今日も国家守護十隊の本部は騒がしい。
「ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!!」
その大きな叫び声に、本部にいた隊士たちはなんだなんだと声のする方を見てすぐに、また不破かと言って戻っていく。
本部の屋敷で政府からの書類に目を通していたあまねも、日常となったその騒ぎに楽しげな笑みを浮かべていた。
「ぎゃーーーっっ!!鬼ーーーっ!京月隊長の鬼ーーっ!!!隊長に殺されるぅうううーーーっ!!」
響く叫び声は木刀を持った不破のもので、その後ろを鬼のような形相で木刀を持った京月が追いかけていた。
「逃げんじゃねぇぞクソガキが!!」
そう言うと京月は不破目掛けて手加減することなく木刀をぶん投げて、それは見事に直撃し、不破は吹き飛び地面に抱きつく形で盛大に吹き飛ばされる。これは、まだ不破が国家守護十隊に入ったばかりの頃のお話。 _______________________
「捕まえたぞ、このクソガキが……!今日という今日は逃がさねぇからな、毎回毎回稽古サボりやがって。今日はお優しい副隊長がいなくて残念だったな?不破ァ」
遂に京月に捕まってしまった不破は、死を感じて絶望の表情を浮かべている。
「いやあああああああああ!!!誰かぁあああああ!!!殺されちゃうよ〜〜〜〜っ!!!」
また叫び出した不破は、恐怖から来る鼻水と涙で顔をべしょべしょにしながらジタバタともがいていた。
「いやだああああああああああ!!!」
「クッソ、うるっせぇな……!」
京月に捕まってもまだ懲りずに逃げ出そうとする不破に、痺れを切らした京月はどこから用意したのか長い紐を取り出すと不破の体をぐるぐる巻きにして連れていこうとする。そんな時、不破と同期で入隊した二番隊の礼凛と、同じく二番隊の四龍院隊長が騒ぎに気付いてやって来た。
「また不破か。お前いい加減諦めたらどうだ、京月から逃げるって無理無茶無謀にも程があるぞ」
そう言う四龍院に続いて、その様子を見ていた礼凛が口を開く。
「不破さぁん!京月隊長から逃げるとか流石っスね!まじで尊敬するっすわ〜!」
パッと顔を輝かせながらそう言う礼凛と不破は国家守護十隊入隊前からの仲で、礼凛は
不破の一つ下の礼凛は出会った頃から誰に対しても分け隔てなく接する不破を尊敬しており、周りからは不破バカと言われているくらいに不破が大好きだ。そんな礼凛を見て、不破がぶわっと涙を流しながら飛びつこうとする。
「凛〜〜〜〜!!!!!助けっ、ぐえっ!」
だが京月が不破を逃がすことはなく。
紐を引っ張られずるずると京月の足元に引き摺られていく。
「ぎゃーー!!凛助けてーーーーっっ!!」
そう泣き叫びながら不破が礼凛に助けを求める。だが、礼凛はどこまでも不破バカだったのだ。
「大丈夫っすよ、不破さん!」
助けてくれるのか!?と希望を胸に不破が顔を上げると、そこには先程と変わらぬ輝かしい笑みを浮かべた礼凛がいた。
「だって不破さんっすもん!京月隊長の稽古くらい不破さんなら出来るっすよ〜!!不破さんっすもん!!!」
「行くぞ」
こうして誰にも助けられることなく京月に地獄の鍛練場へと引き摺られていく不破だった。
「良いよな、お前のその性格」
そう言う四龍院に礼凛が答える。
「へ?そうっすか??初めて言われました。まぁでも、不破さんなら大丈夫っすよ。あの人はビビりっすけど、どこまでも諦めずに強くなれる人だから」
そう話す礼凛は、二人の過去を思い返す。そんな礼凛の隣で、四龍院が呟く。
「そうだろうな。そうじゃなきゃ、京月があそこまで嫌がる隊士一人に執着しない」
「執着っすか、やっぱ流石不破さんッスね〜」
「よし、お前もやるぞ」
そう言われて、礼凛も四龍院と共に鍛練場へと向かっていった。
二人が副隊長にまで上り詰めるのは、もうしばらく後のお話。