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第60話:問題……なし

 特にトラブルなくロースタートで直売所「糸より村コンニャク」は営業を開始した。


 コンニャクは今回も瞬殺だった。もっと作ればよかったけど、お姉ちゃん手作りなので量産は難しいのだ。


 そして、問題の野菜なのだけど……。


「善福さん、野菜は第一陣がハケました!」


 レジなどを手伝ってくれている村民の奥さん(30代)が教えてくれた。


「善福さん、予定より早いが騒動なくいっとるな」


 村長さんも見に来てくれている。俺の様子を見てもわかるように、今回は余裕があった。


 それというのも、今回の「最大の変化」は野菜の仕入れ元なのだ。もちろん、糸より村産の野菜なのは変わらない。


 農家さん達は自分の畑の野菜を直売所に出荷していない。それでも、村民の農家さんが直売所に野菜を出してくれている。


 そんな「とんち」みたいな解決法の種明かしは、村長さんだ。


 村長さんの畑を村民に手伝ってもらったのだ。所有者も作付者も村長さん。賛同してくれた農家さんは作業者として参加した形だ。


 元々休めていた土地はかなりあった。そこを耕すところから始めた。当然、耕す人間も足りないし、道具も村長さんちの耕運機だけじゃ終わらない。協力者の家の耕運機も導入して大々的にやった。


 種植え、苗植えなんかはプロだからすぐに終わってしまう。担当の畑を作ってそれぞれで面倒みてもらったのだ。


 そして、直売所は棚ごとに担当を作っているので、自分の担当の棚が空になったら農家さんが自分の担当の畑から収穫して自分で並べる流れになっている。


 これは村長さんが村民に畑を貸したのとほとんど変わらない。言ってみれば詭弁だ。当然、霞取さんは話を聞きつけたら文句を言ってくるだろう。


 俺もその点については不安に思っていた。しかし、事前の打ち合わせのときに、村長さんが「わしに任しとけ」って言ってた。自信あり気だったので丸投げした形だ。


「だいぶ余裕が出てきたみたいですね」

「あ、狭間さん!」


 グラウンドオープンってことで、狭間さんも高鳥さんも、東ヶ崎さんも来てくれたみたい。


「助けてくださってありがとうございます!」

「いえいえ、うちとしても十分に商機だと考えてます」


 確かに狭間さんのところの会社にお世話にならないと今はなかった。土地の基礎を打つところから、設計、建築と色んな会社を紹介してもらった。お弁当やお総菜を作るノウハウも教えてもらった。足りない設備をレンタルしてもらったり、人を紹介してもらったり……。色んなところで助けてもらってるから、当然報酬も払ってる。


 もし、他に頼んでたら今みたいにはなれなかった。借金まみれで直売所なんて夢のまた夢だったろう。


 仮に建てても閑古鳥が鳴く未来は悲惨極まりなかったはず。


「いやー、娘さん達の人気と集客力があってここでしたねー」


 多分、謙遜だ。狭間さんのところのYoutuberさんで「エルフ」って子についてネットで調べてみた。基本的にイラストが動く「Vチューバー」だったみたい。


 その後、リアルでも活動しているらしく、2次元にも3次元にもニーズがあるという稀有な存在らしい。登録者数だけの話でも300万人を超えたときのニュースがネットニュースに残ってた。


 ネットのおひねりであるスパチャは、スパチャだけで年間1億5000万円を超え、世界1位を獲得したらしい。スパチャだけで!


 せしるんみたいに個人勢じゃなく、ちゃんとVチューバー事務所に登録されていて、そこも狭間さんがやってるらしい。あの人、化け物だった。そして、当然オーナーさんは高鳥さん。


 そのエルフちゃんを今日、この直売所「糸より村コンニャク」に投入してくれるらしい。昼から公開ライブが予定されている。なんでも相性がいいMCさんがいるらしく、「光ちゃん」って子もくるのだとか。


 まさか……あの「光ちゃん」じゃないよね!? 「朝市」に視察に行ったときにメイド喫茶でバイト敬語で話しかけてきた光ちゃん……懐かしいな。


 彼女が高鳥さんを紹介してくれていなかったら、今頃………考えただけで震えがくる。もし会えるならお礼を言いたい。


 まあ、そんなこんなで「コト」消費として企画していた「野菜の詰め放題」も楽々対応ができる。


 急遽企画した「商品付きじゃんけん大会」も盛り上がった。「くまくまミュー」のサイン、「にゃーたん」のサイン、「せしるん」のサイン、各人の握手、商品は比較的簡単に準備できるものだった。ちなみに一番人気は「お姉ちゃんのコンニャク」であった。手渡しであることから目を血走らせた「おっきなお友達」からの熱がすごかった。


 意外なところでは「村の消防団」の「消防訓練」もあり、予想外な人気があった。火災のときに現場から最寄りの水源までホースを円滑につなぐ「連結訓練」、練習用消火器を使った「消火訓練」、そして、もしもの際の応急処置の方法を教える「応急手当訓練」。後者二つが参加型になっていた。


 お客さんには子供連れも多く、消防車が来る連結訓練が人気だった。親御さんたちには応急手当訓練が役に立つと思われたみたいで、実際に包帯を巻いたり、三角巾で腕を吊ったりしたんだけど、真剣に消防団員の話を聞いていたのが印象的だった。


 もちろん、お姉ちゃん、智恵理、せしるんのセッション……というか、もはやバンドだと思う……これも人気だった。別々の人が一緒に演奏するのが「セッション」。そういうには、最近の彼女達は一緒に演奏する機会が多い。ここにも「名前」が必要そうだ。


 機材については、今回はほとんどが新しいものだった。せしるんが買い替えたのかと思ったら、智恵理のものだったらしい。あんなのって高価じゃないんだろうか……。


 以前の家では部屋の中が謎の機材でいっぱいだったらしい。だから、以前の家では俺を部屋に入れてくれなかったのか。お父さん無駄に傷ついてたから!


 これだけの規模のイベントなのに、大きなトラブルがほとんど起きていない。迷子が出たり、落とし物をした人がいたり、昼過ぎにトイレが混雑したり……。まるっきり無いわけじゃないけど、大きな問題にはならなかった。しかも、それらも次回以降は改善できそうだ。


 大きなトラブルはないものの、俺は各所に走り回っていた。走りすぎて痩せちゃったらどうしてくれる! 


 迷子センターでは……。


「さっきの迷子ちゃんは、どうなりましたか!?」

「あ、お母さんが迎えに来られました」

「良かった……」


 ちゃんのスタッフさんがいたから、俺は来なくても大丈夫だったか。


 トイレでは……。


「あれ? 行列は!?」

「男性用の仮設トイレが多かったので、女性用に変えたので行列は解消しました。男用の女用が同数になってたみたいですね」

「なるほど……」


 男性用と女性用のトイレの比率なんて一般人の俺では思いつかない。普通に一対一にしてたわー。


 次の混雑場所は……。


「何あの人だかり!?」

「あ、エルフちゃんが一人にサインしちゃって、次々ファンが集ったみたいです」

「それで、どうなったの!?」

「なんか、人混みに乗じて姿が消えたみたいです」


 ほんとに人間なんだよね!? あの子……。


 多少の問題はありつつも、大筋では全く問題なくグランドオープンを終えた。来客数も売り上げも目標を大きく超えて達成した。


 しかも、来たくても来れない人も全国に……いや、全世界にいたみたいで、後日編集の上アップロードした、せしるんの動画の再生数もうなぎ上りだったらしい。


 これまでのことを考えたら、こんなに全てがうまくいったことなんてなかったので、俺的には物足りなさまで感じていた。


 また関係者全員で集まって拍手をしたり、ばんざいをしたりして解散した。


 そして数日後、村長さんが霞取さんの家を訪問することになる。修羅場になることが予想されたが、俺とうちの姉妹、そしてせしるんも連れて行くのだとのこと。「問題は後日だったか……」と心の中でつぶやいた。


 ……嫌な予感しかしない。また不動明王様にお参りしてから行くことにしようと思うのだった。


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