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第3話:娘との関係

 俺の仕事は医療機器の営業。医者がほしいと言ったら、必要な機器を準備してすぐに持っていく。その呼び出しは1年365日24時間いつでも発生する。これはかなりの心労がある。


 それ以外に全国である学会って、イベントに医者について行き、各所で接待するのも仕事。大体は食事をして、夜のお店に連れて行って、タクシーでホテルまで送って解散。これが結構な頻度であるから俺がうちにいないこともあった。


 中卒の俺にできる仕事はかなり限られた。そもそも、募集要項のところに簡単に「高卒以上」って書かれている。多分、普通の人は当たり前すぎて見逃しているんじゃないだろうか。


 俺は中卒。あの一言で、仕事の9割は応募資格がないのだ。


 以前は、マンションとかアパートの清掃の仕事をしていた。人と合わないし俺には合っている仕事だと思っていた。住人の人と挨拶する程度。でも、給料が安い。しかも、休みがない。盆も正月もゴールデンウィークもなく、休みは日曜だけ。多分、日本の法律もあんな小さい会社には適用されないんだなぁって漠然と思っていた。


 その仕事を変わったほうがいいって言ったのが嫁。もっと良い仕事があるはずって言って。今の仕事のほうが給料は格段に良くなったけど、時間もなくなって、夫婦の会話も減ったと思う。


 ここで俺がなにを言いたかったかって言うと、俺達夫婦はあんまり顔を会わせないし、話もしてないってこと。


 俺は嫁と2人で「家族」ってもんを動かしていると思っていたから、多少会えなくても頑張れた。辛いときでも踏ん張れた。


 でも、その嫁が浮気してるのを見てしまって……。激しく動揺している。踏ん張りも利かない。


 いつ電話がかかってきて器材を準備しないといけないか分からない。当然、スマホを枕元に置いて寝るし、着信音は大きくしている。そして、鳴ったら飛び起きて電話対応するのだから、嫁とは寝室が別々になった。


 娘達を立派に育てるのが俺達のミッションだと思っていたのに……。


 俺は2人の娘と会って話をしてみることにした。


 ○●○


「お姉ちゃん、最近学校はどう?」


 なんだこのダメなお父さんの典型みたいな質問は!?


 お姉ちゃんは16歳の高校1年生。智子(ともこ)。


 ケーキを買ったと言ってお姉ちゃんを呼んでリビングで一緒に食べながら話をしてみることにした。


「んー……周りがウザいかな」

「え? イジメ的な?」


 意外な発言に俺は焦った。


「ううん、同級生がちょいちょい告ってくるの」

「はー……」


 お姉ちゃんは嫁のDNAが色濃く出たのか、かなり顔が整っている。笑顔とか父親の俺でも好ましいと思うほど。この笑顔を変な男から守るのも俺の仕事って思わされる。


「お姉ちゃん、相変わらずモテるんだね……」

「最近は、国語の教師とかも言い寄って来るから困ってた」

「はあ!? それ大丈夫なの!?」


 たしか今年から若い国語の先生が赴任してきたって言ってたな。


「ウザいから教頭に言いつけたら、教科担任が変わったよ」

「すごい行動力だねぇ」

「今度は教頭がちょっかいかけてきてウザい」

「……」


 お姉ちゃん、どんだけ好かれてるんだよ。モテモテじゃないか。俺の人生とは明らかに違う。高校を出て、大学を出て、人並みの生活をしてほしいってのが俺の希望。


「同級生とはどうなの?」

「んー……、子どもすぎて物足りない」

「え? じゃあ、教頭……?」


 ここでキッと睨まれた。


「教頭とかおっさんだし! 家庭もあるのに学校の生徒にちょっかいかけるとか最低」

「そかそか! 安心した」


 お姉ちゃんが、まともな倫理観で安心した。


 次は、妹ちゃんのほう。妹は智絵里(ちえり)。14歳の中学2年生。


「あ……」


 俺とお姉ちゃんが一緒にケーキを食べている場面を目撃して一瞬止まった。あの目は俺を責めている目だ。


『お姉ちゃんと二人だけでケーキを食べて! 私はどうでもいいんでしょう!』


 そんな目だ! すぐに言い訳しなければ!


「ちゃんと智絵里の分もあるから! まだ冷蔵庫に入れてるから!」

「別にそんなの心配してない」


 ツンとした表情で言われてしまった。しかも、その後自分の部屋に入って行ってしまった。そういえば、嫁が言っていた。最近は妹、智絵里が引き篭もり気味だと。これはまずい。なにか悪いことをしていたわけじゃないけど、まずいのだ!


 俺はお姉ちゃんとの会話を切り上げて、冷蔵庫から智絵里の分のケーキを皿に乗せ、彼女の部屋に向かった。


(コンコン)「智絵里ー、開けるぞぉ」


 俺は智絵里とは部屋で話すことにした。妹ちゃんの部屋に入るのはいつ以来か……。 


「入らないで!」


 おっと、まだ怒ってる!


「ケーキ持ってきたから……」

「そこに置いといて」


 完全に嫌われてしまった……。姉妹は平等に育てているつもりだけど、こういう場面は致し方ない。


 俺は皿をドアの横に置き、その旨智絵里に伝えてからその場を去った。


 とりあえず、娘達とは会話はできる程度には仲は悪くない。難しい年頃だっていうからなぁ。


 問題は嫁だ。弁護士が言ってた内容証明が届いたときどんな反応をするのか? 俺はそのときどこにいればいいのか。直接責められたら、俺は弱い。


 その辺りもあの弁護士に相談してみよう。


 ■■■ 善福清美の不満


 私は善福清美。あいつの気に入らないところ? いっぱいある! いーーーっぱいある!


 うちにほとんどいないくせに、娘に好かれてる。なんで!? あいつ中卒よ!?


 娘達は思春期でしょ!? 「お父さんのパンツと一緒に洗わないで」とか言うころでしょ!?


 お姉ちゃんとは2人で買い物行くし、妹とは買ってきたスイーツとか食べてるし! 私とはほとんど一緒に出かけないわよ!


 全然気に入らない! 一刻も早く離婚よ!



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