一人総隊長の元を訪れていた京月。
「失礼します」
そう声を掛けると
「うん、入っていいよ」
その言葉を聞いてから、京月は
「任務の結果は
「本当に研究に関わっていたのかと思う程には弱い集まりでした。俺が行くほどの任務ではなかった様な気もしますが、総隊長はこれが狙いでしたか」
少しため息を付きながらその場に膝を突いて座る京月に、
「僕は隊に新しい風を吹かせようと思っている。良い目をした子達を
「一番隊の任務は危険が伴う。まだあの子には向いていないと俺個人としては思っています」
「
「総隊長は、随分あの子に期待しているんですね」
その京月の言葉に
「真っ直ぐで、綺麗な目をしていた。
「総隊長は俺を買い被りすぎている。俺にはそんな資格が無い」
その京月の言葉に
「
優しい手つきで頭を撫でているその
「そろそろ子供扱いするのをやめて頂きたい……!もう俺は大人です!」
「ふふふ、ごめんね。ついやってしまうんだ」
目を細めて笑う
「やるからには、俺は手を抜いたりしない。それで辞めるような者なら、俺は引き止めたりしませんよ」
「うん。
「はぁ……不破の時もそうでしたが、俺が総隊長の命令を断れないことを利用していますよね」
「ふふ、利用だなんて人聞きの悪いことを言わないで。僕は
「まあいいです。ところで
「伊助なら、今は新入隊の子と隊舎にいるはずだよ。伊助はあの会議の場にいたからね。以前から目をかけていた珍しい水魔法の使い手を引き抜いていたよ」
「そうですか。あぁ、
「あぁ、次は共同任務だったね。政府への申請はもうしてあるから頑張っておいで」
「はい。では失礼します」
京月はそう言うと立ち上がり、
「
その
✻✻✻
そして京月が戻った一番隊の隊舎では……。
「山……登り……ですか?」
一番隊の隊舎裏にある大きな山。ところどころ足の踏み場もない
そんな山を指差して京月は言い放つ。
「登れ」
一通りの説明を不破から受けていた
「隊長、口下手にも程がありますって。ごめんね氷上ちゃん、一番隊は、本部では毎日朝起きてすぐにこの山を登るんだよ。ほんっと意味わかんないよね、まあ任務に比べたらまだ楽だと思うけど……隊長、マジで女の子にこの山登りさせるつもりですか?」
不破のその言葉に
「あ、あの……わたし…、」
そんな
「敵が、女だから手加減するような奴らならとっくに世界は救えてる。俺は女だからといって手を抜くことはしない。ついてこれないならやめるべきだ。すぐに死ぬぞ。実際、うちに入りたいと言った奴らはこの山を見た瞬間逃げた」
「あの、わたし……登ります!!」
大きく叫んだ
「……やめるなら今のうちだぞ」
そう京月の声が掛かる。
「わたしは、手加減されたくありません!」
「そうか。氷上、俺は男とか女だとかは別にどうでもいい。ただ、努力できる者を俺は認める。俺に認められるように、努力しろ」
その言葉を聞いた
「はい!!」……と、大きな声で返事をしたのは良いものの。
ゼェゼェと肩で大きく息をして、漸く山から出られたのは登り出して五時間程経ってからだった。
「あっ、氷上ちゃん!!隊長〜!氷上ちゃん降りてきましたよ!」
「大丈夫だった?」
不破の声掛けに頷いて、なんとか無事だと伝えていると隊舎から京月が出てくる。
「お前……魔法使わなかったのか?」
血が
「あ、そういえば使っていいのか聞いてなかったなと思って……」
「山の中には俺が、低レベルのものとはいえ魔法を仕掛けた箇所もあったはずだが」
「あ、ありましたね!魔法使わずに回避した方がいいのかと思って、何回か掛かっちゃって火傷しましたけどなんとか大丈夫でした!」
そう話す
「氷上ちゃん……そろそろ口閉じたほうが良いよマジで」
「えっ?」
戸惑う翠蓮の前で京月が少し黒い笑みを浮かべる。
「お前のことを少し理解した」
京月は翠蓮の腕を掴みすぐさまどこかへと連れて行く。
「えっ、あの、隊長……?どこに……」
「いいか、多少の無理は戦闘において必要かもしれないが、自分を犠牲にする必要はない。もっと自分を大事にしろ。次からは魔法を使え。わかったか?」
「あ……はい…」
少しぼろぼろになった翠蓮の体を見て眉を寄せる京月の姿。
「なんだ、隊長って優しいんですね」
「馬鹿なこと言うな」
そして京月が足を止めたのは、五番隊の看板が立てられた大きな隊舎。
「あの、隊長、ここは?」
「治療と戦闘サポートに特化した五番隊の隊舎だ。傷、治してもらうぞ」
「えっ、そんなわざわざ……こんなのすぐになおります!」
そう話す
「あらあら、駄目よ。小さな傷でも女の子にとっては大きな傷になっちゃうこともあるんだから」
「わぁっっ!!」
突然の声掛けに驚いた
そこにいたのはベージュの髪を後ろで緩く結んでいる五番隊の隊長だ。
「驚かせてしまってごめんなさいね、私は五番隊隊長の
「俺の知らないところでな。とりあえず、この子の治療を頼みたいんだが、今忙しいか?」
「全然大丈夫ですよ、中にどうぞ。あ、京月隊長のことを
「わかった。なら俺はそっちに向かうから、終わったら隊舎まで案内してやってほしい」
「わかりました、じゃあいきましょうか」
「はい!あ、あの、京月隊長!」
「なんだ?」
「ありがとうございます、連れてきてくれて」
「あぁ」
そう一言だけ返事をすると京月はその場を離れていった。
「初日に随分無茶なことをしたのね?」
少し笑いながら
「火傷もしてるのね。少しだけ塗り薬も出しておくから、毎日朝と夜に塗ってね」
「ん?あら、あなたの
「
何のことか分からずにいた
「
突然喋りだした
「うふふ、この
「そうなんですね、わかりました!治療までしてもらって……ありがとうございます」
「いいのよ、頑張る女の子は最強なんだからね。でも無理はしちゃダメよ。京月隊長も、怖そうに見えて優しい人だから、いっぱい頼ってあげてね」
「はい、ありがとうございます!じゃあ、行ってきます!」