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番外編 全裸と冒険者試験

 ここで少し過去へと遡って、フルカの受けた冒険者試験の話をしよう。


 ◇


「フルカさんは大丈夫なんですかね・・・・・・」


 ルリはこのギルドの地下にある試験場兼闘技場の観客席に座って、1人やきもきしていた。


 この試験場兼闘技場は、こっちの世界で言うところのローマのコロッセオと似た造りになっている。真ん中に試験や戦闘等をするための場所があって、その周りをぐるりと観客席が囲んであり、真ん中へ近くなるほど観客席が下がっていくというあの感じである。


 観客席があることからもわかると思うが、ここで行われる冒険者試験は大体公開されて、誰でも見れるようになっている。それは娯楽の少ない大衆へそれを提供するという側面ももちろんあるのだが、それだけでなく試験官の不正防止という実用的な側面も実はあったりする。


 ルリが全体を見回すと、観客席はほぼ満席になっていた。あの時ギルドでパスタ投げ少女との戦いを見ていた野次馬たちが、こっちへ移動してきたのだ。その中には冒険者だけでなく、ギルドに依頼を出しに来た商人なども含まれていた。忙しいだろうに、やっぱりそれだけフルカという人物は強烈な印象を与えたのだろう。


 さて、観客たちが言葉を交わしながら、ザワザワとした喧騒を醸していると、やがてギルドからここへと通じる扉から、バーンとやや露出度高めの派手な服装をした司会者の女性が紙吹雪つきで登場した。


「よっ!待ってました!」


「唯一無二の名司会者!」


 客席から、さっきまでギルドに併設された酒場でしこたま呑んでいた、暇な冒険者がそう声をかけると、司会者は手を上げて答えた。


 司会者は階段を降りていき、やがて一番下まで降りてくると一番真ん中のところに立ちバッと手をあげて叫んだ。


「レディースアンドジェントルマン!大変お待たせ致しました!冒険者試験、ただいま開幕です!」


 この闘技場兼試験場を文字通り揺るがす、大きな歓声がワーっと爆発のように響いた。


「早速ですが試験官と受験者に入場していただきましょう!まずは赤コーナーから!」


「試験に赤コーナーとかないだろ」


「赤コーナー!本日の試験官、S級冒険者『雨降り』のケンゾウ・アシドの一番弟子にして、A級冒険者!『傘持ち』のトップ・トライセラ!」


 司会者の紹介とともに現れたのは、いかにも『冒険者』といった格好をした、筋骨隆々の厳つい男だった。


 司会者の紹介を聞いたモブは、こんな会話を取り交わした。


「マジか、あのケンゾウさんの一番弟子?」


「なんだ、お前知らなかったのか?けっこう有名だぞ、何せ全冒険者の中でも2人しかいないS級冒険者のうちの1人、『雨降り』のケンゾウさんの一番弟子なんだからな。まあもっともあの人の弟子は現状1人しかいないから、一番弟子も何もないけどな・・・・・・。でも、ま、実際かなり強いよ、あのトップさんって人は」


「なるほど、そんな人にあたっちまうなんて、あの全裸の嬢ちゃんも運がなかったな・・・・・・」


 以上、解説モブによる解説でした。


「やばいな。かなり厳しそうな人にあたっちゃったぞ。これフルカさん大丈夫かな・・・・・・」


 モブの話を聞いたルリは観客席で、そう心配の呟きを漏らした。話を聞く限り、そう簡単には合格をくれなそうな雰囲気なのである。それにあの格好だし・・・・・・冒険者としての資格があるかどうかより、公然わいせつで普通に落とされそうな気もする。


「それでは青コーナー!先ほどはギルド内で絡んできたC級冒険者を圧倒!パスタを折った全裸少女、冒険者志望のフルカだあああああああ!!」


 ウワーッという歓声とともに、フルカが、もちろん全裸で登場してくる。


「出たーっ!!なんで全裸なんだ嬢ちゃん!」


「イタリア人には気をつけろよーっ!!」


 観衆の様子を見る限り、全裸であるフルカに対して多少の困惑はあるものの、なんだかんだでみんな受け入れてくれてるようである。順応力が高すぎる。


 歓声が少し収まるのを待って、司会者はまずこの冒険者試験の説明をした。


「それではこの試験のルールを説明します!と、言っても、そこまで複雑で難しいルールなんかはありません!ただ、試験官と戦って行動不能に出来るか、試験官から『合格』という言葉を引き出すことが出来ればそれでOK!合格です!晴れて冒険者となることができます!」


 司会者がそこで一旦言葉を切ると、観客はウオーっと無意味に歓声を上げた。


「そして戦いに関しては・・・・・・ルール無用!なんでもありの本格戦闘です!本番の戦闘ではルールなんてものはないですからね!試験官の買収とか、よっぽど倫理道徳に悖るようなことで無ければありとなっております!どうぞ存分に腕を振るってください!」


「うおおおおおお!やれーっ!!やっちまえーっ!!」


「およそ試験とは思えない歓声だな・・・・・・」


「あっ、ちなみに、本格戦闘なんてしたら危ないじゃないかと言われるでしょうが、ご安心ください!この会場全体には魂技による特殊な結界がはってありますので、致命傷は避けられます!ご安心ください!」


「出たー!結界!致命傷を避ける結界!いよっ!なろう系の十八番!異世界モノ十種の神器!」


「ご都合主義ー!」


「肩にちっちゃいご都合のせてんのかい!」


「・・・・・・・なんか今ボディビルの掛け声みたいなの聞こえたなかったか?」


「さーてそれでは行きますよー・・・・・・お互い準備はいいですかー?いいですかー・・・・・・?はい!それでは試験、スタートです!」


 司会者の声とともに試験が始まり、戦闘が開始されたわけだが・・・・・・。


「ドラララララララ─────ッ!」


「うわーっ!?なんだコイツ!強い!普通に強い!・・・・・・え?めちゃくちゃ強くね!?ちょ、待って待って!」


「待たねえ!全裸だから!」


「意味わからん意味わからん!」


 普通にフルカが圧倒した。全裸だから。


「すごい・・・・・・完全に全裸ワンサイドゲームになってる・・・・・・」


 その様子を見ていたルリは、感嘆の声を漏らした。あのA級冒険者を圧倒しているのである。他の観客も、「いいぞー!」とか「やっちまえー!」とか声を飛ばしている。意外なフルカの活躍に観衆も興奮しているようである。


 さて、一方で焦っていたのは試験官のトップ・トライセラである。フルカの猛攻を剣でなんとか凌ぎながら、めちゃくちゃに焦っていた。


(いかん!俺がこのままなすすべもなく一介の冒険者志望なんかに負けてしまっては、師匠であるケンゾウ兄貴の顔に泥を塗ってしまう!それだけはなんとか避けなければいけない!)


 そう思ったトップは、フルカの猛攻をいなしながら、地面を蹴って後ろに飛ぶことでフルカから距離を取った。


「お・・・・・・?」


 これにはフルカも一旦攻撃の手を止めて様子見の姿勢。


 不思議そうに見るフルカに対して、トップは手のひらを向けてこう言った。


「・・・・・・・一旦待ってくれ」


「おう待つぜ!」


「待つのかよ!」


 言われた通りちゃんと待つフルカに、ルリが遠くからツッコむ。


「ふふふふ・・・・・・今からお前に見せてやるぞ・・・・・・ケンゾウ兄貴の弟子、トップ・トライセラの力をな!」


 トップはそう叫ぶと某仮面ライダーの変身ポーズをとった。


「こっ、これは!某仮面ライダーの変身ポーズ!」


 トップがそのポーズをすると、会場の中には何か、言い知れぬ気配が満ちてきた。


「なんだ・・・・・・!?これは、何が起ころうとしているんだ!?」


「知らんのかお前!トップさんがあのポーズをとったってことは─────」


「とったってことは!?」


「発動する気ってことだ・・・・・・!見れるぞ、トップさんの『魂技』が・・・・・・!」


 トップはそのポーズのまま、


「変身!」


 と一声叫ぶと、カッと眩い光に包まれた。


「うおっ、まぶし!」


「なんだなんだどうなってんだ!?」


 そして光が収まった時には、トップは某ニチアサの仮面ヒーローのような黒いスーツに包まれていた。トリケラトプスを彷彿とさせるデザインで、顔のところにはトリケラトプスのようなツノが三本立っていた。


「ほう・・・・・・それがお前の、『魂技』ってやつなのか?」


 フルカは目を細めて言った。


「ああそうだ。これが俺の魂技・・・・・・!その名も、『仮面ヒーロー・トリケラ』!仮面ヒーローに変身できる能力!」


 トップはそうドヤ顔で言い放った。


「・・・・・・なんだその能力?」


 それを聞いてルリは冷静にツッコんだが、観客たちははしゃいでいた。


「す、すげええええええ!これが、これがA級の魂技!すげえ!すげえよ!」


「ああすごいな・・・・・・さすがA級の魂技、生で見るとオーラが違うぜ・・・・・・・これはあの嬢ちゃんも終わったな。おい全裸!お前の罪を数えろ!」


「トップー!お前は、1人で1人の仮面ライダーだ!」


「そんな変身ヒーローになるには眠れない夜もあっただろ!」


「さっきからボディビルの掛け声みたいなのしてる奴誰だよ・・・・・・」


 さて、トップは変身ヒーローの姿で今まで持っていた剣を投げ捨て、徒手空拳でフルカへ相対した。


 フルカも、それを見て構え、そして言った。


「なるほど・・・・・・それは確かになかなかキツそうな姿だ。私も全裸でなければこうして対峙することすら叶わなかっただろう」


「いや別に全裸は関係ない・・・・・・でもまあそうだろう。俺の自慢の魂技だからな。さて・・・・・・」


 トップはそこで言葉を切ると、全身から黒いオーラを立ち昇らせ始めた。


「これ以上現役A級、兄貴の弟子である俺が苦戦する姿なんてもんは見せらんねえんでな。悪いけど早めに終わらせてもらうぜ」


 そう言って、トップは両腕を縦に突き出した。右拳は上、左拳は下。それは、そう、まるでトリケラトプスのツノのような────


「こ、これはまさか!?あの範馬刃牙のトリケラトプス拳────!?」


「いや違う」


「え?」


 トップがそういうと、両拳の間に光が集まり、そして────ビームが出た。


「ビームだ」


「ビームかい」


 ビームだった。


「いや『仮面ヒーロートリケラ』がトリケラトプス拳しないで誰がすんだよ・・・・・・なんでビームなんだよ・・・・・・てかそもそも仮面ヒーロートリケラってなに?」


 とにかく、フルカはトップのビームをモロに喰らってしまった。吹っ飛ばされたフルカはおそらく壁に激突したのであろう。闘技場の壁は完全に壊れており、煙で覆われてしまって肝心の直撃を喰らったフルカがどうなったのか、すぐには見えなかった。


「おいおいおいおいどうなったんだあの全裸の嬢ちゃんは!?」


「いくら結界が張られてるって言っても、あれはどこか一部にちょっとでも穴あいたら効力が無くなるんだぞ!?大丈夫なのか!?」


 観客たちが気を揉む中、煙がだんだん晴れてフルカの様子が見えていく。


 煙が晴れて出てきたフルカは・・・・・・・普通に無傷だった。


「・・・・・・え?無傷?」


「ああ!無傷だ!当然な!」


「・・・・・・・いやなんで?」


「全裸だからだ!!」


「・・・・・・??」


 全観客の頭にはてなマークが浮かんだ。


 フルカは困惑するトップへ向かってゆっくりと近づいていく。


「さて、A級冒険者トップ・・・・・・いや仮面ヒーロートリケラ!!最後はあんたに相応しいこの私の超必殺技(今考えた)で幕引きとしよう!!」


「は?」


「とう!」


 フルカはその場で超ジャンプすると、一気に観客席の真ん中辺りまで跳んだ。


「なっ・・・・・・!?」


「うおおおおおおおお!!見ろ!!これが私のお・・・・・・・!超・必殺技!!」


 フルカは大声で叫ぶと、空中で右足をトップの方へと突き出した。


「おおおおおおおお!フルカの!!全裸イダーキィィィック!!!」


「それが言いたかっただけだろ・・・・・・」


「ぐわああああああああ!!!」


 フルカの渾身の全裸イダーキックを喰らったトップはドカーンと大爆発して、この戦闘はフルカの勝利に終わり、フルカは冒険者試験に合格したのだった。


 煙モクモク・・・・・・


「・・・・・・え?あれなんで爆発したの?」


「さあ・・・・・・?」


 フルカ曰く、全裸だからだそうです。


 あ、それとトップは爆発したものの、結界があったおかげで無事でした。よかったよかった・・・・・・大層良かった。


 これにて一件落着。めでたしめでたし。とっぴんぱらりのぷう。





 おまけ


「そういえば、なろう系のスライムっていやあ、可愛い人間の女の子に変身するのがお決まりだけど、ユウキのスライムはそういうことはないのか?」


「そんなお決まりあるのか?初耳なんだが・・・・・・そうだな、まあ、出来ないみたいだな。スライムは基本どんな命令でも聞く。一応聞くことは聞く。ただ、それが出来るかどうかは別だ。俺も人間に擬態できてくれたら囮とかになるかもしれないと思って、前に一度命令したことはあったんだけど、やっぱりダメだった。不完全だったな。似た感じにはなるんだが、見れば一発でわかるレベルだ。そもそも色が違うし・・・・・・。腕を再現する場合にも、爪とか体毛とかそういうところまでは再現出来てないからな。ざっくりとしか再現出来ないんだと思う」


「なんだ、じゃあこのスライムにリムルと名付けて魔王にするという計画は実行不可能なのか・・・・・・・」


「うん。それは能力関係なく著作権的に出来ないな」


「・・・・・・・これ一日に二十五匹ずつ倒し続けたらレベルMAXになったりしないかな?」


「今度は別作品か・・・・・・300年かかるからやめとけ」


「ジェネリックきらら・・・・・・百合ハーレム・・・・・・」


「欲望が口からこぼれてるよ、ルリ」

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