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第54話:トラックの群れ

 中学・高校への転入を済ませた智絵里、お姉ちゃんは楽しく学校生活を過ごしているようだ。グラウンドを使って大騒ぎしたものの!元々騒ぎを起こす性格じゃない。


 お姉ちゃんは周囲に気を使うから慕われているらしい(智絵里談)。


 智絵里は元々あんまり人と交流しないので、周りの目を気にせず一人でいたら「孤高の存在」のように扱われ、一歩引いたところから見つめられているらしい。(お姉ちゃん談)


 俺は学校の中には入れないから、それぞれの情報はそれぞれから聞いたものだけど、お姉ちゃんも智絵里もクラスにあの村長さんのお孫さんがいるので、強い後ろ盾を得て敵はいないらしい。


 心配していたいじめ問題はないらしい。そんな変な子はいないのだとか。分校とまではいかないけれどずっと同じクラスで小・中・高校へと上がっていくこの村では、問題を起こすと生きていけないという意識があるとのこと。


 いても許容範囲内。すごいいじめはガキ大将的な子がいなすのだとか。


 最悪のケースとして、カッターとかで教科書をボロボロにされて泣きながら娘達が帰ってくることまで考えていたのに肩透かしだった。


 案外子どもだけならうまくいくのかもしれない。変に大人の世界が関わると変な話になってくるだけだ。


 肩透かし、取り越し苦労……っていいな。何も起きないのが一番いい。今が一番幸せだ。


 そんなお姉ちゃんと智絵里が帰宅後、狭間さん達と打ち合わせした直売所「糸より村コンニャク」プレオープンの話を聞いた。


 これは基本的に公民館横の空き地にアミコンをひっくり返したものを並べ、その上にベニア板を置いたものが棚となる。野菜によってはそのまま置き、野菜によってはカゴに入れた状態で陳列する。


 屋根はないので例のキャンプ用のタープを貼る。とりあえずの雨対策だ。天気が良すぎる日の日除けも兼ねている。オープンの日以外はすぐに外せるのも便利。


 土日の2日間だけのひっそりとしたオープンなので、告知も2週間前とした。さすがに今週末オープンと言われても、既に予定が入っている人もいるだろう。


 コンニャクは前回100作って瞬殺だったので、2倍の200準備した。野菜もうちのものと、村長さんちのもの押さえ、十分量確保した。


 色々無理なく準備したプレオープンだった。準備したプレオープンだったはずなのに……。



 ○●○



 当日、500人が集まってしまった!


 例の動画に誘われてたらしい。オープンも何も壁なんてない。朝4時には人が集まり始め、中にはキャンピングカーで乗り付ける猛者もいた。


 公民館横の仮店舗前を先頭にずらーーーっと人の列。前回は朝から100人が並んでてんてこ舞いしたのを覚えている。今回はその5倍!


 トラブルを回避するためにコンニャクには整理券を急遽配布して並んでいる列の人に配った。当日朝でも対応できる智絵里すごいな。


 A4サイズの紙を6等分した大きさで、「糸より村コンニャク券」と印刷されている。あと、智絵里の簡単なイラストも入ってる。買う人はみんな見るから、思わぬところでブランド名を認識してもらえたかもしれない。


 オープンは午前9時からの予定だったが、8時には販売を開始した。コンニャクは全然足りなかったので、元々やろうと準備していた「コンニャク作り体験」の枠を増やした。


 これは、コンニャクばぁモモエちゃんとお姉ちゃんが一緒にコンニャク作りを教える体験コーナーだ。さすがに外ではできないので公民館の中で全部の仕切りを取っ払ってだだっ広いところに折りたたみのテーブルを持ち込み開催するのだ。


 子ども達の貴重な体験にと事前の募集ではファミリーの申込みが多かった。ちっちゃなお友達にも人気だったが、お姉ちゃんが参加するのでおっきなお友達にも大人気だった。


 コンニャクは整理券を配ったのに瞬殺でなくなった。野菜も次々出さないと間に合わない。店舗は屋外なのだけど、列を管理して人員整理しないと事故につながりかねない人手だった。


「この調子でイベントやったら事故が起こっちゃう!」


 お姉ちゃんが心配していた。


「それは大丈夫。朝、狭間さんに電話したら何か人を出してくれるらしい」

「何人くらい来てくれるんだろう?」

「ハンドレッド10人って言ってたんだけど……、『ハンドレッド』ってなんだろう? 100人力の人?」

「まあ、狭間さんなら大丈夫なはず……」


 後で聞いたのだけど、狭間さんは国内外に数万人、数十万人の部下がいるらしい。100人に1人の優秀な人を「ハンドレッド」って称号で呼んでるらしい。そんな人が10人も来てくれたらそれこそ100人力だ。


 朝の怒涛のラッシュをすぎると、一気に店舗は暇になった。それというのも裏の広大な土地で公開収録をおこなうからだ。直売所「糸より村コンニャク」に来てくれた人は漏らさず「にゃーたん」、「くまくまミュー」、「せしるん」のファンなのだから。


 その三人がイベントをすると言ったら、野菜そっちのけでイベントに集った。前回同様の特設屋外収録スタジオがある。多分、せしるんのものだろう。


『おはようございまーす! 今日は、糸より村の直売所「糸より村コンニャク」より公開収録でーす!』

「「「わーーーーーっ!」」」


 お姉ちゃんの爽やかな挨拶で盛り上がった。


「掘っ立て小屋すらないからー↓ 屋外ってか外! 外だから!」

「「「わはははは」」」


 智絵里もテンション低いし、ネガティブ発現なのにウケてる。これはこれですごい。


「わたっ、私っ、ちゃんと生きてますかっ!?」


 せしるんが慌てながら左右のうちの娘達をキョロキョロしながら話している。


「『にゃーたん』様と『くまくまミュー』様と公開収録しちゃってるんですーーー! ヤバいヤバいヤバい。心臓がオーバードライブです! そのうち止まっちゃう! 私、まだ生きてる!?」

「「「わはははは」」」


 せしるんもこのキャラでウケてた。お父さんじゃないけど何だか心配してたんだ。


 もっと内容を見ていたいけど、俺は野菜の品出し作業がある。


 狭間さんからのヘルプの人も来てくれて店は捌けている。次々来る車も広い土地に案内していく。


 一部は野菜を並べ、一部はモモエばぁさんがやる方のコンニャク作り教室への参加者もいた。こっちは主にファミリー客だった。


 こっちはこっちで人気。


 思いの外、人が多くて昼飯を食べる暇がない……いや、お客さんは!? お客さんはどこで昼飯を食べるんだ!?


 そんなときだった。でかいトラックが10台、いやもっと。20台!? あれはなんだ!?



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