えー……何から説明したらいい?
とりあえず、今は村長さんの家でご飯をいただいてます。善福熊五郎、42歳。焼酎みたいな名前ですが、本名です。
村長さんのうちの客間はかなり広い。ちょっとした集会とかもやるのかもしれない。旅館の宴会場くらい広い。霞取さんも納得してくれそうな和風の空間。
そこにローテーブルを置いて、上座に俺が座ってます。いや、座らされてます。なんかものすごい分厚い座布団で。しかも、ローテーブルは長い方に座ってるから。
そして、右側にせしるん。左側にお姉ちゃん。長手には3人しか入らないから、お姉ちゃんの90度横に智恵理。
ローテーブルの俺の向かいには、村長さんと霞取さんが座ってる。なんだこの座り方は!?
さらに、ローテーブルの上には料理が所狭しと並んでる。どう考えてもここにいるメンバーだけで食べられる量じゃない!
料理は村長さんの奥さんとせしるんと娘達が作ったらしい。霞取さんに合わせて和食中心のメニュー。それでも、智恵理用なのかハンバーグやスパゲティも入ってる。
酒を飲むと霞取さんも村長さんと仲良さげに話しながら酒を飲んでいた。娘達は普通にご飯を食べていたけど、俺はポカーンだった。
村長さん達は料理ができる間、待つ意味も含めてすぐに飲み始めてしまった。そこに俺もなぜか参加していた。
「祝言はいつにするんじゃ?」
そんなことを村長さんに聞かれた。「シュウゲン」とはなんだろう?
「まさか、村で人気のあん人を村外から来たあんたがかっさらって行くとはね」
「あ……いや……そんな……」
もっとも現状が分かってないのが俺……って感じだった。
そして、料理ができたら、せしるんは俺の横に座るように案内されてた。村長さんと霞取さんに酒を勧められて飲んでた。必死に飲んてる感じだったけど、大丈夫か!?
テーブル向かいから村長さんと霞取さんが入れ違いで次々酒を継ぎに来る。
「いやー」とか言いながら注がれたら律儀に次々飲んでる。
「どうじゃ、わしの純米大吟醸はーーー」
「美味しいですーーー、私、お酒分からないですけど、すっきりしてて飲みやすいですーーー」
純米大吟醸って精米歩合が30パーセントとかじゃなかったっけ? つまり、お米を削って7割捨ててしまう……捨てるのか? なんかに再利用するのか? ああ、俺も酔っ払ってきて頭がおかしくなってきている。
「熊五郎さんも! こんな若いカミさんもらうなんて隅におけんなぁ」
「え? あ? え? ええーーー!?」
もしかして、俺ってやっぱり、せしるんと結婚する流れで捉えられてる!? そんな話はこれまで1回もしたことないし、そんな雰囲気も一切なかったよ!?
「ほれ、あんたも旦那様に料理をよそってやらんか」
「はい! お父さん、何がいいですか? 肉じゃががお勧めです。キンピラごぼうはお姉ちゃんが作りました」
いや、普通によそってんじゃない!
「あーんとかはせんのか? それはうちの中だけなのか?」
村長さんがからかってる。もう酔っ払ってるな。
「お父さん、あーん……」
せしるんが肉ジャガのジャガイモがを箸で掴んで俺の方に近づける。
そんなのを平気で食べられるわけがない。
「せしるん、酔っ払ってるから! あーんは大丈夫だから!」
娘達にみっともない姿を見られるのも痛い。せしるんをなだめて、よそってもらった肉ジャガを自分で食べて落ち着かせた。
娘の方を見ると……。俺は恐る恐る反対側を向いてみた。
「ハンバーグもどうぞ」
お姉ちゃんが別の取皿にハンバーグをよそって置いてくれている。でも、なんか少しずつよそよそしい。
智恵理は座ったまま下を向いて笑いを堪えている。いや、笑いごとじゃないからね!?
村長さんの奥さんと孫の3人はまだまだ料理を持ってくる。俺をフードファイターかなんかだと思ってない!?
「村長さんも、霞取さんももう勘弁してください。お二人を差し置いて上座に座るなんて居心地が悪くて……」
俺はそうそうに泣きを入れた。
「なんばいいよっとや。話ばまとめた立役者さんばもてなさんでどうすっとや!」
村長さんは完全に酔っ払ってる!
「あんたが次の村長やからな。上座に座るんは当たり前やろ」
霞取さんも同意!? そして、俺は村長することになってる!?
「あのー……村長って選挙とか、そういうので決めるんじゃ……。俺ってそんなに知名度とかないですし、昨日今日来た人間ですので信用もないですし……」
「なーーーんばいいよっとや! この村であんたのことを知らん人とかおらんくさ!」
村長全否定。それは悪目立ちしてるってことでしょうか……?
「村にとつぜん現れた人気の姉妹の父親で、なーんもない空き地に一万人呼びおった。しかも、村で人気のピンク頭の若いおなごを女房に娶った……こりゃ、有名人たい! 村じゃ天皇陛下と総理大臣の次に有名たい!」
今の総理大臣って誰か俺は知らないぞ……? あんまり知らないことの例えじゃないよね!?
「しかも、村長は村で話し合いで決めるったい。現村長のわしと、霞取さんが推薦したらまず決定たい」
嘘でしょ。
「熊五郎さんは何もウリがなかったこの村にあげなおっきな直売所を作って、日に4000人も5000人もよばっしゃー、恐ろしか人やけんね!」
またそんなにさんの奥さんが新しい料理を持って来てくれて、そんなことを言った。
俺に味方はいないのか!?
直売所の土地は村長さんのもの。建物を建ててくれたのも村長さんだ。集客とか色々教えてくれたり、助けてくれたのは狭間さん達。
……俺、何もしてなくね?
集客とかは娘達とせしるんにおまかせだし!
「やっぱり、俺は何もしてないですよ。村長さんのお力と狭間さん達の助力があったから……」
「わしが土地と建物のカネを出したんは、あんたやったけんたいね!」
村長さんは当たり前みたいに言った。
「でも、俺にはノウハウみたいのはなくて……狭間さんがいたから……」
「あん人はあん人で自分の城ばもっとう人やろ。うちの村んことは助けてくれてもうちの村ん人じゃなか。しかも、あんたやけん助けてくれとうばい、あれは」
それは村長さんの買い被りだ。
「わしも、そげん人やって思ったから村のこれからを任せてみようと思った」
いやいやいや、霞取さんとはほとんど話もしたことないし、そんな風に思われる要素なかったですから!
「私も、そんなお父さんの奥さんになれるなら嬉しいですーーー!」
急に横から、せしるんが首に抱きついてきた。ダメだ完全に酔っ払ってる。ベロンベロンだ。でも、なんかいいにおいがするし、色々やわらかいし。
反対側からはお姉ちゃんが服の裾を摘んてる。大丈夫。急にどっかに行ったりしないから!
智恵理は顔を手で隠して自分の膝をひたすらつねってる。必死に笑いを堪らえようとしてるみたい。笑ってないで助けてくれてもいいんじゃないだろうか。
誰か、このカオスな場面を表す言葉を教えてくれ!
宴会(?)はひたすら続き、せしるんが座ってお猪口を持っまま眠ってしまったところでお開きとなった。
村長さんと霞取さんは和解し、今後は協力体制を築き共に村の発展のためにお金と助言と助力を惜しまないことで決着を見たらしい。
あの道の駅の土地は、今後は何かあったら好きに使っていいそうだ。現在の店長である駅長は直売所の方で仕事を継続、コンニャクばぁさんも直売所専属となった。
霞取さんは定期的に村長さんの家に行き、ご飯をご馳走になるらしい。しかし、そんな会はそう続かないと思ったら、「全体会議」という名前で俺も参加することになってしまった。
大体月に一回、何かあるときはもっと。ご飯を食べて、酒を飲みながら、村の現在と未来の話をするのだ。これなら霞取さんも寂しくないし、他の村民との交流も疎かになることはなさそうだ。
なぜか一定の成果を収めてしまった食事会も終わり、その帰り道のこと。
「熊五郎さん、奥さんば家まで送ってやって」
もう、せしるんは「奥さん」って呼ばれてるし!
村長さんのご命令だ。みんな飲んでるから車では送ることができない。
せしるんはぐでんぐでんだった。自分で立ってもいられないほど。意識があるかも怪しいのだ。
「お父さん、わたしとちぃちゃんは大丈夫だから、せしるんさんをお願いね」
ここにも味方はいなかった。娘達を夜の田舎道を二人だけで帰すのは不安だったけど、付き添うとしたら、村長さんの孫3人となる。送り狼の方が心配なので、丁重にお断りした。
よく考えたら、お姉ちゃんと智恵理なので普通の道を普通に歩くわけがない。俺も知らない近道をちゃきちゃき帰りそう。二人とも足も速いし、普通の人が追いかけて来ても追いつかれない。
それでも不安は残るもの。娘なんだから当然だ。
それでも、せしるんを放置はできない。しょうがないので、せしるんをうちに連れて行って今晩は泊めることにした。
俺はせしるんをおぶって、娘達二人と共に帰宅したのだった。