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第65話:ピンク頭の謝罪

 帰り道、ホッとしたのもあったのか俺も酔いが回ってきた。娘達お勧めの道は歩けなさそうだ。


 普通の道を、せしるんをおぶったまま歩く。


「やっと終わったな……」

「うん、お父さん大丈夫? だいぶ飲んでたみたいだけど……」


 俺は昔から酒は結構飲める。酔わないわけじゃないけど、たくさん飲めるのだ。これは医療機器の営業のときはすごく役に立った。学会とかで全国に付いていくし、接待もしないといけない。そんなときに一人酔いつぶれんわけにはいかなかったから。


「鍛え方が違うからな」

「もう……ホントかなぁ、もう」


 お姉ちゃんが心配してくれている。子供にこんなに心配させるのは悪い親だな……。


「お父さん、せしるんをお持ち帰り……ぷっ、くっくっくっ……」


 智恵理、笑いすぎだぞ。どこの世界にそういう目的でお持ち帰りするのに、娘を連れて行くやつがいるっていうんだ。


「せしるんはお前達と仲良くしたかっただけじゃないのかぁ?」

「もうせしるんは仲良くしてるよ? 最近はお父さんのことをやたら聞いてたよ?」

「そ、そうなのか?」


 娘達に好かれているのは自分でも感じてるから、それに感化されただけじゃないのか?


「うちにきてご飯作ったり、最近アピールしてたの気づいてなかったの?」


 普通に娘達に会いに来てるのかと思ってたぞ。


 待て待て。娘達はせしるんの気持ちを知っていたってのか!? 


「おうちのお掃除とかも頑張ってたよ? お父さんは掃除にはあんまりこだわらないよってったんだけど……」


 俺は掃除とかあんまり気にしないから……。確かに全く気づいてなかった。


「お父さんが好きなリフォームとかも積極的だったよ?」


 動画のネタになるからと思ってたぞ……。


「やったことないのに、農作業とか教えてもらいに畑に行ってたよね?」


 そっちも動画のネタにするんだと……実際動画のアクセス数が増えているって言ってたし。


「あーあ、せしるんかわいそー」


 お姉ちゃんが俺を責めてる!? 俺は悪いやつなのか!?


「智恵理、笑ってないで助けてくれ!」

「はははははー、ひー、ふー、おかしぃ。お腹痛い。助けてー」


 ダメだこりゃ。


「お父さんはあれだけはっきり意思表示されたんだから、ちゃんと答えないとね」

「……そうだね」


 その日はせしるんをおぶって自宅に戻ったのだった。……あと、娘がいてくれてよかった。


 若い娘さんを連れて帰ったとしても、どうしたらいいか分からなかった。ほら、そのまま寝かせていいものか、悪いものか……。


 ベッドも俺のベッドに寝かせていいものか、ソファの方がいいものか。ソファだと寝返りうったときに落ちてしまわないか、とか思うじゃない?


 あと、飲みすぎてるみたいだけど急性アルコール中毒になってないかな。脱水症状の場合は、枕元にスポーツ飲料を置いておくとしても、心配だから可能なら朝まで様子を見たい。


 その一方で、寝ている若い娘さんの様子を俺みたいなおっさんがのぞき込んでいいとは思えない。


 その辺は申し訳ないけど、娘達にお任せしよう……。



 ○●○


 そして、次の朝……。


「……」


 リビングのソファで寝ていた俺が目覚めたら、ピンクの頭が土下座していた。


「このような失態……、よもや切腹いたします!」

「流血騒ぎ!」


 俺が寝ていたソファの前でせしるんが土下座していたんだけど、いつからここにいたんだろう……。娘達よ、こういうのも止めておいてくれよ。


 テーブルで優雅にブレックファストを堪能している娘達に視線を送ってみた。


「せしるんが絶対そうやって待つって聞かないんだもん!」 


 俺は何も言ってないのに、お姉ちゃんから返事が返ってきた。


 智恵理はホットケーキ食べてるのか? 夢中になってるし……。


「まあ、無事なら大丈夫だから」

「いえいえ、ご迷惑をおかけしまして、申し訳けござらぬ……」


 たまにせしるんの中に武士が入ってるときは、ほんとにテンパってるときかな?


「ごめんごめん、俺もあんまり庇えなかったし……。でも、飲み過ぎは危ないから、容量、用法をよく確認して適量を……」

「途中からお父さんがせしるんの盃を取ってお酒飲んでましたー」


 お姉ちゃんめ、余計なことを……。あと、盃じゃなくてお猪口な。ヤクザの儀式じゃないんだから……。


「せしるんはお酒強いの? 結構飲んでたみたいだけど……」

「……初めて飲みました」


 すげぇな。初めてがあんな場面だなんて……。そういう意味では全然失敗のうちに入らない。


「自分が飲める量を知ることは大事だからね。特に女の子は飲みすぎると危ないから……」

「はいーーー、二度とこのようなことがないよういたしますゆえ、ひらに、ひらにご容赦をーーー」



 この武士は、段々バカにされてるみたいな気がして、逆に腹立ってくるな。


 それよりも、昨日急に求婚されてこっちは混乱したんだけど……。彼女としては、就職先とかコンテンツのネタの供給元とかって考えなのかもしれないけど、まだ離婚して間もない意識の俺にとっては……。


 結婚はもういいや。


「お父さん、念の為言っとくと今日は村長さんがこれからの村のための活動について話し合いをするって言ってたからね?」


 そう言えば、そんな話があった。俺も飲んできれいに忘れてた。


「夕方からだっけ?」

「3時から」


 あー……ガッツリ飲んだ日の次の日はしんどいなぁ。


「お父さん、ご飯は帰ってきてから食べる?」

「あー……どうするかなぁ」


 打合せって3時からか……、夕飯を村長さんたちと一緒に食べるか微妙な時間だった。お姉ちゃんに作ってもらって食べないのは申し訳ないし、作らないでもらっててやっぱり食べるってのも……。


「わ、私、作ります! 作らせてください!」


 せしるんが右手を高らかに上げて立候補した。顔は真剣な表情だった。


「……じゃあ、せしるんさんお願いしますね」


 お姉ちゃんはあたたかい表情を浮かべてる。


 俺のご飯はどうなるのか宙ぶらりんのまま、せしるんが作ってくれることに決まったようだった。


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