娘との関係を再確認して、俺(父親)と娘たちとの関係はそれほど悪くないことが分かった。……そう思うことにした。結局、妹の智恵理とは一緒にケーキを食べることはできなかったけど……。まあ、話してくれるし、思春期だしいいだろう。そういうことにした。
次は嫁の浮気の証拠を押さえることを考えた。
「あれ? お父さん出かけるの?」
長女の智子に訊かれた。
「あー……うん。ちょっと買い物」
娘に「お母さんの浮気の証拠を押さえに行くんだよ」なんて言えるはずもない。
「ホームセンターに行く?」
「え? まあ、ホームセンターも行こうと思ってたけど……」
「わーい、一緒に行くーーー」
まあ、娘とホームセンターに行くのは割と頻繁にあること。どんなものを買うのかはあんまり気にしたことないけど、そんなに高価なものを買ってた記憶はない。
コスメとかも売ってるから俺と一緒に行って、まとめて買うのかな? 支払いは俺の小遣いからになるけど、娘がほしいと思うもんなら買ってやりたい。
「お姉ちゃん達出かけるの?」
次女も部屋を出てきた。お父さんとしては、ケーキのときのリベンジを図りたいところ。
「智絵里も一緒に行かないか?」
「えー……」
あまり乗り気じゃないみたい。年頃だし、お父さんと出かけたくないよねー……。分かるよ。俺は無理強いしないスタイルなんだよ。
「私、ブランドものを見に行くけど、智絵里はー?」
「ブランドー? じゃあ、行く」
なんか上の子も下の子も行くことになったみたいだけど、俺はブランドものとか見に行かないけどーーー!?
俺はとりあえず、自分の用事で郵便局に行った。そのあと、お姉ちゃんとの約束でホームセンターに。
今日は欲しいものが決まっていたから俺の買い物はすぐ終わった。お姉ちゃんが欲しいものがあると言ってたから合流。
「お姉ちゃん、何が欲しかったの?」
「あ、お父さん。今日は見に来ただけー」
お姉ちゃんと智絵里は、ハンディ掃除機のコーナーにいた。
目の前にたくさんの掃除機。
「掃除機が欲しかった? うちのって壊れてたっけ?」
「違うの、部屋の掃除用にハンディのやつが欲しくて……」
お姉ちゃんは自室を掃除するらしい。偉い子だ。
「お姉ちゃん、ブランドものはーーー?」
妹の智絵里は早くブランドもののコーナーに行きたいようだ。でも、ホームセンターにそんなとこあったっけ?
「智絵里ー。ほら、ここ。マキタとかリョービとか、アイリスオーヤマは安くて魅了的ーーー」
お姉ちゃんの瞳にハートマークが浮かんでる。彼女の言ってる「ブランド」は工具メーカーの名前。
掃除機、集塵機も出してるからそれが見たかったらしい。そう、彼女は工具オタクなのだ。
「お姉ちゃん、ブランドってこれ!? バッグとかじゃないの!? 騙された!」
妹の智絵里はブランドとかに目がない。工具を見せられても、あまり嬉しくはないのだろう。
「あ、お父さん。ケルヒャーの高圧洗浄機の実演やってる! 試していい!? 低騒音タイプのやつがあるみたい!」
「あ、ああ……。智絵里もいるから程々にな……」
「うん、分かった♪」
お姉ちゃんの智子は工具メーカー大好きだ。「誕生日に何がほしい?」って聞いたら、「レーザー水準器」って答えたほど。そんなの日常生活で何に使うのさ!?
「お父さん、お姉ちゃんがまた工具コーナーでハマってるから、私は適当に洗剤コーナーにいるから」
智絵里は掃除自体は嫌いじゃない。騙されてホームセンターに連れてこられたことは理解し、諦めたのか洗剤コーナーに行ってしまった。
結局、お姉ちゃんが満足するまでホームセンターには3時間はいた。ケルヒャーの高圧洗浄機の実演は心行くまで楽しんでいたし、レーザー水準器も見てた。
途中、安い端材がセールだったから、電動丸ノコを借りて簡単な踏み台を作った。簡単な図面は手書きで描くのだが、お姉ちゃんも手伝ってくれた。
その間、妹の智絵里は少し退屈そうだったが、底面にゴム足がないとキッチンのフローリングでは木材の踏み台は滑ることを指摘してきて大変ためになった。
俺としては、3件目の「スーパー」が本命で、嫁の働いている姿を見るつもりだったのだ。
近所にはスーパーはいくつかあるけど、うちの最寄りのスーパーに寄った。そこが嫁のパート先だ。夕飯の材料を買うのだが、メニューを言うと娘二人が手分けして食材を集めてくれた。とても効率的に買い物ができたと思う。
その一方で、嫁は売り場では発見できなかった。今日は朝から夕方まで働くことになっていると聞いていたのに。売り場にもレジにもいない。もしかしたら、裏で仕事をしている可能性があるから、それだけでクロ判定はできないが、俺の計画とは違う結果になった。
スーパーで買った食材とホームセンターで買った材料をなどを家に持ち帰った。一つ一つはそんなに重たくないのだけど、数があったので俺と娘2人の3人で車から自宅まで運んだのだった。
結局、この日は嫁をスーバーで発見することもできず、家に帰っても嫁は戻っておらず、何も分からなかった。俺はお姉ちゃんの助けを得て夕飯のカレーを作るのだった。
■■■ 善福清美の怒り
旦那いないんだけど! 娘もいない! きっと、3人で出かけてる!
なんであんな低収入、低学歴のおっさんと出かけるの!? 中卒よ!?
だいたい身体デカいのよ! 身長178とかデカすぎない!? 私なんて156センチしかないから怖いんだけど!
離婚は決定事項! 彼にもすぐにおいでって言われてる! そうすることにする!