイドルで処理する!」


 そう言うシャーロットは同い年で、同じように飛び級で大学に入学した天才の女の子だ。よく大人ぶったことを言ってエレンを子供扱いしてきたが、決して悪い子ではないと思っていた。


 そんな彼女が取り出したのは、建材切断用のプラズマカッターだった。



「わ、わるいなエレン……。お前には感謝してるが、こうするしか――」


 そう言ってエレンの右腕にプラズマカッターを押し付けるのはサイモンだ。


 ヘクスエネルギーへの耐性が高く運動神経も抜群で、数々の競技で素晴らしい成績を残したスポーツマンだ。彼にはよく研究所の庭でキャッチボールをしてもらったことがある。


 彼がその指にかけたトリガーを引いてしまったら、もうそんなことはできないのだけれど。


「メリッサあぁぁぁ! 助けてよぉぉぉ!」


 エレンは自分を押さえつける仲間の隙間から、こちらを無表情に見る女性に助けを求めた。

 虚弱体質である自分の定期健診を請け負ってくれた彼女を、エレンは母親のように慕っていた。


 けれど、彼女が発した言葉は――。


「――やって」



 バツン、と視界の端で青い光が迸る。



 束ねた鉄筋すら一射で溶断するプラズマに、エレンの細腕が耐えられるわけがない。

 激痛と共に血がエレンの頬にかかって、右半身が自由になった。理由は嫌でも理解できる。


 拘束されていた右腕が、胴体と切り離されてしまったからだ。


「ぎゃあああああああぁぁぁ! 腕えええぇぇぇ! 僕の腕がふ――……っ!」


「うるさいな! これまで君が持っててもなんの役にも立たなかったじゃないか!? なら私たちが……人類を導く私たちが有効活用するのが一番いい使い道だろう!?」


 絶望と喪失感に叫ぶエレンの口を、大きな手が塞いだ。見れば、眼鏡をかけた中年の男――スペンサーが愉快そうにこちらを見下ろしている。


 遺伝子工学の権威である彼の自慢話を聞くのが、エレンは大好きだった。

 得意分野を語る彼の顔は実に楽しげで、共に夢を追う同志だと思っていたからだ。


 ただ、それは勘違いだったのかもしれない。


 今の彼の顔は、エレンが見た中で最も楽しそうに笑っていたのだから。



「ああ……神よ。この者の魂に救いあれ……」


 祈りの声が聞こえる。

 もう片方の腕を切除される中、神父であるヴィンセントはひたすらに祈りを捧げていた。

 エレンは神様など信じていなかったが、今のヴィンセントを見ればそれが正しかったのだと確信できる。



「ヘクス原体はケースから出すなよ。劣化が進むからな」


 切り取られたエレンの両腕が、大きなケースに入れて持っていかれる。



「こいつは!?」

「リサイクル炉にでも入れておけ。どうせ助からんが……苦しんで死ぬよりいいだろう」

「くそっ重てぇなぁ! どうせ死ぬなら足も切っちまえ!」


 意識が朦朧としているエレンには、彼らの会話を理解することはできない。足を掴まれて、熱い何かを押し付けられたのだけはわかった。


 再び、あの音が鳴る。


「ギゃっ!? あああああぁぁぁぁ!」


 両足に激痛が走る。もはやエレンには自分の体を確認する勇気も力もなく、できることは悲鳴を上げることだけだ。


「ハッハッハッハッハ! さっきまでとは全然違うじゃないか! ヘクスが分離したから体の強度も落ちたんだ! やはりオリジナルのヘクスは素晴らしいな……!」

「おい、遊んでいないで行くぞ。早くそいつを捨てろ!」


 身体が乱暴に持ち上げられる。


「うあっ……ああ……」


 その頃には、エレンの中に心と呼べるものはほとんど残っていなかった。


 ずっと仲間だと思っていた人たちに裏切られ、バラバラにされて、欲しいものが取り終わればゴミのように捨てられる。


 けれど、その苦痛ももうなくなる。


 有機物を分解、再構築させる炉に入ってしまえば、痛みなど感じなくなり、この絶望も味わわなくても済むのだ。


 四肢を失った身体を放り投げられ、薄く開いた瞼から眩い光が見える。



 ――これで、終わるんだ。



 エレンにはもう、何もかもがどうでもよかった。


 自分の結末も。

 仲間たちへの恨みも。

 滅ぶ運命の人類のことも。

 その先の未来を託したプロジェクトも。


 すべてに興味を失っていた。


 しかし、その時、何かがエレンの意識に入ってきた。それは言葉を持たない。けれど、明確な意志を持っている何か。



『取り返せ』



 感じたのはただそれだけだ。


 ……エレンの身体は霧のように分解される。


 その魂だけを、最後に接触してきた何かに掬い上げられながら――。



 ◇   ◇   ◇



「うっ……」


 それは、私にとってはいつもの夢だった。


 泣いて、叫んで、助けを求めているのに、それまで仲間だと思っていた人たちに手足をもがれる夢。

 夢だというのに感じるものすべてがリアルで、炉で自分の体が分子単位にバラバラになっていく感覚まで、しっかりと思い出せる。


 千切れた手足の断面がフラッシュバックされて、私は思わず毛布の中でえづいた。血のように赤い髪を掻き乱し、苦痛に耐える。


 ――不意に、私の部屋のドアの開く音がした。


 どたどたと遠慮のない、それでいて可愛らしい足音が二人分近づいてくる。そして、予想していた通りの衝撃を私は感じた。


「ママ! 起きて!」

「ママ~!」


 この声は……アリスとベルだ。


「あ゛~。あと5分~……」


 私は酷い胸やけのような気持ち悪さを飲み込んで、寝起きの悪いふりをする。すると、二人は毛布に包まった私の体を揺さぶってきた。


「おーきーてー!」

「いーりすが呼んでるー!」


 おおかた、なんでも率先してやりたがるお姉さんのアリスに、いつも通り弟のベルがついてきたのだろう。


「朝からママに意地悪してくるのは~……誰だ!」


 私はばっと毛布を広げると、二人を毛布に引き込んでめちゃくちゃにしてやる。

 子供特有の甘い香りがして、私は小さな体を抱きしめながら転げまわった。


「きゃー!」

「わー!」


 しばらくそうやって遊んでいると、二人とも柔らかい毛布で眠気がぶり返してきたのだろう。

 だんだん静かになってきた。


 やっぱり子供は可愛い。二人の頭を撫でながら、その高い体温のせいで私も眠気が……。


「コラ、二人とも! そのまま寝るんじゃないぞ! はやく顔を洗ってくるんだぞ!」


 と、思ったら開きっぱなしの部屋のドアから少女の声が飛び込んできた。


 その声に私たちは飛び起きる。


「はぁ~い……」


 アリスとベルはこの少女に駄々をこねても無駄だとわかっているのだろう。しぶしぶベッドから降りて、部屋を出ていった。

 年長組に当たる二人はだんだんと大人になってきている。その成長に自然と頬が上がった。


 うん。いい子に育ってる。


 その背中を見送って、私は桃色の髪の少女――ティアに向き直る。


「おはよう~……ぐぇっ」


「おはようなんだぞ、あるじ!」


 挨拶すると、ティアの小さな体が胸に飛び込んできた。背の割に凹凸の激しい体を押し付けられて、内臓が圧迫される。

 さすがは重機と同じくらいのパワーを持っているらしい警備用オートマトンだ。遠慮がない。けれど、怪我の心配はなかった。私自身もまた、人間の体ではないのだから。



 私の名前はアドニシア。



 元は日本に住んでたっぽい記憶だけを残して、その他すべてを忘れた女。そして――自分を転生した人間だと思っているオートマトン。


 ここにいる本当の人間は、アリスとベルを含めた四人の子供たちだけだ。


 私はあの子たちの【ママ】をやるためだけに起こされた。



 滅亡してしまった人類を再び繁栄させるという願いのために。

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