……うん、そうだな。
まあ、オレはそれなりの人生を、幸せに送ってきたと思う。
両親は不仲ではなく、妹もいて、家族仲は良かった方だろう。
思春期に感情のコントロールが効かず、暴れもしたが、親はきちんと向き合ってくれた。
だからこそ、きちんと就職をして、親孝行していきたいと思っていた。
いたのだが……
「あ、だあぅ!?」
これは一体どういうことだろうか!?
よし、一先ず落ち着こう。
落ち着くんだ、オレ。
昨日、オレは普通に寝た。明日の準備を済ませ、天日干しをした、ふかふかな、あの独特な匂いのする布団に包まれ、幸せな夢を見ようと、眠りについた。うん、ここまでは良しとしよう。
久々に熟睡し、よく眠れたなぁといつものように目を開けた。うん、開けたんだ。
そしたらさ……
視界に入るは見覚えのないベッド柵。真新しいシーツ、洗練された調度品と、ただ広い部屋。明らかに自分の部屋ではない。
夢か?と思って目を閉じるよな。普通。
うん、オレも閉じた。
深呼吸一つ、これで落ち着かせてもう一度目を開けたんだ。夢が覚める事を願って。
ところがどうだ。自体は更に深刻だった。
ぷくぷくに膨らんだ紅葉のような手。動かそうと思っても自由に動かせない身体。
それに何より言葉が声にならない。
つーか、さぁ……
「だぁぁぁうぁぁ!?」
オレ、赤ん坊に、なってんじゃねーか!?
あー、ほんと意味が分からない。
普通に休んでいた筈のオレの身体。
一体全体、何があったんだよ?
過労死?病死?いや、死んだ覚えねえよ?
事故にもあった覚えねえし??
転生したの?死んだ自覚もないのに?
……まさかだけど、この子に憑依してるとかじゃないよな?違うよな??
ゆらゆら揺れる、ベビーベッドの心地良さを堪能しながら、ああでもないこうでもないと半目になっていると、ガチャリと部屋のドアが開く音がした。
お、誰か来たのか。何らかの手がかりが掴めるかもと期待しつつ、目線だけをそちらに向ける。
そこにいたのは絵に描いたような儚げな金髪の少年だった。
おお、美少年……!!
年齢からして、この赤ん坊の兄だろうか。
迷いもなくスタスタと此方に歩いてきた少年は、赤子を見てにっこりと笑みを浮かべた。
「リティシア、可愛い僕の妹。今日もご機嫌だね」
妹??え、この赤ん坊女の子なの!?
オレは転生して性別も変わっちゃったの??
前途多難な予感しか、しないな……
夢ならば早く覚めてほしいんだが……
声には出せないので、心の中でうんうん唸っていると、少年が再び口を開いた。
「……あんまり考えすぎると、禿げちゃうよ、
んんん??聞き違いか?
この子、今、オレに向かってお兄ちゃんって言わなかったか??
妹に向かって兄呼びは……うん、ないない。
「どうしたの、リティシア」
やはり、気の所為か。
空耳だったんだな、とオレは安堵し、兄である少年が安心するように笑みを返した。
この時のオレに言いたい。
疑問を潰さず、直ぐに問い質しておけば、後々の苦労が少しは緩和されたかもしれない事を。
ともかく、理由の分からないまま
オレの第二の人生は始まったのだった。
うーん、大丈夫か、オレ。