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第20話 初めての帝都


 あれから長い時間列車に揺られ、翠蓮はその間も体調に気を付け適度に休憩を挟みながら、不破の助言を聞きつつ結界術に慣れるために練習を続けていた。

 だが長時間の移動のため、次第に重くなった瞼が下がり始めたと思えば睡魔に負けてしまった翠蓮。こつん、と自分の肩にもたれ掛かった翠蓮を見て不破は起こさないように小さく京月に話しかける。


「寝ちゃいましたね」


「そうだな、あれだけ練習していれば眠くもなる。あと一時間もすれば帝都だ。基地に着いても今日は特にすることは無いし寝かせとけばいい」


 そう話していると、翠蓮が小さくくしゃみをする。列車の中が少し冷えているから肌寒かったのだろうか、翠蓮の体がふるりと震えたのを見て、京月は自分の羽織を脱ぐと翠蓮に被せる。先日翠蓮が助けて貰ったお礼として、京月に贈った羽織だ。


「氷上ちゃんから無事羽織貰えて良かったですね〜」


「やっぱりお前は知ってたんだな。だから稽古なんて馬鹿みたいなこと言ってたのか」


「馬鹿ってひどくないですか!?俺が隊長の為に一肌脱いだっていうのにさぁ」


「ハッ、なんだまた扱かれたいのか?」


「あっ、いや、ッス……勘弁してください」


 そんな他愛も無い会話をしながら、一番隊の三人は帝都へと近づいて行く。それから列車で揺られること約一時間。

 ついに三人は帝都に到着していた。帝都に到着すると、この日一番隊が本隊基地へ帰還すると知らせを聞いた一般人が駅に多く集まっており、さながら一番隊の凱旋パレードのような賑わいをみせていた。新人である翠蓮にも、たくさん声が掛かるが、やはり隊長、副隊長の人気は絶大で。

 あまりの人の多さに、これでは基地まで辿り着くだけで日付を超えそうだ、ということで、三人は駅に用意された国家守護十隊専用の瞬間移動魔法陣で基地へと飛ぶことに。

 追ってこようとする一般人から、逃げるように隊専用の通路を通り魔法陣へと向かう。そんなこんなで本部からの長旅が終わり、ようやく本隊基地に辿り着いた時にはもう夕刻で日が暮れ始めていた。

 駅についてすぐに騒ぎ立てられ、ろくに帝都の景色を見られなかった翠蓮だが、本隊基地から見える帝都中心地の大都会の景色に目をキラキラと輝かせていた。それだけでなく、翠蓮は本隊基地の大きさにも驚いていた。

 たった一つの基地だけで、総隊長の屋敷だけでなく隊舎や鍛錬場などがある本部の半分ほどの広さをしているのだ。


「うわーっ、大きいですね!」


 あまりの広さに驚いている翠蓮に不破が笑う。


「一番隊以外の隊は一般隊士の中から選ばれた隊士が多く所属してるからね。それなりに広さが必要なんだよ。ほら、こっちでも氷上ちゃんの部屋作るからおいで」


 そう言われて不破についていけば、部屋以外にも本部の隊舎と同じように鍛錬場や休憩室などの案内をしてくれる。


「あ、そうそう。本部と違って本隊基地にはそれぞれ物資も備えられてるから、魔法具とか気になるものがあったら言ってくれたら用意できるよ。自分で持っとく用に魔法薬とか良いかもね」


 そうして物資用の倉庫の場所まで案内してくれて、最後に三階にある空き部屋へと向かう。


「隊舎のあの感じの部屋が好きなら絶対この部屋気に入ると思うんだよね〜」


 案内された部屋を見て、翠蓮はまた一つ返事で頷く。


「すごい!海が見えます!!!」


「海??あ、そっち?都会っぽい景色と自然の景色が見えるのも良いよね。海すっごい端っこだけど、もしかして氷上ちゃん、海初めて見たの?」


 不破がそう聞けば、翠蓮は興奮したように頷く。


「初めて見ました!!すごーい!!」


 入隊時の書類を見て、総隊長でも把握していなかったような田舎出身だということは知っていたが、翠蓮が海さえ見た事が無かったということに不破は驚く。


「近くに無かったの?」


「あ、お恥ずかしながらあんまり村から出たこと無かったので。あるにはあったんでしょうけど、見たことなくて」


 そう言って、はしゃいでいたことを恥ずかしそうにする翠蓮に不破がぎゅっと拳を握る。


「氷上ちゃん……!!いつかお休みの日に絶対俺が海に連れてったげるね!?!」


 田舎育ち故に箱入り娘のような翠蓮に、不破は兄のような気持ちになってそう言った。


「え!すっごく嬉しいです、ふふ、約束ですからね!楽しみにしてます!」


 眩い笑顔でそう答える翠蓮に、不破もにっこりと笑みを浮かべた。

 そんな話をしていた時、二人の元に京月がやってくる。


「何の話してたんだ?」


「いやー、氷上ちゃんが海行ったことないっていうから今度の休みに連れていくねって言ってたんですよ。京月隊長もどうですか?やっぱ三人でいきましょーよ!絶対楽しいですよ〜!ね、氷上ちゃん」


 不破がそう言えば、翠蓮もぱっと笑って京月を見る。


「はい!三人で行きたいです!」


 まるで子供のように眩しい笑顔でそう言ってくる翠蓮に京月が小さく笑って答える。


「氷上、サメって知ってるか?」


「サメ…ですか??なんですかそれ、」


「海にはな、人を喰うでかい魚がいるんだぞ。氷上なんかは一瞬で丸呑みにされるだろうなぁ」


 京月が意地悪そうな顔でそう言えば、翠蓮はひぃっと小さな悲鳴をあげて顔を真っ青にしながら不破の後ろに隠れる。


「もー、いつも冗談言わない人が言ったらマジみたいになるじゃないですか。氷上ちゃん大丈夫だよ〜?滅多に見ないしそもそも人がいるとこまで来たりすること無いからさ〜」


 そう言いながら不破が翠蓮の頭を撫でると、少しむっとしたような顔で翠蓮が京月を見る。


「い、意地悪する隊長は嫌です!!ふん!」


 そう言って拗ねるように不破の背中に隠れた翠蓮に京月は珍しく焦っており、その姿に不破は笑ったそう。それから翠蓮に自分が持っていたいちごみるく味の飴玉を渡してご機嫌取りをする京月を、不破が見たとか見なかったとか。

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