「すみませーん、任務の書類を受け取りに来ました!」
隊舎の扉を開けてそう声を掛けると、奥の方から隊士である
「あぁ、話は聞いてる。一番隊の
黒い瞳で品定めするように翠蓮を見るその隊士は、瞳と同じ真っ黒な髪を
「これがお前の初任務だ」
その書類を受け取った
「二番隊の新入隊士との共同任務だってよ!」
「わぁっ!急に耳元で喋らないでくださいっ!」
「ケッ、このくらいでぴーぴー言うな。それよりはやく俺様に名前付けろ!」
「名前ですか?」
「あぁん!?当たり前だろうが!名前を付けて自分の魔力とリンクさせる、それが
「ひぃっ、すみませんすみません!名前ですねわかりました!」
高圧的な
「あ、決まった!」
その一言で
「ほんとか!?何て名前だ!!はやく聞かせろ!」
そんな
「きみの名前はでんでん丸ですっ!」
「で…っ…?」
「すごく良いでしょ!とっておきです!」
「お……ぉ、えぇ……?」
しゅんとでんでん丸の羽が下を向く。
「あ、もう行かなきゃ!一緒に行く子とは駅で合流するみたい」
「あぁ………」
そう言って先に進んでいく
「あ、」
「ん?どーした?あぁ、京月隊長か」
「これから任務か?」
「はい、さっき指令がきて」
「そうか、あまり無理はするなよ」
「はい!ありがとうございます、いってきます!」
そうして
「ちゃんと帰ってこいよ」
その呟きは誰にも聞かれず空気に溶けた。
「京月」
そう名前を呼ぶのは先程まで話をしていた二番隊隊長である
「今の子、新入隊の
「総隊長が決めたことに反対する理由は無い。それだけだ」
「そうか。今回はうちに入った
「そうだな。俺たちは俺たちのすべきことをするだけだ。あの時みたいにならないように」
そう話す京月の声に力が入る。
「あぁ。俺達は強くならなければならない。総隊長の言う新しい風……、俺たちには見守る責任がある。それが俺達隊長の仕事だ」
「そうだな」
そう一言だけ返事をすると、京月は隊舎の方へと歩き出した。
「お前も、前を向けると良いんだがな」
既にその場を去っていた京月に、その呟きは届かなかった。
✻✻✻
共同任務のペアである二番隊の神崎と合流するため、
「ぅきゃあああっ!」
高い悲鳴をあげて後ろを勢いよく振り返れば、そこにはきょとんと桃色の瞳を丸く瞬きながら缶ジュースを持ち同じ桃色の髪をふわりと風に靡かせる女の子が。
「ごめんね、そんなに驚くとは思わなくて」
自分の分と
「あ、あなたが二番隊の……?」
「うん!そうだよ!私は
「よろしく!私は
「すいれんちゃん!一緒にがんばろーね!」
そう二人で話していると、駅に列車が到着したようで、駅のホームで家族に別れを告げたり、友達と話していたりと、そんな人の間を通って列車に乗り込んでいく。列車に乗り込むと、駅長さんが奥の車両へと案内してくれる。そこは国家守護十隊専用の車両。乗っているのは
「こちらをご利用くださいませ、隊士様。何かご入用の物がございましたらそちらの直通電話で乗組員にお申し付けください。ご武運を祈っております」
「ありがとうございます!」
そう声を掛けると、駅長は車両を出ていった。車両には魔法の鍵が掛かり、外部からの侵入を
「今この日本帝国の列車には全て最後尾の車両にこの魔法が掛かっていて、国家守護十隊専用の移動に使われてるんだって。その魔法は全て総隊長が一人で掛けてるんだって聞いたの」
桜の話に
「一人でこの魔法を全ての列車に!?」
「うん、専用車両があるのは聞いてたけど、総隊長が魔法を掛けてるのは知らなかったからびっくりだったよ」
「そうだったんだ、神崎さんは詳しいんだね」
「桜、でいいよ」
桜にそう言われ、すこし照れくさかったが、
「さくらちゃん」
「うんっ!これでわたし達お友達だね!」
友達、そう言われて自然と
「へへ、よろしくね」
「うん!わたしね、国家守護十隊の魔法学院に三年通ってたの。卒業と同時に入れて、やっと隊士になれたんだ。それも、
「桜ちゃん、学院に通ってたんだ!」
学院とは国家守護十隊入隊を目標とする生徒の為の魔法訓練学院であり、そこを卒業できた者には入隊試験の一次、二次試験が免除されるのだ。
入学から一週間も経たないうちにやめてしまう者が後を絶たない程厳しいその学院を卒業出来ればの話だが。そんな学院を卒業していた桜の話に釘付けになる
「わたし昔から魔力のコントロールが下手くそでね、わたしが十二歳の時に魔物に襲われたパニックで魔力が暴発しちゃって、住んでた街に大きな被害を出しちゃったの。大きな問題になって、次いつ魔力が暴走してもおかしくない私の処罰をどうするかって話になった時に庇ってくれたのが
「そんなことがあったんだ………」
「うん、それでねっ、
「隊長ってあの長い金髪の、顔を隠してたひとだよね?」
「うん、そうだよ!なんで隠してるのかはわかんないんだけど。はやく強くなって、
「桜ちゃんはすごいね。わたしなんて、ただこの世界を守りたいってだけで、大した才能もない普通の人間なのに」
「才能なんて必要なのかなぁ、みんながみんな魔法使えるわけじゃないもん!それにっ、世界を守りたいっていう大きな気持ちが、すいれんちゃんの力になってくれるんだよ!」
桜の明るい表情とその言葉に
「そうだね、わたしはわたしなりに頑張ろう」
そう言えば、桜はにっこりと笑った。列車の窓から見える外の景色が薄暗くなり始め、奥には大きな森が見える。
「話してたらもうそんなに時間経ってたんだ。あの森が任務の場所だね」
そう言って桜が席を立つ。列車が次第に速度を落として、森の
「いこう、」
「うん、いこう」
二人は森へと足を踏み入れた。
その任務が、副隊長格以上のみに許可が降りる、一般隊士には