「瑞樹、お前はどう思う? 『火送り』の儀式について」
「
私は目の前の机をバン! と叩く。
「あらあら、元気がいいわね」
「
宿泊客のいない旅館の一室とはいえ、やりすぎてしまった。これが私の悪いところ。感情的になりすぎると、歯止めがきかなくなる。
「それにしても、神託が選んだのが、うちの息子だなんて……」
真紀さんの顔には
「大丈夫です、二人で因習をやめさせますから。先輩は死にません!」
真紀さんは穏やかな笑みを浮かべると、「まるで、うちの人みたいね」とだけ言う。
彼女の旦那さんである
「でも、無理しないでね」
麦茶を置くと「ごゆっくり」と、
しばしの沈黙の後、「
はあ? 手を引け?
「ちょっと、どういうことですか? 反対派のまとめ役である先輩のためなら、私はなんだってします。たとえ、死ぬことがあっても」
「瑞樹、簡単に死んでもいいなんて言うな。もしものことがあれば、両親を悲しませるだけだぞ」
先輩の言葉には柔らかさがあるけれど、有無を言わさないニュアンスだ。
「火送りの儀式」まで残り二日。タイムリミットは迫っている。この限られた時間の中で因習をやめさせなければ。
「俺は囮になるつもりだ」
「先輩がそこまでする必要はありせん!」
勢いよく立ち上がると、お茶があたりに飛び散る。
「まあ、落ち着け。犠牲者は儀式当日に亡くなっている。おそらく、儀式を続けたい人間の仕業とみて間違いない。俺はそいつを捕まえて、忌々しい因習に終止符をうつ」
先輩の主張は理解できる。しかし、納得できるかは別の話だ。
「何あったら、後は頼んだぞ」
それが、私が見た先輩の最後の姿だった。
〜〜
「……で、以上が私の知っていることです」
瑞樹さんが話を終え、静かに息をつく。部屋には静寂が広がっていた。
俺は腕を組み、沈黙を破る。
「なるほどな。つまり、五年前の儀式で勇気先輩は……」
「亡くなった。そういうことになります」
勇気先輩が亡くなったために、瑞樹さんが儀式反対派のまとめ役になったのだろう。そして、明石勇気は、この旅館の女将である真紀さんの息子ということになる。つまり、真紀さんは夫と息子が亡くなっているのだ。気の毒としか言いようがない。
「いくつか聞かせて欲しい。勇気先輩の遺体にも、独特のブツブツがあったのか?」
「ええ。他の犠牲者と同じで」
単に儀式を続けたい人間が刺殺したわけではないのか。あくまでも、儀式によって死んだと見せかけたかった。相当な狂信者と考えて間違いない。
「あのー、一度神社に行きませんか? つまり、僕の家ってことですけど。あまり身内を悪くは言いたくないんですが、儀式推進派の中心ですから」
「ちょっと、待った! 小鳥遊、お前の家族は問題の神社の神主なのか!? 初耳だぞ。そりゃ、古文書を持ち出せなくて当たり前だな」
「すみません、言い忘れてました……。現場百回っていいますし、どうですか?」
ここまできて、行かない手はないだろう。
「じゃあ、案内してもらおうか」
そして、心の中でこう続けた。「敵の本拠地へ」と。