それはもうどれほど前になるかもわからないほど過去の話である。一つの大きな大陸に一つの大きな国があり、誰もが平和に、何かを奪い合うこともしなかった。
その中で一人が声を上げる。
「天高い塔を作って神様を見てみようぜ」
その声に反発する者はいなかった。みな神の姿を見ようと躍起になった。
あるものは建築できる場所を、あるものは建築できる資材を、またある者は人材を。
各々が集めて建設は始められた。
日が過ぎていくごとに伸びていく塔。まるで倒れることを考えていないかの如く天へと高く、高く突きあがっていく。
土台の補強のために地上は延々と地平を保たれていく。その中で一人があるものを見つける。
それはいつからあるかも、何を祀っているのかも全く分からない古い箱だった。
その箱はどうなったかも、なぜ塔は崩落し神への頂へと到達できなかったのか。そのすべてが謎に包まれている。各国の神話では様々な後付けがなされており、真相は誰もわからない。
時は過ぎ現代。化け物が蔓延りながらも人類はその息をつないでいた。
息抜きで本を読んでいたこの少年もまた、この世界で息づいている。
「ここじゃ人として存在できなくなったことになってるのか…」
少年はそうつぶやくと本を元に戻し、図書館を後にした。
「さて、今日の依頼はどうなってるかな!」
向かう先はギルドと呼ばれる依頼所。化け物、ラウスではシェイドシフターと呼ばれている存在の討伐依頼を常に張り出している施設。
いつも通り入館し、めぼしい依頼を見つけ手に取ろうとしたとき別方向からも手が伸びていた。
手が当たりそうになった時にお互いに目を合わせる。相手は少女で、明らかにここの育ちではなかった。
「悪かった」
少年は手を下げ、少女にその依頼を渡そうとした。その時
「よかったら、一緒にやらない?」
少女がそう誘う。
少年は戸惑い、次にはこう口にした。
「報酬はどうするんだよ。それ成功報酬10スケイルだぞ」
もっと受けて山分けにするんだよ、と少女はそっけなく返す。
「じゃあとりあえず額面が倍額のネームドでも受けとくか。これなら期間も長いし倒すのも問題ないだろ」
「やった!ありがとう」
「そういえばお前出身どこなんだ?明らかに都会じゃないだろ、その恰好」
少年に指摘される格好、キラキラしていてシティーガールを彷彿とさせるがどこか違和感を感じさせる。そんな恰好だった。
「えっ、エアルだけど。これだいぶ変かな?」
「少なくとも都会育ちがする恰好じゃないと思うぞ」
少女は「えー!」と落胆した。
「とりあえずどうするんだ。これ山分けにするならあのネームドの依頼受け取ってくるぞ」
「うん、受け取ってきて!」
わかった、と返し依頼を取ってくる少年。
「これでいいだろ。あと自己紹介がまだだったな、俺はカイ、よろしくな」
「そうだったね、私はタリア、よろしくね!」
お互いに自己紹介が済んだ頃に依頼をこなす話をした。
とりあえずこの辺境へ行こう、そう口にしたのはカイだった。
ラウスとアトラスの辺境、そこには謎の熱源が存在し凍らない港として有名な場所がある。
その場所を求めてラウスとアトラスは戦争を繰り返しており、現在所有権を持つラウスの港湾作業者以外の立ち入りはほとんどない。そんな場所のすぐ近くにシェイドシフターが現れている。今回はそれの討伐だ。
────道中、大きな空薬莢や何か大きな無機物が踏みしめた足跡が残っていたりと、何かが起きているのは明白な光景が広がっていた。
そんな道を歩いていると、港の一部を襲っているシェイドシフターを発見する。
「あれじゃないか?」
「あれだね。早く討伐しよう!」
二人は飛び出してシェイドシフターへと切りかかった。
一人は剣で、一人は足についたブレードで。
しばらくした後、シェイドシフターのコアは破壊され魔石を回収しことを終えた。
シェイドシフターの倒し方は出現から長い時を経て倒し方が確立されている。これは万国共通でコアの破壊を行えばたいていは倒すことができる。
シェイドシフターの死体は残ることはなく、塵となって消えていく。そのため残るのはそれの体内で生成された魔石だけである。ギルドではこれを持ち込むことで倒した証明となる。
「今回は手ごわかったね。次はネームドか!どこにいるの?それ」
「こいつもアトラスの国境付近にいるらしく今は雪原でおねんね中らしい」
「だったら楽勝だね!寝てる間に壊せばいいもん」
「そう簡単ならこの額面にならねえはずなんだけどなぁ」
二人はそんな会話を繰り広げながらギルドへと帰っていった。
「撃破感謝します。では魔石の方は預かりますので、こちらが報酬となります」
受付はそういって10スケイルを差し出した。
「明日はネームドだね、名前は……”ヴァリス”……?強そうだね」
「ここに張り出されてる以上倒せない敵ではないだろ。とりあえず明日またここで」
わかった、と返事をし二人は宿や家に帰っていった。
翌朝───優しい小鳥のさえずりで目を覚ますはずだった。
聞こえてきたのは轟音と悲鳴、逃げ惑う人々の嘆きだった。
なんだこれは、と窓に飛びつき外を見てみるとそこには大型のシェイドシフターの姿があった。
「まさか国境からここまで来たってのか!?」
カイは驚いたがまず先に装備を手にして外へ飛び出した。直感でわかる、あれは昨日倒すといっていたネームド、”ヴァリス”であることを。
ヴァリスの目の前に来ると、その大きさはよくわかる。これを張り出したのは誰かと問い詰めたいほどに。
「君確か…まあいい。アレを倒せそうか?」
近くにいた壮年の男性が声をかける。
「あれは俺たちが倒す予定だったシェイドシフターです。俺のほかにもう一人来るはずなのでそいつにも説明してください!」
待つんだ、の声も聞かずにシェイドシフターに飛び込んでいくカイ。
その少し後にタリアが到着する。
「君があの子がいってた協力者か。簡潔に説明しよう、あれを倒せるか?」
「倒さなきゃ街が壊されます」
「話が早い。まずコアを探し出せ、だいたいはここにある」
男性は自分の額をトントン叩きながらコアの説明をした。
「わかりました!バンダナをした漁師みたいな恰好の子見ませんでしたか!?」
「そいつなら話を聞かずにあれに挑んでいったよ。行けばいい」
話を終える前にタリアも飛び出していった。
そしてカイにこう声をかける。
「コア見つかった!?」
それを聞いたカイはこう返す。
「それがこいつコアがねえんだ!あるところにない」
「うそでしょ!?ここに大体あるって」
タリアはブレードを”ヴァリス”の額に突き刺し切り裂いた。するとわずかに赤褐色の宝石のようなものが見えた。
「あった!けどだいぶ深いところにある!」
「わかった。じゃあそこに俺が剣を突き刺せばいいんだな!」
そういってカイは剣を突き刺そうとしたとき、”ヴァリス”は爆発した。
なんの予備動作もない、突然の爆発だった。
この爆発で都市機能の半分は失われ、カイたちも吹き飛ばされていた。
爆風はすさまじく、カイはザラト方面へ、タリアはエアル方面へと飛ばされていった。
────ザラトではまた別の苦難が待っていた。