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第53話:騒ぎの後

 あの騒ぎから一日。俺は昨日は学校関係者の人からこっぴどく叱られた。まあ、当然だ。


 ところが、あれ以来生徒達から「あの二人はいつから登校してくるのか」と転校が前提の質問が多数でているのだとか。昨日に続いて今日も校長先生と教頭先生がうちに来られて抗議していかられた。


 一部の動画が公開されると、謎のYouTuberが2人も通う田舎の学校ということで話題になり、ファンが「村に引っ越してでも転校したい!」と言い出した。


 実際に学校には問い合わせの電話が鳴り止まないらしく、今日の抗議はこれだった。


 数日後には一部のメディアが「私怨で入学できない生徒がいる」などと学校に外圧がかかるようになってきた。まさに数の暴力。校長や教頭が入学できる生徒を選んでいいのは当たり前。


 しかし、生徒たちはいつから登校するのか教師陣に質問し、フワフワした答えを返すと大騒ぎ。マスコミからの問い合わせで、入学させない理由を問われても答えられなくなってきていた。内と外からのプレッシャーで、もはや入学を許さないわけにはいかないところまで来ていた。


 しかも、入学試験は点数こそ非公開ながら二人とも自己採点90点以上。下手したら100点もあり得るくらいできが良かった。断る理由を考えるほうが難しい状態にまでなって来ていたのだ。


 この問題は「糸より村」がマスコミに取り上げられるきっかけとなり、ネガティブニュースは困るという理由で7日後に校長と教頭が三度我が家を訪れ、転校承認の旨、告げに来たのだった。



 〇●〇



 村長は少し焦っていた。村主催のキャンペーンを何も行っていないのに、5組の家族が村に引っ越したいと申し出てきたのだ。いずれも子どもがいるファミリー世帯で、村が求めている家族構成だった。


 理由を聞くと、「くまくまにゅー」「にゃーたん」と同じ学校に通いたい、というもの。問い合わせの数だけで言ったら100を超えていたものの、実際に引っ越してくる家族もいたのだ。


 村長は大喜び。そして、その家族を受け入れる旨学校に希望した。学校は学校、独立した組織であるものの、地域のトップの意見は取り入れざるを得ない。しかも、ここは糸より村。絵に書いたような田舎だ。村長の意見は一般的なそれより大きな意味を持つ。


 必然的に善福姉妹も在学していないと辻褄が合わなくなってしまう。次第に学校側がいつから投稿できるか善福家に問い合わせをしてくるまでになっていた。



 〇●〇



 初登校の日、数人のYoutuberと地域情報の雑誌の記者が人気Youtuberが過疎村の学校に転入する記事を書くために訪れていた。


 もちろん、あの人も。


「にゃーたん様! くまくまミュー様! 制服が大変似合ってます!」


 そう、ピンク頭のYouTuber岡里セシル、通称「せしるん」だ。


「ありがとー! せしるんさん!」


 お姉ちゃんがせしるんに抱きつく。


「きゅーーーーー!」


 せしるんは変な声を上げて顔を真っ赤にしている。目がすごい速さで泳いでいるから、多分マンガとかはこんな様子をイラスト化したのだろう。


 学校の敷地内に入ると関係者以外は入れない。取材関係者達の仕事は終わり、インタビューも取れたし、学校の外観写真も撮れた。あとは早く帰って記事にしたいのだ。


 お姉ちゃんと智絵里は校舎入口に向かった。転入手続きなどは既に終わっていたけれど、初日はまず職員室に向かうことになっていたからだ。


 入口横には日向が立っていた。村長の孫の次男だ。


「……」


 何も言わずお姉ちゃん、智絵里の動きを見守っていた。


「……」


 お姉ちゃんも特に声はかけなかった。ただ、すれ違うまでお互いの視線は合ったまま。


 そして、すれ違うタイミングで日向がグーを肩の高さまで持ち上げた。お姉ちゃんはそのグーに合わせるようにグーをぶつけた。


 ニヤリとする日向、軽くウインクで返すお姉ちゃん。いつからか二人は作戦を立てていた。そうでなければ学校の昼食の時間にYoutuberのロックがかかるわけがない。


 演奏のための機材を誰にも気づかれず持ち込むことなどできない。入学してもいない学校の校歌を知ることもない。


 こうしてずっと懸念事項の一つとなっていた善福姉妹の中学・高校への転入が実現した。



 後日譚として、善福姉妹は生徒達に圧倒的な人気を誇っていた。全学年1クラスだったので必然的に同じ年齢の生徒は歓喜したという。生徒数は学年によって一様ではなく、上下の学年との合同クラスもあり、智絵里に関しては中学2年生だが2年・3年合同クラスに入ることになった。


 そして、二人は毎日なにかしらのプレゼントをもらって帰ってくるようになった。ただ、ここは田舎。プレゼントとは野菜とか肉とか。


 ちょっと珍しいプレゼントに困惑するのは父親の熊五郎だった。


「ニンジンとりんごってどんな組合せ!? これって何のメニューを想定して!?」


 みんな好き勝手なものをプレゼントするからしょうがないのである。善福家ではエンゲル係数(食費)が急激に低くなったのに、クオリティは上がるという謎現象が発生するのだった。


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