ところで二人はパンザマストって知ってる?
ウィキペディアなんかで調べると鉄塔の一種、鋼板組立立柱を指す言葉みたいだね。
日鉄建材と言う企業の登録商標が訛ったもので、本当は「パンザーマスト」と言って、ドイツ語なんだってさ。で、パンザマストって日本ではもう一つ意味があって、防災行政無線放送のことを言うんだ。
そう、「夕焼小焼」のメロディーのことだ。
ほら、この街でも日の入りの時刻になると、鳴るでしょ?
僕が今から話すのはそのパンザマストにまつわる怪談だ。
そもそも、パンザマストって何のために鳴らされるか知ってる?
日本全国にパンザマストが設置されるきっかけとなったのは、こんな事件なんだ。
時は■■■■年■月■日。
■県■市の市立■第三小学校の校庭で当時、■■才だった■■■■くんっていう男の子が無残な姿で発見された。
■■■■くんは、何者かの手によって全身を鋭利な刃物で切り刻まれていた。
お腹が引き裂かれ、内臓が全部飛び出しているという凄惨な状態だったらしい。
そして、残念なことに今もなお、事件の犯人は捕まっていないんだ。
この事件は「■■■■くん刺殺事件」と呼ばれているんだけど、当時の地域社会に大きな衝撃を与えた。
この事件をきっかけとして、児童生徒の安全のため帰宅を促す、声がけ運動が日本全国で始まる。その際、子供達に親しみ深い童謡「夕焼小焼」のメロディーが一役買ったというわけだね。
つまり、あのメロディーは子供達に向かって——
「もう夕方ですよ。真っ暗になりますよ。だから早くお家に帰りましょう」
……と促しているわけだね。
とまあ、これが全国にパンザマストが普及されていった経緯。
僕たち未成年の安全のため、社会がいろいろ試行錯誤してくれたんだからありがたい話だよね。そして、その背景には二度と悲劇が繰り返されないようにしたい、という親心が込められているんだ。
そもそも、夕暮れ時は逢魔が時と言って、魔と出会う時間帯と言われている。
ここで言う魔っていうのは、もちろん、泥棒とか、悪い人の意味もあるけれど、魔物や幽霊、いわゆるこの世ならざる者って意味も含まれるんだよね。
そう言う意味ではパンザマストは「警告」であり、同時にある種の「魔よけ」でもあるんだ。
だけど――、逆にこんなふうにも考えられない?
もし、その警告を無視したり、従わなかったらどうなるんだって?
たとえ、帰りたくても何らかの事情でそうできない場合は?
もちろん、現れるんだよ。
その人の前にこの世ならざる者が。
魔物や幽霊、おばけ――呼び方は何だっていいけれど。
例えば。そうだな。
ここで■■■■くんについて、少し思いを馳せて欲しい。
深夜、誰もいない小学校の校庭で、たった一人、打ち捨てられていた■■■■くん。
全身、滅多刺しにされた挙句、お腹の中身を全部掻き出されてしまった■■■■くん。
多分、激しく抵抗し、泣き叫んで助けを呼んだのに誰も駆けつけてくれなかった■■■■くん。
さぞ、無念だったろうね。
だから、それを晴らすためにこの話を知ってしまった人達のもとに。
■■■■くんはやって来るんだ。
そう、パンザマストが鳴り終わるのと同時に。