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第48話:解決した問題と解決していない問題

 元嫁の件は何となく片付いた気はする。何だかんだ言っても付き合いはそれなりに長い。もう村までは来ないだろう。それでも来たときは警察案件だ。


(ピリリリリ)電話が鳴った。最近嫌な電話が多いから電話が鳴ると無意識に悪いことの予感だと思ってしまう。


「善福熊五郎さんの携帯でしょうか?」


 嫌なことが続いているときに知らない番号からかかってくるときは、先に電話の主が名乗ってほしいもんだ。かけてきたってことは相手はこっちを知ってるわけだから。


「どちらさまでしょう?」


 はいとも、いいえとも言わずに、質問には質問で返す。「電話を受けたらこちらが名乗りましょう」なんてとても言えない「電話を受けたらまず相手の確認。なんなら、知らない番号からの電話は出ないようにしよう」などと娘達には教えないといけない。嫌な世の中になったな。


「失礼しました。老健センターの者です。善福翔子さまの件で……」


 母がお世話になっている施設だった。番号の登録を忘れていたらしい。


「すいません。いつもありがとうございます。母がどうかしましたか?」

「実は……翔子様というよりは、お父様が施設に来られまして……」


 なんだと!? DVからの避難だから、誰にも場所を知らせていないのに!


「それで、どうなりましたか?」

「着替えを持って来られたみたいで……。職員が受取り、面会は職員では判断できないので契約者の息子さんに確認してください、とお答えしたら帰って行かれました」


 どうやらまだトラブルは起こしていないらしい。そのうちキレてクレームを入れに行き始めるはずだ。


 それよりも、なぜ母が入っている施設を知っているのか!? 知ってるのは俺、ケアマネ、老健……警察。


 そういえば、最近の詐欺って進化してて、電話番号が偽装できるんだったな。少し前までは電話がかかってきたら(+86)みたいに国番号が表示されていたんだ。


 おじいちゃん、おばあちゃんならそこら辺騙せるかもだけど、最近は電話番号も偽装してくる。電話番号の末尾が(0110)となっているのは各県、各地域の警察署の番号だ。この番号から電話があって「警察ですが」と来たら信じてしまう。


 俺は娘に言われて電話が鳴ると、それがどこからなのか、迷惑電話なのか、そうではないのか判断するアプリを入れている。それだけに「○○警察署」って表示されたら信じてしまう。


 スプーピィング……って言ったか。従来は複数電話回線を持っているような大きな会社がどの電話から電話しても代表の番号が相手に表示させるための合法サービスだった。最近の詐欺電話はこれを悪用したものらしい。


 ん!? 待てよ!? 以前、警察署から電話がかかってきたことがあったな。それこそ清司と母の件で。そのとき母の入所先も話した!


 万が一、あれが本当の警察署ではなく、清司に雇われた別の人間からの電話だとしたら……!?


 今となっては確認する方法もない。でも、もしそんなことまでしてるとしたら、人は落ちるところまで落ちるもんだと思った。


 俺は施設との電話を終えて、すぐさま施設に向かった。担当者との打ち合わせというか、意志の確認のため。父親が来ても会わせない、と。理由は施設にも迷惑をかけるようになるし、母にも変なことをしたりし始めるから。


 騒ぎを起こして母がそこにいられなくするのが目的らしいから。


 施設には行かなくても打ち合わせは電話でもできる。でも、実際に顔を合わせないと分からないこともある。片道1時間かけて施設の担当者さんのところに行ったのだった。


 ○●○


「お父さん、手紙来てたよ」


 帰宅すると、ポストに封筒が入っていたのだとか。


「福岡市家庭裁判所」


 またこれだよ。こんなに施設とか警察とか弁護士さんとか連絡が来るのってどうなのか。少し前までは普通に暮らしてたと思ってたんだけど。


 普通のサイズの封筒なのでたいした内容じゃないな。段々こんなのに詳しくなっていくのが悲しいな。


 内容は……成年後見人が決まったらしい。要するに、母の何かしらを判断するときに公平に判断する人。裁判所が選任した弁護士さんが着任したらしい。


 この人にも会って挨拶くらいしとくか。何も知らずに迂闊に清司に会わせたりしたらやっかいなことになる。


 分かってたら今日福岡市内に行ったのに……。



 ○●○



 後日、この成年後見人の弁護士さんに会いに行った。別にフレンドリーとかでもないし、色々答えてもくれない。聞いたことに答えるって感じ。


 母の身分証明書類、貯金通帳、印鑑の提出を求められた。今後は財産関係は弁護士さんが管理してくれるらしい。


 色々聞いてみたけど、結局この人はお金しか管理しない。それでも、「弁護士」という職業を聞いて清司がビビって何もしないならばそれでいい。


 俺の目的は母の安全と恒久的な生活だから。


 弁護士さんとの話の中で得た情報としては、清司は母がお世話になっている施設の場所を探偵を使って調べてたのだとか。本人が弁護士さんに自慢げにそう言ったらしい。


 何でも成年後見人の申し立てをする上で母の所在情報が必要だったと言ったのだとか。弁護士さんは管轄の関係で福岡市内にいるかどうかだけ分かればいいだけで居場所を特定する必要はなかったらしい。それでも探偵を使って調べ上げているあたり清司の異常性が感じられる。


 こちらはまだ終わっていなさそうだ。


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