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第50話:土地の下見

「公民館って村のために使ってもいいんでしょうか?」


 狭間さんの提案で、俺は村長さんの所に行った。そしたら、村長さんの持っている土地で空きがある建物についての話になって、村長さん、狭間さん達三人、俺達親子三人の6人で公民館まで来たんだ。


 ちなみに、狭間さん今回はベンツだった。きっとすごいお金持ちなんだろうな……。


「空家は20軒、30軒あるっちゃけど、みんな古かけんね。それと、一番広かって言ったらここやんね」


 大家さんが案内してくれた公民館は、俺がこの村に入るれるかの試験を受けた場所だった。部屋数もいくつかあってそれなりに広い。習い事とかも開催しているみたいなので部屋数もあるのだけど、野菜の直売所にしてしまうには建物の構造上あまり適していない様に見える。


 野菜の直売所ってだだっ広いところに棚を置いて、その上に野菜が並べられている。当然、靴を脱がずにそのまま入ってくる感じ。一方、公民館は玄関で靴を脱いで廊下に上がり、目的の部屋に向かう感じだ。


 面接などを行ったことからも建物自体は比較的新しい。でも、野菜直売所には向いてないと思われた。


「ここは何ですか?」

「ここは空き地たいね。こん人達が草刈りばしたったい」


 そう、公民館のすぐ裏はだだっ広い空き地。野球場くらい広い空き地だった。俺達親子が三人で草刈り……というより森林伐採? したところ。一旦はきれいになったんだけど、また少しずつ草が生えて来ていた。


「ここも村長さんの土地ですか?」

「そうたいね。村の運動会をするか、新しい村民のための家を建てるか、新しい鶏舎を建てるか……なんか村のために使おうと思ったったい」


 狭間さんの質問に村長さんが答えた。俺達は何に使うか分からない所を草刈りさせられていたのか……。まあ、給料は多めにもらったからいいか。


「ここに簡易的な直売所を作りましょう!」

「はぁ!? なんばいいよっと!? こーんなだだっ広いところに直売所とか作って笑われるばい!」


 確かに野球場の広さに野菜の直売所がポツンとあったら変に感じてしまう。道の駅「いとより」はコンビニよりちょっと大きいくさいの大きさなので、村長さんのイメージもそれだろう。


 しかし、俺は知っている。「朝市」は野菜の直売所というよりは食のテーマパーク。駐車場の広さも半端じゃない。


「うちの直売所は1日に1万人以上の方に来ていただいています。一番の問題は駐車場がないことと、土地を気軽に広げられない事です。ここなら思う存分広げられます」

「……そんなカネはないったいね。貧乏な村やけん」


 狭間さん達の「朝市」規模の建物を建てようとしたら、それなりの費用がかかる。費用抑え目に鉄骨造りにしても何千万円くらすに……。


「最初はプレハブサイズで行きましょう。晴れの日は公民館とプレハブの前にカゴを出して野菜を並べます。初期投資はほとんどなくて直売所が始められます」

「そげんこと言ったって、こんな村にそんなに人が来たりは……」


 村長さんの言うのももっともだ。元々過疎が進んでいるから村を盛り上げたいという企画だ。村の一画に急に直売所を作っても、そこに来てくれる人なんて……。


「では、初回は特別な1日だけのイベントということにしましょう。そこにそれくらいの人が来るか見てから判断いただく、ということで」

「それなら……」


 あっという間に話をまとめてしまった。狭間さんだったらロシア人にアイスクリームを売ることもできそうだし、赤道の直下の国の人にセーターを売ることができるのではないかと思った。


「じゃあ、次は……」


 〇●〇


 次に行ったところは、ピンク頭のYouTuber岡里セシルの家に向かった。またぞろぞろと。


 客間にお邪魔したのだけど、本当に何もなくがらんとしていた。


「あれ? 荷物は?」


 俺は疑問に思って聞いてみた。


「おっ、おっ、お父様! それが私、どの部屋も広すぎて、2階の一番狭い部屋に機材を全部入れてそこで生活してるんです」


 最初の内見で見せてもらったときの記憶で言うと6畳くらいの和室が1つあったような……。


「他は?」

「あんまり使わない機材の置き場に……なってます。すいません、すいません」

「いえ、あなたの家なので好きに使ったらいいんだと思いますよ」


 なぜ、この「せしるん」は俺に謝るのか。そして「お父様」はやめてほしい。いずれ娘のどちらか一人を連れて行ったりしないよな!? 実は男だったみたいなのは荒唐無稽すぎるか。


「それで……あの……こちらは……?」


 そう言えば、狭間さん達の紹介がまだだった。


「こちらは……」


 〇●〇


「え!? 『朝市』ってもしかして『異世界の森』の拠点……!? エルフ様の神域!?」

「うちのメイド喫茶を知ってくれていたんですか。ありがとうございます」


 狭間さんが笑顔で答えると、せしるんが狭間さんを指さして「異世界の森の重役……?」、そして、高鳥さんを指さして「異世界の森のオーナー……?」とほとんど誰にも聞こえない声でつぶやいたと後、畳の上に土下座になって「ようこそ我が家に来てくださいましたーーー。このようなむさくるしいところで大変申し訳ございませんーーー」と畳に貼り付いてしまった。


 そう言えば、あのメイド喫茶って金髪の少女がいた。明らかにエルフ顔した子。せしるんが知っているってことは、人気なのかあの子は。たしかに、すごいオーラがあったけど……。


「俺は単なる裏方だから……」


 狭間さんもさすがに苦笑い。この人にこんな顔させるなんて、せしるんただもんじゃない。


「そんなに好きでいてくれるのなら、今度エルフちゃんを連れてきますから」

「ははーーーーーっ!」


 高鳥さんの提案には、水戸黄門の印籠が出た後みたいになってしまっていた。この子も相当面白いな。


 ここで狭間さんと高鳥さんの提案でYouTubeチャンネルについてコンテンツの整理を行うことになった。現状では、せしるんが自分のチャンネル内で村の紹介動画を何本かアップしていたことくらい。


「にゃーたん」ことお姉ちゃんと「くまくまにゅー」こと智恵理もそれぞれのチャンネル内で道の駅「いとより」の宣伝とコンニャクのイベント告知をした動画をあっぷした。ちなみに、コンニャクイベントの動画はイベント終了により現在は非公開にされている。


「コンテンツは1本に絞った方がいいのでしょうか……?」


 せしるんがすごすごと手を上げて狭間さんに質問した。


「ごめんなさい。俺も専門じゃないのでそこまで詳しくないけど……」

「狭間さんは芸能プロダクションを複数経営してるし、エルフちゃんのチャンネルの相談にも乗ってあげてますよね? 十分じゃないですか?」


 高鳥さんが援護射撃した。


 そんなすごい人、探そうと思っても逆に見つからないわ! この場合、狭間さんに質問するのが最適だろう。


「一本にしてしまうより、この場合は複数の方がいいでしょう」


 狭間さんの説明は実に明確だった。YouTubeがあんまりよく分かっていない俺でも分かったくらいだった。資料なんかを使っての専門的なレクチャーだったけど、素人レベルの俺の理解で掻い摘んでまとめると……。


 YouTubeはあくまでYouTubeってプラットフォーム上のビジネスなので、長い目で見るとYouTube自体が衰退することもあり得るのでYouTube以外にも片足くらいはツッコんでおく必要がある。


 YouTubeのアカウントも凍結されてしまうことがあるので、3人いるならそれぞれのアカウントはそのままに、「村紹介専用アカウント」とコンテンツを作ることを勧められた。


 そこで、どんな動画が村の紹介になり、村のことを知ってもらえるか考えることにした。ただ、こんなことは日本中の過疎化の市区町村がやりつくしたことだろう。正直、村の紹介動画なんて村自体に興味が無い人にとっては興味すらわかない。俺は自分の出番は無いな、とせしるんが出してくれた麦茶を飲んで黙ってみていた。


「はい」


 智恵理が手を上げた。


「はい。妹さん。きみは……くまくまみゅーさんだったね」


 狭間さんが資料を見ながら確認しながら言った。


「はい! リフォームがいいと思います!」


 は!? これまた斜め上な意見。こいつは村の紹介動画だって言ってるのに!


「それはどうしてそう思われますか?」

「お父さんとお姉ちゃんが家のリフォームをしてました。私はそれを撮影してて、顔にモザイクをかけてアップしました。家一軒のリフォームで登録者数が既に30万人になってます」


 なにーーーー!? そんな動画俺は知らないぞ!?


「村長さんが言ってたみたいに、村には空家がいっぱいあります。それをリフォームする動画は無限に撮れます。リフォームニーズとお姉ちゃんがリフォーム女子として既に人気を得ています。ある程度は『にゃーたん』だとバレている節もあるんですけど、大騒ぎせず生暖かく見守ってくれているリスナーもいます」


 いやいやいや、俺はそんな動画知らないから!


 智恵理はタブレットで動画の一覧を見せていた。既に登録者は32万人と表示されていた。


「それは面白いですね。専門性もあるし、1アカウントとして決定してよさそうなほどです」


 あっさり決められてしまった。いやいやいや、俺はそんなリフォームして回るほど暇はないぞ? 仕事を始めたら片手間でしかできないし! しかも、自分の家だと思うからできたことだし……。


 いや、これが本業になったとしたら……!? 食べていけるようになったとして、俺の仕事は「YouTuber」!? 娘達が同級生たちにいじめられてしまうのでは!? 「お前のとうちゃんYouTuber」みたいに! 職業に貴賎なしとは言うけれど……。


「まあまあ、お父さん」

「まあまあ、お父さん」


 俺が頭を抱えて苦悩していたら、右からお姉ちゃんが、左から智恵理が俺の肩に手を置いてくれた。慰め?



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