京月と翠蓮がそれぞれウロボロスの首領である、デル・ヴァン・ディレゼスタとそのコピーである分身体と戦う間で、その他幹部は四龍院や不破、礼凛達に完膚なきまでに叩きのめされ、ウロボロスに残されたのは首領のみとなっていた。
倒れる直前に幹部達が笑みを浮かべた理由を問いつめた四龍院達はそこで、首領であるデルのコピーが存在していることを知る。
そして、どちらかが生きている以上ダメージを負ってもすぐに回復し、片方だけでは致命傷を追わせることが不可能で、いくら京月が強いと言えどその魔法を打ち破り首領に勝つことはできないのだと嘲笑う幹部達を捕縛し、政府組織に引き渡す為伝令蝶を通じて転移させていた。四龍院は桜や残る隊士達とは離れ、礼凛と不破の二人と合流して京月の魔力が感じられる最上階へと向かっていく。
そして倒したはずの魔物が、デルの魔法により再び起き上がり、四龍院達の道を塞ごうとするが、その実力差を前に道を塞ぐことなど出来るはずもなく、一瞬にして沈められ、三人は難なく最上階へと辿り着くことが出来ていた。だが、最上階に足を踏み入れた瞬間、禍々しい程に黒ずんだ魔力が一帯を支配し、京月の魔力と激しくぶつかる衝撃が三人に降りかかり、そこでその激戦を目の当たりにする。
最上階にも隊士が飛ばされていたのか、京月は動けなくなっていた隊士の前で、大量の魔物と同時に首領デルと対峙していた。そこに飛び込んだ四龍院が、そのまま地面に手を付き舞い上がる勢いで蹴りを入れ、デルが吹き飛んだ隙に不破や礼凛も臨戦態勢に入る。
「首領のコピー……分身がいるようだな」
四龍院の言葉に京月が頷く。
「魔力を感じないから場所の特定が厄介な上、隊士がいてはここから離れられない。転移させようにも伝令蝶の魔力では空間魔法を破れない」
そう京月が四龍院と言葉を交わしていると、デルが面白そうに笑いを漏らしながら近付いてくる。全員がデルを見据えるが、デルから感じられる異質な力に眉を寄せる。
「俺のコピーを見つけた所で、お前達は俺には勝てない」
そう言いながらデルの瞳が礼凛を貫く。それと同時に勢いよく礼凛が吹き飛び壁に激突する。
「「礼凛!!!」」
「平気っす、なんだ今の……見えなかった……」
無傷ではあったが、二番隊の副隊長である礼凛が無防備なまま吹き飛ばされたことに四龍院は驚き、それがあの異質な力と関係しているのかと再びデルへと意識を向ける。デルの力は更に膨れ上がり始め、空間魔法内にいた魔物を取り込んでいき、魔力を増していく。
「俺は神なのだ。この世で崇められるべき神なのだ!!!」
「神だと?」
何を言っているんだ、というような声音で四龍院がそう言うが、目の前のデルはまさに神そのものだというように傲慢な態度で笑みを零す。確かに、最初に京月が感じたデルの魔力はここまでのものでは無かった。それだけでなく、かなりの魔力を消耗するであろう自分の分身。デルの裏にまだ何かがいると気付いた京月はジェイドが話した組織の名を呟く。
「魔天か」
魔天。京月が呟いたその言葉に四龍院や不破、礼凛は首を傾げるだけだったが、デルだけは少し目を見開いていた。
「その名をどこで知った?………あぁ、あの胡散臭い男か。使える奴だと思ったがやはり裏切ったか」
そう話すデルは力を授かるかわりに、魔天の指示を受けたのだという。授かった力こそが、"神の力"と呼ばれるそれ。
デルは不気味に笑う。
「俺も最初は笑ったさ。なにが神の力だとな。だが、今こうして、俺は俺の殺りたいように殺れるようになった。出来ないことなど無くなり、俺は神となったのだから」
再びそこで吹き荒れた力に不破と礼凛が圧される前で京月と四龍院の魔力がデルの力とぶつかる。
「…………〜!」
その時微かに聞こえた声に京月は気付いた。不気味な力が溢れるそこで、京月の口角が僅かに上がる。
「なんだ?死を前に可笑しくなったか?」
「いや、流石は俺の隊士だと思ってな」
京月はそう言いながら刀を構える。刀は龍も恐れるであろう程の炎を纏い、空気を赤く染めつくそうとしていた。京月は翠蓮の全てを受け止める。
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分身体であるその男の前で、血を流しながらも翠蓮は叫ぶ。
「わたしは、弱い。でも、絶対に諦めない!!」
そうして、自分に向けられる攻撃すら気にせずに翠蓮は自分の出せる全力を刀に乗せて構える。
「死にたがりか?笑わせる。そのまま死ぬといい」
「わたしは死なない。だって私には隊長がいるから」
翠蓮ははっきりと答える。その言葉にデルは怪訝そうにしながら返す。
「その隊長とやらは、俺の本体を前に隊士を守りながらで全く動いていないぞ?最強が聞いて呆れる」
翠蓮はそんな言葉など気にせず、今の自分にできる精一杯をするために深呼吸し、デルを見据えた。
「隊長が隊士を守って動けないならわたしが動けばいい。後は隊長がなんとかしてくれる」
だから翠蓮は、その攻撃の後を考えずにいられた。京月なら、きっと。自分を信じてくれた隊長に応えるために翠蓮は動く。そんな翠蓮をデルは嘲笑う。
「新入りごときがどうやって!?実力を過信し過ぎにも程があるぞ!!」
だが、翠蓮は止まらない。残る全魔力、全力をかけて刀を突き出す。突き出された刀は氷の魔力を巨大龍の如く吹き荒らして、周囲一帯の全て、空気までをも凍らせていく。
『
デルが放った魔法も、その冷気に呑まれ凍結する。
「なんだ、その力は……?」
無意識に自分の限界を超えようとする翠蓮の力はデルの想像を超え、防ぎ切れずにデルへと直撃する。翠蓮の手も、その冷気により凍り始め、顔も段々と霜が降るようにして白く染まっていく。それでも翠蓮は刀を離さず、そのままデルを吹き飛ばしていく。
抵抗しようとするデルだが、恐ろしい程の冷気と、翠蓮の限界を超えた力の全てを前にコピーである自分では敵わないと気付き、怒りの一心で解放した魔力に呑まれ魔物の様な叫び声をあげる。
「うおおおおオオオアアアアアア!!!!」
それに対抗するように、翠蓮の声も響いた。絶対、気付いてくれる。隊長なら。そんな思いを胸に、自分の全力と共に叫んだ名前。
「京月隊長ーーーっっっ!!!!」
まだ消えていなかった空間魔法の魔力が作り出していた遮断空間。その空間そのものが見えず、中の気配や音は外には漏れないはずだった。だが、それでも京月は翠蓮の声を受け止めた。
「来い、氷上!!!」