あの日、私たちは誓い、そして私はそれを破った。
あれから歳月を重ねるごとに伸ばし続けてきた私の髪をあまり優しくない風がなびかせ、再び出会ってしまった二人の間を過ぎ去ってゆく。
「俺と、この国を出るか?」
彼は、この世界で一人ぼっちになった私に一番欲しかったものをくれた人。
「——レインくん」
一歩踏み出せば手の届く距離に彼がいる、けれどその一歩は私の望む一歩ではなくなってしまった。
きっと『あの時』私が下した決断は間違っていたのだろう、でも、もし今同じ選択を迫られたとして、私はやはり、その誓いを破るのだと思う。
「俺たちの『居場所』この世界から奪い取ろう」
これは、私と彼がこの平和な——どうしようも無く理不尽な世界で、人生を覆す大きな決意を持ってあらがった、小さな始まりの物語。
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「ルゥシフィル・リーベルシア‼︎ 無駄な抵抗はやめて止まれ!」
私は、今この瞬間人生最大のピンチを迎えており、十五歳という可愛らしさ真っ盛りの女の子が、全力逃走中という全く納得できない状況に置かれていた。
一体なぜ、私はこんなにも必死に武装した怖い顔のおじさん達から逃げているのか。
それは全て、今日起きた人生最悪の出来事に起因するのだ。
私達が暮らしている王政国家『ウォルテン』は〝魔術工学〟の発展により世界に豊かな文明社会をもたらした、この世界でも有数の大国である。
そしてこの国では、十五歳になると『天職』と呼ばれる、持って生まれた才能を開花させる儀式が行われ、この天職によって将来どんな仕事につくか、どんな人生を送るのかがほぼ決まると言っても過言では無い。
例えば『祭祀』と言う天職を授けられた人間は、傷を癒したり、病を浄化させることが出来る。
それは、天職固有の〈スキル〉を会得する事により専門性に特化した力を得られる訳で、治療院の経営や政府直轄のお仕事など引く手数多、人生の成功が約束されている。
『薬師』ならば治療薬の開発『錬成士』であれば、日常製品の生産から先進技術開発のための研究職など、この世界は、生まれ持った天職によって勝ち組と負け組が決まっている。
そして、この『天職』は大きく戦闘系と非戦闘系の二種類に分けられていた。
「追え! そっちに逃げたぞ!」
「戦闘系の学生一人が〝腕輪〟の装着を拒んで逃走中! 至急応援を!」
無我夢中で走り、こみ上げる感情を必死に押さえながら、しかし、抑えられない気持ちは言葉となってこぼれ落ちる。
「なんで、なんでこんな——私の人生は? 幸せな未来は?」
魔王? 魔物? いつのおとぎ話ですか?
戦闘系の役割? 仕事? あるわけないじゃないですか。
今この国では『犯罪』もおきません、悪い人いません。
超————平和です。