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第10話 全裸と魔法少女①

「どうする?何受けようか?」


「そうですね、何にしましょうか・・・・・・」


 フルカとルリは2人で冒険者ギルドの掲示板を見上げていた。


 フルカは相変わらず荒々しい雰囲気の赤い髪を垂らし、全裸で、一方のルリは革鎧に武器屋で安く売られてた剣を腰につける、まさに駆け出し冒険者という格好をしていた。


「しかし、こうして冒険者ギルドに来て依頼を受けるのも久しぶりですねー」


「え?いやいやそんなことないだろ。こないだだってギルド来て全体依頼受けたじゃねえか」


「あれ?そういやそうですね・・・・・・何ですかね、なぜかここ4話ほど出番がなかったような気がして・・・・・・」


「4話?なに言ってんだお前は。体調でも悪いんじゃねえのか?」


「いや大丈夫ですよ。ちょっと頭がボーっとしただけで─────」


「ちょっと全裸になってみるか?」


「ならねえです・・・・・・」


 さて、そんなやり取りをして、2人はまた依頼を選ぶことに戻る。


 掲示板の依頼書を見ながら、2人はまだ会話を続けた。


「しかし、昨日は大変でしたねー・・・・・・」


「そうだなー・・・・・・」


 実は昨日、というか全体依頼を受けてからの間ずっと、フルカとルリも例の連続行方不明事件の犯人を探していたのだ。


 探していはいた。探してはいた、のだが・・・・・・


「まさかその途中で魔族に出くわすとは思わなかったですね・・・・・・」


「そうだな・・・・・・」


 そう、フルカとルリは行方不明事件の犯人捜査中、街中に送り込まれた魔族の女性に出くわして、そいつとの戦闘になっていたのである。


 しかも、どういう流れからそうなったのか。


『もう許せないデース!こうなったら、ダンスバトルで勝負デース!』


 と、何故かダンスバトルをすることになったのである・・・・・・・。


「ってなぜダンスバトルを!?自分らのことながら、ほんとどーいう流れでそうなったんだ!?」


「今となっては思い出せねえな・・・・・・・その場のノリってのは恐ろしいもんだ」


 それで、集まってきた野次馬から3人を選んで審査員とし、ダンスバトルを繰り広げたのだが、やはり全裸だから(?)フルカのダンスの方が審査員の評価が良く、それに危機感覚えた魔族も服を脱ぎ始め、それを見た通りすがりの踊り子もなぜか服を脱いで参戦し・・・・・・。


「なかなかにカオスな状況でしたね、あれは・・・・・・」


「そうか?私はけっこう楽しかったぞ!」


「いやそりゃ当事者からすれば楽しかったでしょうけども!客観的に見ればあれはサバト以外の何物でもなかったですよ!」


 通りすがりの異世界人・伊勢海斗(いせかいと)16歳の『うわあ、なんかエロMMDみたいなことやってる・・・・・・』というセリフが忘れられない。


 さて、掲示板の依頼を眺めていると、あっとルリが声を上げた。


「あっ、これなんていいんじゃないんですか?」


「おっ、どれどれ?」


 ルリが指差した依頼書をフルカも見てみる。それはEランクの掲示板に張られていた。フルカは一つランクが上がったのである。EランクとFランクではあんまり変わりはないが、それでも一歩前進である。


 フルカはルリが指差した依頼書を読み上げた。


「・・・・・・テツの実の採取依頼?」


「そうです。なかなか良さそうな依頼じゃないですか?報酬もけっこう高いですし・・・・・・」


「報酬とかはよくわからんが、でも良さそうだな!木の実の採取なんてなかなか面白そうだ!」


「いやそこまで面白くはないと思いますけど・・・・・・まあいいや。受けましょう」


 と、いうことで、今回フルカとルリの2人は採取依頼を受けることになったのだ。


 ◇


「えーと・・・・・・ここか?」


「ここ・・・・・・みたいですね」


 フルカとルリは依頼書に書かれたところまで来ていた。


「合ってるよな?」


「はい合ってます」


「ところで・・・・・・ここはなんなんだ?」


「ここは孤児院です。教会が運営している孤児院ですよ」


「おー!あの教会がやってるとこか」


 どうやらテツの実とやらの採取依頼を出したのはこの孤児院だったようである。フルカはその孤児院を見上げた。


 ちゃんと貴族などから支援をしてもらっているのだろう。二階建てでけっこう広そうである。壁も汚れたりボロボロだったりしておらず、ちゃんと綺麗で清潔感がある。屋根の下、二階の窓の上の正面の壁には、この世界の宗教、アフラ・マズダ教の象徴である火をモチーフとした意匠が浮き彫りになっていた。


 フルカとルリは門を潜って孤児院の玄関前まで来た。


「すいませーん!依頼を受けに来たんですけどー!」


 ドアノッカーを使いながらルリが大声で言うと、しばらくして「はいはーい」と答えがして、こちらに向かってくる物音がした。


 ガチャっとドアを開けて出てきたのは、ピンクの長髪の、シスター服を着た女性と、その女性が押す車椅子に座る、同じくシスター服を着て銀髪の、瞑目した女性だった。


「はいはい、ごめんなさい。お待たせしました。何か御用で─────」


 すか、とピンク髪の女性は言い切ろうとして、2人を見て固まった。


「・・・・・・?どうしました?」


 ルリがその様子を不思議に思って声をかけると、固まっていた女性は再起動してこう言った。


「あ・・・・・」


「あ?」


「あああああああ!なんか露出狂の変態がいるうー!!」


 ピンク髪の女性はフルカを指差して叫んだ。


 釣られて、ルリは横にいるフルカを見た。


 全裸だった。


 横で何のことやらわかってない顔をしているフルカは、紛うことなき全裸であった。


 ・・・・・・・・


「・・・・・・あああしまった!最近見慣れすぎて忘れてたけど、そういえばこの人全裸なんだったんだ!!」


 そう、ルリは早くもフルカの格好に慣れてしまい、うっかり全裸であるということを忘れて何の対策もせずに来てしまったのである。


 つまり、相手からすると玄関を開けたらニコニコ微笑む全裸がいたという状況な訳で・・・・・・どういうホラーなんだそれは。


 そのことに気づいたルリは頭を抱えながら叫んだ。


「しまった!忘れていた!・・・・・・全裸を見たら人は普通驚く!そんな当たり前のことも、僕は忘れていた!」


「なんか曲の歌詞みてえだな?」


「ちょ、フルカさんは黙っててください!」


「えーっと・・・・・・よくわかんないけどとりあえず衛兵に通報していい?子供の教育に悪いから・・・・・・」


「あっ、やめてくださいすいません!通報しないでください!・・・・・・あの、ここにいるフルカさんはこんな格好をしておりますが、変態の露出狂というわけではなくてですね・・・・・・だから、通報しないでいただけると・・・・・・」


「いや・・・・・・露出狂じゃなくても全裸な時点で通報案件だからね?」


「ごもっともで・・・・・」


 ぐうの音も出なかった。


 ルリがどう切り抜けようかと必死に頭を回転させていると、車椅子に座っているもう1人の女性が声を上げた。


「あの・・・・・サクラちゃん?一体なにが起きてるのか聞いてもいいかしら?」


「あっ、そうだよね!ごめんごめんしっちゃん!今説明するね!」


 ルリはしっちゃんと呼ばれたその女性を見た。ずっと瞑目していて、今なにが起きているのかよくわかっていないようで、困惑した表情をしている。


 と、銀髪、瞑目、シスター服、車椅子というその女性の特徴を見て、ルリは思い出した。


(そういえば・・・・・・姉さんから聞いたことがあるな。この街の孤児院の院長さんは生まれつき目の不自由な方で、しかも昔魔族のせいで足が動かなくなって、車椅子を使ってると・・・・・・そうかこの人が・・・・・・)


 姉の話から推測するに、この人がこの孤児院の院長ということなのだろう。だからフルカの格好を見ても驚かなかったのだ。


 そしてピンク髪の女性────サクラと呼ばれた女性は、今の状況を院長へ説明した。


「聞いてよ!玄関開けたらお客さんが全裸だったの!」


 改めて言葉にするとカオスな状況である。


 院長はそんなサクラの説明を頷きながら聞いていた。


 ヤバい、これは2人がかりで子供の教育に悪いと怒られて通報されるオチだ。ルリはそう覚悟したが、院長は意外にも驚くことなく朗らかに言った。


「まあ全裸!涼しそうでいいわね!」


 この街の人たちって、みんな全裸に対する順応力高すぎじゃないのか。


「い、いや涼しそうとかそういう問題じゃないよ、しっちゃん!全裸だよ!?全裸!大体この時期に全裸は涼しいとかそういうレベルじゃないよ!凍死するよ!」


「そうかしら?でもまあいいじゃない。全裸でも」


「よくないよ!」


 そのやり取りを見て、どうやらこれはすぐに通報されることはなさそうだな安心したルリは、この機を逃すまいとすかさず、こちらの話を聞いてくれそうな院長にこう言った。


「あの、すいません。僕らテツの実の採取依頼を受けてきた冒険者なんですけど・・・・・・」


 すると院長はぱっと笑顔を浮かべて言った。


「あら!あなたたちがあの依頼を受けてくださったの!まあまあまあまあ、こんなに早く・・・・・・嬉しいわ。じゃあ早速取ってきていただこうかしら」


 ルリはその言葉を聞いて、これはどうやら話が拗れることなく依頼を受けることが出来そうだぞ・・・・・・と、そう思った束の間。


 サクラから物言いが入った。


「ちょっと待ってよ!」


「どうしたの、サクラちゃん」


「テツの実の採取依頼って・・・・・・まさかジュースに使うテツの実のこと!?あれをギルドに依頼として出したの!?」


「ええ、そうよ」


「ちょっと!あんなの依頼として出すほどのこともなかったじゃない!あんな簡単なこと、他の冒険者に頼むまでもなく、私がちょっと行って取ってきた方が断然早いのに!そしたらお金もかからないじゃない!何でわざわざお金をかけてまでギルドに依頼なんか─────」


 サクラはどうやらこの件については初耳で、しかも納得がいっていないらしく、院長に向かって猛抗議を始めた。


 しかし、院長は抗議をするサクラに向かって諭すように言った。


「まあ確かに、サクラちゃんが行った方が早いかもしれないし、お金もかからないとは思うけどね」


「そうよね!?だったら────」


「けど、やっぱりこういう簡単な仕事は自分たちで済ませることなく、むしろ積極的に冒険者ギルドに依頼として出した方がいいのよ。そうすれば、新人冒険者さんにも仕事が回っていくでしょ?こういうのをギルドに出していけば、新人冒険者さんたちが自分たちにとってちょうどいい、簡単な仕事を受けることが出来るじゃない。私たちで済ませてしまったら、その機会を一つ奪うことになるわ。だからこういうのは、たとえ自分たちでやれることだとしても、私としては出来るだけギルドに依頼を回していきたいの。その方が、新人冒険者さんのためになると思うのよ」


「ぐ・・・・・・」


 サクラは、院長のこの言葉にぐうの音も出ないようだった。


「で、でも、今回に限っては話が違うじゃない!簡単な仕事だとしても、今回に限ってこの仕事は超重要で超大事なことなのよ!?それをこんな得体の知れない全裸なんかに!」


「サクラちゃん。人を見た目で判断してはいけませんよ。それに、この方は全裸は全裸でも悪なる全裸ではありません。この方は聖なる全裸です。私にはわかります」


「聖なる全裸って何よ聖なる全裸って・・・・・・」


 と、この2人の会話をオロオロしながら黙って聞いていることしか出来なかったフルカとルリの2人であったが、ここでルリにふと一つの疑問が浮かんできたので、ルリはおずおずと手を挙げて、この2人の会話に割って入って質問した。


「あの・・・・・・」


「何よ!」


「す、すいません。あの、今回に限ってこの仕事は超重要で超大事って・・・・・・どういうことですか?」


「ああ、そのことね。そう、この仕事は何でもないことのように見えるけど、今回に限っては超重要で大事なことが絡んでいるのよ!」


「実はねえ、この孤児院に支援してくれてる子爵様が、伯爵様に会いに行くついでにこの孤児院に立ち寄ってくださるらしいのよ。それでこの孤児院で、子爵様に昼食を供させていただくことになったの。調べたところ、子爵様の好物はテツの実でいらっしゃるらしいから、テツの実でジュースを作ろうということになったのよ」


「子爵様にお出しするものだから、やっぱり市販の物じゃなく、自分たちで取ってきた出来るだけ新鮮な果汁を使おうってわけ!」


「なるほど・・・・・・」


「だから、そんな大事なものを得体の知れない新人冒険者なんかに任せるわけにはいかないのよ!しかもこんな怪しい全裸なんかに!」


 なるほど。これはサクラと院長、どちらの言い分にも一理ある、難しい問題だ。


 テツの実の採取依頼。これは簡単な仕事ではあるが、どれだけ簡単なことでも、万が一にも失敗の可能性がある限り、杞憂かも知れないが、よくわからない新人冒険者に任せるより自分でやりたいという気持ちはわかる。


「大丈夫よ。子爵様はお優しいお方だし、もし採取失敗で市販品を使って、味が落ちるようなことがあっても気になさらないでしょう」


 院長がそう諭すが


「子爵様が気になさらなくても私が気にするのよ!やっぱり日頃お世話になってるから、より良いものを子爵様にお出ししたいの!」


 と、サクラは譲らない。


 どうしたらいいんだろう・・・・・・とルリが迷っていると、サクラはこう宣言した。


「だから、私がついていくわ!」


「・・・・・・え?」


「だ・か・ら!私がついていくわ!私は出来る限り手を出さないで2人に任せるし、報酬はちゃんと依頼書に書いてある通りに出す!そのかわりもし予想外のハプニングが起こって依頼が失敗しそうになったら私が手助けする!それで決まり!決まりね!」


 サクラはそう宣言した。ルリは多少困惑しながらも、それが一番丸く収まりそうだと思って承諾した。


「え、ええ、僕としてはそれで異存はないですけど・・・・・・」


「ん?なんだ?結局そのサクラとかいう奴がついてくることになったのか?」


「ええ、そうどうやらそうみたいね。サクラちゃん、言い出したら聞かないから・・・・・・ごめんなさいね、こんなことになってしまって」


「全然いいぜ!人数は多い方が楽しいからな!」


 と、いうことで、フルカとルリの2人はサクラというこの孤児院所属のシスターと共に採取依頼を受けることになったのであった。


 ・・・・・・・・


「あっ、そういえば、自己紹介がまだだったわね」


「あっ、そういえばそうでしたね。僕の名前はルリで、こっちの全裸の人が・・・・・・」


「フルカだ!よろしくな!」


「そうルリと、フルカね・・・・・・なるほど。今度はこっちの番ね。私の名前はサクラ!この孤児院所属のシスター、サクラ・ピンクピーチよ!」


「何その名前・・・・・・」


「次は私の番ですね。私はこの孤児院の院長の、シスタ・シスターと言います」


「うわあ、すっごくシスターやってそうな名前ですね」


 こうしてお互いに自己紹介を済ませたあと、フルカ、ルリ、サクラの三人はテツの実が取れるという森へと向かったのであった。

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