3人は街の外にある森に来ていた。当然、テツの実を取りにきたのである。
フルカはどこかウキウキしながら森の中を歩いていた。全裸だから森の中でもスイスイ歩けるのだ。フルカは、ワクワクしながら言った。
「いやー、採取依頼なんて初めてだから楽しみだな!一体どんな冒険があるのか・・・・・・」
「あんまり期待しない方がいいですよ、フルカさん。テツの実なんて、取ること自体はそんなに難しいものでもないんですから・・・・・・ほら、言ってるそばからありましたよ」
と、ルリが指差した方向を見ると、ルリの言う通り緑色の実の生っている木があった。見た目はこっちの世界でいうところのヤシの実に似た感じである。
「え?あれがそうなの?」
「ええ、あれがそうです」
「秒で見つかっちゃったじゃん」
「ええ、秒で見つかりましたね」
「いやどうすんだよ。せっかく2話に分けたのに、200文字ぐらいで目的果たしちゃったぞ?これから先どう話を転がしていくんだよ」
「2話に分けたって何ですか、知りませんよ・・・・・・とりあえずああああああとかううううううとか僕らに叫ばしといたらいいんじゃないですか?文字数は埋まりますよ」
と、そんな会話をする2人を嗜めるようにサクラが割って入った。
「ちょっと!もう見つけたからってあんまり油断しないの!ここから何かハプニングが起こるかもしれないでしょ!」
サクラはそう注意した。ルリがそれに反応して言った。
「ええ?もう実は見えてるんですよ?ここからハプニングなんか起こり得ますかね?」
「起こるかもしれないでしょ。なんか悪い予感もするし・・・・・・。ひょっとしたらここから魔族に襲われることだってありえるかもしれないわ」
「いやいや、心配しすぎですよ。こんなところに魔族なんているわけないじゃないですか。絶対にあり得ないですって」
と、ルリは笑いながら言ってテツの実を取ろうとした─────その時。
低い男の声でこう言われた。
「その実を取ってはならない」
「っ!?なんだ!?」
突然聞こえた謎の声に、3人が身構えると、テツの実の生る木の後ろから、ぬっと、怪しい男が出てきた。
黒い髪を長く垂らしてはいるが、女性らしい感じはせず、むしろ男らしい雰囲気を醸し出している。ズボンは穿いているが、上半身は裸であり、たくましいその肉体を惜しげもなく晒しているところが余計そう感じさせるのであろう。
そして、特筆すべきは、彼の目の中に独特な紋章のようなものが浮かんでいたことである。
「魔族だ・・・・・・」
「ほんとに出ちゃったよ魔族が・・・・・・」
「2人してフラグなんか立てちゃうから」
魔族が、その実を取らせまいと立ちはだかってきたのである。
これは簡単に取れそうにないぞ・・・・・・とルリとサクラはゴクリと生唾を飲み込み、フルカは相変わらず全裸で、のほほんとしているのだった。
◇
「何だ?取ってはいけないって、この実はお前にとって大事なものなのか?」
緊張感のないフルカがそう聞くと、魔族の男は腕組みをしながら答えた。
「いや?別にさほど大事というわけではない。ただ普通に人間を殺していくだけじゃつまらんから、この実を守るといことにしてゲーム性を出してみただけだ」
「何だその理由・・・・・・」
「というわけで、俺は暇つぶしにこの実を守りながら戦うから、お前ら、これを取るつもりなら俺と戦ってもらう」
「ちょっと何ですかそれ!そんな理由で死闘することになるなんて、たまったもんじゃないですよ!」
ルリは叫んだ。
「・・・・・・これはどうやら、私の出番が来たようね」
その様子を見て、サクラは緊張した面持ちでそう言った。
「い、いや何言ってるんですか!危険ですよサクラさん!冒険者でも何でもない一般人が魔族と戦うなんて─────」
「何言ってんのよ。私がもし冒険者でも何でもないただの一般人だったら、いくら採取依頼とはいえついてきたりしないわよ。足手纏いになるかもしれないのに」
「え?」
サクラはサラッとあっさり、しかし衝撃的なことを口にした。
「こう見えて、私も冒険者なのよ」
「・・・・・・え?」
「ちなみにあなたたちよりも先輩で、ランクはA級だからね?」
「・・・・・・・ええ?」
衝撃に次ぐ衝撃。
「・・・・・・まさか知らなかったの?」
「・・・・・・はい」
なんと、ここにきて衝撃的事実が発覚した。
なんと、サクラは同業者だったのである。しかもランクはフルカとルリよりも五段階も上のAランクだったのである。
ルリは完全に寝耳に水だった。
その様子を見て、サクラはやや呆れ気味に言った。
「・・・・・・いや、ほんとに一般人だと思ってて、同行を許可してたの?迂闊すぎるでしょ・・・・・・」
「・・・・・・すいません」
少し怒られた感じになって、ルリはちょっとしょげた。
「まあまあ気にするなって、ルリ。そういうこともあるよ。・・・・・・何なら全裸になるか?」
「だからなりませんって、天丼やめてください・・・・・・あのう、サクラさん」
「ん?何?」
気を取り直して、ルリは一つの提案をした。
「あの魔族の隙をついて実を取って、全速力で逃げることも出来ると思うんですが・・・・・・やってみますか?」
ルリのこの提案を、サクラは却下した。
「それも一理あるけど、この場合はダメね。現時点では相手がどんな魂技を持っているかわからないし、この場合迂闊に動くべきではないと思うわ。それに魔族を見つけた以上、必ず捕縛するか殺さなくてはならない。そのままにしておけば、魔族ってものはどんなことをしでかすかわからないからね・・・・・・。力及ばずとも、出来るだけ善戦して僅かでも敵の情報を持って帰る・・・・・・それが魔族と接敵した時の冒険者の心得よ。覚えておきなさい」
サクラは急に真剣な顔で先輩風をふかし出した。
だがルリには刺さったようで、彼は「なるほど・・・・・・」とうなずくとさすがはAランク冒険者だと尊敬の眼差しで見つめた。
サクラは、ちょっとドヤ顔をした。
「ふふ・・・・・・とにかく!そういうことだから、2人はちょっとの間あの魔族を食い止めといて!」
「はい!」
「おう!」
元気よく返事をし、2人はサクラを庇うように彼女の前に立つ。
「私はその間変身するから!」
「はい!・・・・・え?変身?」
「変身!」
「はっ?」
そう叫ぶと、サクラは光に包まれた。
キラキラキラ・・・・・・。
「な、何?変身?ええ?」
「おっ!今一瞬全裸になったぞ!おい!」
「全裸にはしゃがないで下さい!ただでさえ混乱してるんですから!」
そして、光が収まったあとには、某ニチアサアニメ風の衣装に身を包んだサクラが立っていた。
「ほう・・・・・・それが貴様の魂技というわけか」
魔族が言う。サクラは答えた。
「ええ、そうよ。これが私の魂技・・・・・・そう!魂技、『魔法少女 スター・レイン』!その名の通り、魔法少女に変身できる能力よ!」
「・・・・・・何だその能力!?」
「ほほう、魔法少女か・・・・・・相手にとって不足なし!」
魔族はそう言って、腕組みを解き、片手を前に出して初めて何か攻撃するらしい姿勢を見せた。
「フルカ、ルリくん、2人は下がってなさい。ここは私が戦うわ」
ステッキを握りしめ、サクラは2人にそう言った。2人は、素直に言うことを聞いて、下がりながら会話した。
「いやー、すごいな。トップ以外にも変身系の魂技を持ってる奴がいたんだな」
「2人合わせてニチアサ組ですね」
フルカとルリのやや緊張感のない会話をよそに、魔族は
「ではゆくぞ!」
といよいよ自身の魂技を起動させた。
直後、急に辺りを風が吹き始め────
「『風刃』!」
風の刃が飛んできたのである。
「うおっ、何だ!?」
「ッ!『レインシールド』!」
サクラが咄嗟にシールドを出すが、風の刃はそのシールドを容易く割ってしまった。
「なっ!」
風の刃はサクラの頬を掠め、後ろの木々を薙ぎ倒していった。
驚愕するサクラに向かって魔族は言った。
「どうだ。これが俺の魂技・・・・・・『操風』!その名の通り、風を操る能力だ!」
辺りは一転して緊迫した空気に包まれる。サクラは、冷や汗を流した。
「これは・・・・・・けっこうキツい戦いになりそうね」
フルカとルリは、そんなサクラへ向かって心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか?サクラさん」
「大丈夫か?何か私に手伝えることがあったらなんでも言ってくれ!」
「ありがとう。でも大丈夫よ。まだまだ新人に遅れは取らないわ」
そして、サクラは手に持つステッキを魔族の男の方へ向けると、
「ここは私の必殺技、『スター☆弾丸』でぶっ倒してあげるわ!」
「・・・・・・魔法少女よ。さっきから気になっていたんだが、そういう名前とかは自分で考えるのか?」
「いや最初からそういう風に決まってるのよ・・・・・・何?何か文句でもあるの?」
「いや・・・・・・」
ややダサいネーミングのことはともかく。
「喰らいなさい!私の華麗なる必殺技!『スター☆弾丸』!」
サクラの言葉とともに、ドキュンドキュンドキュンとステッキから星形の弾丸が飛び出して、魔族の男へと迫った。
しかし、それは魔族の彼には当たらない。
彼の『風』に吹き飛ばされて、弾丸がどこかへ飛んでいってしまったのである。
「なっ!?」
「悪いな、魔法少女よ。どうやらそれは俺には通じないようだ」
「くっ・・・・・」
サクラは悔しそうな表情をして、こう言った。
「こうなったら、私の超必殺技、『マジカル☆スターレインシャワー』で片をつけるしかないみたいね・・・・・・」
「・・・・・・何ですかそれ」
「その名の通り、マジカルな星と雨のシャワーよ。あれは物理的なものじゃなくて、マジカルなものだから風で吹き飛ばすこともできないはずよ」
「そう・・・・・・なんですか?まあサクラさんがそう言うならそうなんですかね・・・・・・」
「でも、あれを使うにはまだパワーが足りない・・・・・・」
「はあ・・・・・・」
「友情パワーが足りない!」
「は?」
「この魔法少女状態で何か技を使うには友情パワーが必要なのよ!誰かと仲良くして得られるパワー!それが友情パワー!それが足りない!」
「はあ、そうなんですか・・・・・・」
「ちなみに、仲良くしてパワーが得られるのは異性じゃダメで同性限定ね!」
「はあ・・・・・・」
ルリはだいぶ困惑した。
「いや、なんなんですかその能力・・・・・・」
「仕方ないでしょ!そういう能力なんだから!」
「そういう能力っていえば何でも許されると思ってません?あと同性限定ってところになんか露骨な媚びを感じる・・・・・・」
ルリはそうツッコみつつ、でも・・・・・・と真剣な表情をして言った。
「でも、女の子同士が仲良くしてる姿を見れるって言うのはいいですね」
「ルリくん?」
「僕そういうの好きなんですよ。そういう能力なんだから仕方ない・・・・・・確かにそうです。いいですね。露骨な媚びにも目を瞑ってあげますよ。だからぜひやりましょう」
「ルリくん?あなたツッコミよね?」
「幸いにもここにはフルカさんがいます。仲良くする相手が全裸っていうのがちょっとアレですが、この際もうなんでもいいです」
ルリはフルカをサクラの前に押し出して言った。
「さ、思う存分仲良くしてください。そうですね・・・・・・2人で一緒にお出かけなんていいんじゃないですか?そうと決まれば早速行きましょう。早速!僕は邪魔せず遠巻きに見てますから!」
「い、いやええ?お出かけって・・・・・・そんなの、あの魔族が黙って見てるわけ─────」
と、サクラがちらっと魔族の方を見ると、魔族はいつの間にか攻撃の姿勢をやめ、普通に腕組みをしていた。
「あれ?普通に静観しようとしてる・・・・・・」
「別に俺は女子同士が仲良くしてるところを見たいわけではない。ただ相手が全力を出せる状態でないとフェアじゃないと思っただけだ。全力の相手と戦いたいと思うのは戦士として当然のことだからな、うん」
「めちゃくちゃな早口!」
大丈夫そうなので、フルカとサクラは2人で街へお出かけした。
◇
服屋
「これからの時代は全裸なのよ!全裸なのよー!」
「やめてください店長!マネキンを全裸にしようとしないでください!」
レストラン
「本当に申し訳ありません!お客様にスープを被せてしまうなんて・・・・・・」
「いや大丈夫よ。幸いどこも火傷しなかったみたいだし・・・・・・」
「全裸の友情パワーだ!」
「は?」
「全裸の友情パワーだ!全裸の友情パワーがサクラを守ってくれたんだよ!」
「全裸の友情パワーって何よ!?」
ケーキ屋
「全裸のケーキはないか?」
「何それ?」
「こっ、これはパティシエたる俺への挑戦状────!?」
「いや違うから」
と、まあフルカとサクラのお出かけはこんな感じであった。
「・・・・・・いや私が言うのもなんだけどさ、本当にこの展開必要だった?」
サクラは今日一日を総括してこうツッコみながら、街の外にある、森の中の湖に映る星空を見ていた。フルカが近くで目を覚ましたという、例の湖である。
ここら辺に人工物といえば、湖の近くに立つ、英雄『天頂挽歌』ナイトヤシュターの碑と墓石があるばかりで、だから静けさを楽しむことが出来た。星空も澄んでいた。ひんやりとした空気も、どこか清らかに感じた。
そんな雰囲気の中、フルカはサクラに向かってこう言った。
「でもさ、私は楽しかったぜ。サクラと一緒にお出かけ出来てさ・・・・・・」
そう言って、フルカは笑いかけた。
「え?いやなんかいい話風の雰囲気にして締めようとしてない?」
そしてこの様子を木の陰から見ていた男たちが2人。
「おおー・・・・・・いいな。女の子2人が仲良くしているのを見るというのは。なんかこう、なんかこう・・・・・・いいな!」
「いいですよねこういうの!僕ら人間の間ではこういうのを百合って言うんですよ!」
「ほう百合か・・・・・・いい名前だ。この感情にピッタリくる」
ルリと風の魔族である。この2人にはどうやらフルカとサクラの関係は百合に見えたらしい。客観的には百合ではなくボケとツッコミにしか見えなかったが。
と、魔族とルリが和気藹々としていると、急にサクラがその方向へぐるりと首を振り向けた。
「さてと・・・・・・とにかく、これで友情パワーは満タンになったわ」
「えっ?あっ?ちょ────」
「喰らいなさい!私の必殺技!『マジカル☆スターレインシャワー』!」
こうして、風の魔族はマジカルな星と雨のシャワーを浴びた。
そして、サクラの前に倒れ伏すこととなったのであった。
「ふう、これで一件落ちゃ────」
く、と言おうとしたサクラの言葉を遮り、魔族に駆け寄って助け起こす者がいた。
「風の魔族さん!」
ルリである。
「ル、ルリ・・・・・・どうやら俺の、敗北のようだ・・・・・・」
「魔族さん・・・・・・!百合に気を取られて油断するから・・・・・・!」
「いいんだ。こんなにいいものを見れて、そして、死んでゆけるなら、本望だ・・・・・・・」
「魔族さん・・・・・・!」
「ふふふ・・・・・・百合というのは、尊い、ものだな・・・・・・!」
「風の魔族さーん!!!」
フルカとサクラはそれをただただ困惑して見ていた。
「・・・・・・いや何これ?」
「わかんねえ」
「僕は忘れません。魔族の中にも、あなたのような人がいたことを・・・・・・」
◇
なんやかんやで、テツの実は無事に手に入った。
「よかったわねえ、魔族に出会ったのに無事帰ることが出来て・・・・・・」
「いや、無事っていうか、なんかカオスな展開に巻き込まれたけど・・・・・・」
「私は楽しかったぜ!」
「僕もなんだかんだで楽しかったです」
「そりゃあ、あんだけはしゃげばね」
と、そこへコックが駆け込んできた。
「大変です!」
「まあどうしたの、レンさん」
レンというのはこのコックの名前である。
「問題が発生しました!」
そのレンさんに何が起きたのか聞けば、テツの実の果皮が硬すぎて、中にある果肉及び果汁を取り出せないのだという。
「そういえば、テツの実の果皮はめちゃくちゃ硬いんで有名でしたね。すっかり忘れてました」
ルリの言葉に、コックも頷いて言った。
「そうなんです。この果皮を割るには専用の器具が必要なんですけど、新鮮な実を手に入れることに気を取られて、それの用意をすっかり忘れてました・・・・・・!」
「あらあら」
「あらあらじゃないってしっちゃん!どうするの!?これじゃ試作も出来ないし、肝心の子爵様にお出しすることだって出来なくなるんじゃ・・・・・・!」
と、サクラとコックが狼狽している横で。
フルカが何気なく言った。
「割れたぞ?」
「はっ?」
驚いたサクラがフルカの手元を覗き込むと、普通に割れていた。
「えっ・・・・・・はあ!?あんた、テツの実素手で割ったの!?」
「ああ、全裸だから・・・・・・いや、全裸の友情パワーがあったからだな!」
「だからなんなのよ全裸の友情パワーって!?」
と、それを聞いていたシスタはあらあらと、テツの実を一つ取ってこう言った。
「今の新人冒険者でもテツの実を割れる人がいるのね」
そして、テツの実をパカっと二つに割った。
「実は私も割れるのよ」
「・・・・・・はっ!?」
「え!?」
「何で!?全裸じゃないのに!?」
「全裸は関係ないですよ、フルカさん」
フルカにツッコむルリに、サクラがさらにツッコんだ。
「あんだけはしゃいどいてよくしれっとツッコミに戻れるわよね、ルリくん・・・・・・」
そしてルリにツッコんだあと、思い出したように言った。
「そうそうしっちゃんはこう見えても元騎士志望なのよ。だからテツの実も素手で割れるんだった。レンさんに釣られて慌てちゃって、つい頭から抜け落ちてたわ・・・・・・」
「もー、サクラちゃんたら」
ルリはその様子を見て言った。
「ずっと思ってて口に出さずにいたんですけど・・・・・・サクラさんとシスタさんの関係性、なんかいいですよね。なんていうか、すごくグッときます」
「うん。ずっと心に留めておいて欲しかったわ」
「あらあら・・・・・・」
さて、こうして無事にフルカとルリは依頼を達成でき、孤児院は無事子爵様を歓迎できた。例のテツの実のジュースは大変好評だったということだ。
こうして、テツの実事件は幕を閉じたのであった。