某月某日、とあるアイドルがライブを行なっていた。かなりの人数を収容する会場での大掛かりなライブで、見渡す限り人の海だ。ペンライトの光の海でもある。
主役は二人組のアイドルだ。この二人組はバラエティ番組、雑誌の表紙、CMなどに引っ張りだこの超売れっ子のユニットで、日本だけでなく海外でも有名なまさしくトップアイドルなのである。
『みんなー!ありがとー!!』
『また会いましょう』
そのライブももう終わる。アイドルの2人は手を振ってはけていった。
・・・・・・さて、控え室。
そこのソファで木村瑠璃は真っ白に燃え尽きていた。
「あしたのジョーのラストシーン・・・・・文字だけだと全然伝わらないパロディね・・・・・・」
「ああ留羽。いやちょっと眠くなっちゃって・・・・・・」
留羽というのは瑠璃の相方である。赤川留羽。アイドル名はウイング。燕尾服みたいなものを着て、左肩だけにマントのようなものがついている。男性と比べても背が高く、女性人気も高いイケメン女子である。長い赤髪をポニーテールにして、男性でも女性でも魅了してしまうような超越した美しさがある。
「あら、大丈夫?夜はちゃんと寝ないとダメよ?」
「いやー、ついアニメ面白くて夜更かししちゃってさー」
瑠璃は、んーと眠い目を擦りながらそう言った。留羽はその様子を見ながら思わず溢した。
「・・・・・・瑠璃、あんたほんとに男なの?」
「なにを今さら。男に決まってるでしょ。こう見えても、ちゃんとついてるんだから・・・・・・なんなら見てみる?」
「見ないわよ!見るわけないでしょ!?・・・・・・いやそりゃわかってるけど、こうしてみるとやっぱり男だとは全然思えなくて・・・・・・というか男以前に高校生にすら見えないわよ、瑠璃」
その瑠璃は、名前通り瑠璃色のウィッグをツインテールにし、同じ瑠璃色の目をシパシパさせて眠そうにしている。
どう見ても男子高校生じゃない。女子中学生と言われてギリギリ納得出来るかどうかぐらいなのである。瑠璃は留羽と違って可愛さで売っているのだ。その小動物感は男性も女性も超越して魅了するのである。そんな男子高生がいるかよ。でもここにいるんだから仕方ないよね。
小動物的可愛さを持つ瑠璃と、年齢性別を超えて胸をときめかせる美しさを持つ留羽。この2人が国民的アイドルユニット、『ラピス・ウイン』なのである。
そして、その1人である瑠璃は実は男。これはこの2人と、あとはごく一部の者しかしらないトップシークレットなのだ。
さて、この2人についての大体の紹介が終わったところで、2人の会話を見てみることにしよう。
立ちながら話していた留羽は、瑠璃の隣に座った。そして瑠璃と同じように、んーと伸びを一つして言った。
「んー、はー・・・・・・まあでも私も疲れたわ。今回はけっこうハードスケジュールだったものね」
「そうだねえ・・・・・・でもこれでたくさんお金を稼げた!ふふふ・・・・・・これだけのお金があれば妹にかなり色々なものを買ってあげることが出来るよ!」
「相変わらずのシスコンっぷりね・・・・・・」
留羽はそう呟く。そう、瑠璃がそもそもアイドルをやり始めた理由は妹のためだ。妹のために、女装してアイドルなどをやっているのである。
「妹に色んなものを買ってあげたいから女装してアイドルするって・・・・・・なんか超越してない?それ」
「何言ってんの!順当でしょ!?」
「いや、妹にプレゼント買いたいってだけなら普通にバイトとかしなさいよ・・・・・・」
「それじゃダメなんだよ!!オレは一つや二つじゃなくて山ほどのプレゼントをしたいんだよ!そのためには山ほどのお金がいるんだよ!!」
「だからってさ・・・・・・絶対女装アイドルよりいい方法あるでしょ、絶対」
「あ!山ほどのお金を稼いだら税金も山ほどかかるだろってツッコミは無しの方向でお願いします!そこらへんの諸々のことは、絶対的ご都合パワーでなんとかしたという解釈をしてください!!」
「誰に言ってんの?瑠璃・・・・・・」
「読者!」
「読者って何よ・・・・・・」
よくわからないことを言い出した瑠璃に、留羽はやや呆れ顔でツッコんだ。
「ていうか、オレずっと気になってたんだけど、そういう留羽はなんのためにアイドルになったん?」
「こら瑠璃、あぐらなんてかかないの。いつどこで誰が見てるかわかんないんだから。・・・・・・私がアイドルを目指した理由ねえ。別に、たいした理由でもないわよ?オーディションのポスターが貼ってあったからなんとなく受けてみただけ」
「へえ・・・・・・あの、ていうかそもそも留羽って何歳なの?」
「・・・・・・永遠の17歳よ」
「わー、ずいぶんトラディショナルな誤魔化し方だなあ。歌舞伎くらいトラディショナルだ。歳がバレるよ?」
「うるさいわね!!別にいいでしょ!?」
と、そんな感じの会話が控え室では繰り広げられたのである。
この物語は、こんな女装アイドル木村瑠璃くんの日常をゆるく描いていくものだ。少しでもお楽しみいただければ嬉しい。