「全く、どうしてあの人はいつもこうなのかしら?」
怒りが収まらないお義姉様に、私は思わずこう聞いた。
「アビゲイル姉様は、どうして兄様と結婚したんですか?」
政略結婚とはいえ、うちはそんな大国でもないし、断わることはできたはずだ。それをなぜお兄様なんかと。
「イケメンだからよ」
アビゲイル姉さんはきっぱりと答えた。なんて正直な。
その場でズコリとずっこけそうになる。
その後大きなため息をつき、アビゲイル姉様は遠い目をした。
「私もね、あなたと同じだったのよ、昔は」
「えっ!?」
私は狼狽えた。私と同じって……まさかアビゲイル姉様も前世が男だった……とか!?
「なかなか結婚っていうのにピンと来なくて。白馬の王子様との出会いを待っていたのよ」
どうやらアビゲイル姉様は、私に浮いた噂が無いのは白馬の王子様を待ちわびる乙女だからだと思っているらしい。
……まあ転生した男子高校生なんだとバレるよりはそれでいいか。いや、よくないけど。
「でも、なかなかいい人は現れなくて。そうこうしているうちに周りはどんどん結婚していくし、どうせ運命の人なんか現れないのなら、イケメンでお金持ちな人を選ぶべきだと思ったの」
アビゲイル姉様は苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「でも、蓋を開けてみたらあんな男だっただなんて。結婚は失敗だったかもしれないわね」
……結婚ねぇ。
私は身を震わせた。
男と結婚だなんて考えたくもない。臭いし、汚いし、不潔だし、女の子の方がずっときれいで優しくて可愛い。
でも王族の娘である以上はいつかは結婚しなきゃいけないんだろうし、するんなら確かにブサイクよりはイケメンのほうがましかもしれない……うう、でもやっぱり嫌だ。
子供とか作んなきゃいけないと考えるといくらイケメンでも困る。
いっその事浮気OKにして、妻公認の側妻でも置いたらいいかもしれない。そしたら子供はその子に産ませて、私は悠々自適に冒険者を目指す。うん、もうこれでよくない?
私がそんな事を考えていると、不意に会場が暗くなった。
「皆様、ここで余興でございます。シルスター姉妹によるナイフ投げをご覧に入れましょう」
そんな掛け声とともに現れたのは、先ほどのレオ兄様が声をかけていた美少女と、彼女に瓜二つの女の子だった。どうやら、あの美少女は双子だったようだ。可愛い上に双子だなんて、ますます萌える。
先ほどの黒髪の美少女がぺこりと頭を下げる。
「皆さん、私は旅芸人のアオイ、こちらは姉のヒイロ」
紹介された双子の姉、ヒイロが不愛想な様子で頭を下げる。
ヒイロはアオイに顔はそっくりだけど、ロングヘアーのアオイと違って髪の毛は肩までのボブで、そこに赤い花をつけている。服は赤い短い丈のドレスに黒のニーハイを履いていてかなりの美脚だ。
紫のドレスに長い髪の子がアオイで、赤いドレスに短い髪がヒイロか。うんうん、美人姉妹だなあ。
私がうっとりと二人を見ていると、モアがひじで私を小突いた。
「お姉様……」
え? なんでまた私が美少女を見ているのがバレたの?
「び、美人姉妹だよね、アハハ」
私が笑ってごまかすと、モアは大きなため息をついた。
「今夜は私の姉・ヒイロの驚異のナイフ投げの技を披露致しましょう」
アオイがにこやかに言うと、拍手が湧き上がった。
ピクルスをボリボリ食いながら見ていると、アオイが両手両足を縛り付けられ、壁に貼り付けにされる。
「わあ! 縛り付けられちゃった!どうななっちゃうんだろう!?」
モアが私のドレスを引っ張る。
「うん、そうだね」
私もぼんやりと二人の美女を見ていると、姉のヒイロは、箱の中から短剣を両手に持った。
そして目にも留まらぬ速さでアオイが
次々に打ち込まれる数え切れないほどのナイフに観客の目は釘付けになる。
「わあ、すごーい!」
無邪気に拍手をするモア。
するとナイフを持ったヒイロが急にこちらの方へ視線を向けた。
――えっ!?
私は思わず固まってしまう。だって、ナイフが真っ直ぐにこっちへ飛んできたんだから。
なななんで、私に向かってナイフを投げるのーっ!!