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第5話 瑞樹、五年前の真実を語る

「瑞樹、お前はどう思う? 『火送り』の儀式について」


勇気ゆうき先輩、聞かなくても分かっているでしょ? もちろん、反対です。あんな古臭い儀式はなくなればいいんです。古いだけじゃありません。死者も出てるんですから」


 私は目の前の机をバン! と叩く。


「あらあら、元気がいいわね」


真紀まきさん、すみません……」


 宿泊客のいない旅館の一室とはいえ、やりすぎてしまった。これが私の悪いところ。感情的になりすぎると、歯止めがきかなくなる。


「それにしても、神託が選んだのが、うちの息子だなんて……」


 真紀さんの顔にはかげりが見える。当たり前だ。息子の余命宣告をされたのと同じなのだから。


「大丈夫です、二人で因習をやめさせますから。先輩は死にません!」


 真紀さんは穏やかな笑みを浮かべると、「まるで、うちの人みたいね」とだけ言う。


 彼女の旦那さんであるさとるさんは、正義感あふれる素敵な人だ。勇気先輩の人格整形に影響を与えたのは間違いないわね。そして、先輩と一緒にいるうちに、私も悪を許せなくなった。


「でも、無理しないでね」


 麦茶を置くと「ごゆっくり」と、ふすまを閉める。


 しばしの沈黙の後、「瑞樹みずき、お前は手を引け」と勇気先輩。


 はあ? 手を引け?


「ちょっと、どういうことですか? 反対派のまとめ役である先輩のためなら、私はなんだってします。たとえ、死ぬことがあっても」


「瑞樹、簡単に死んでもいいなんて言うな。もしものことがあれば、両親を悲しませるだけだぞ」


 先輩の言葉には柔らかさがあるけれど、有無を言わさないニュアンスだ。


 「火送りの儀式」まで残り二日。タイムリミットは迫っている。この限られた時間の中で因習をやめさせなければ。


「俺は囮になるつもりだ」


「先輩がそこまでする必要はありせん!」


 勢いよく立ち上がると、お茶があたりに飛び散る。


「まあ、落ち着け。犠牲者は儀式当日に亡くなっている。おそらく、儀式を続けたい人間の仕業とみて間違いない。俺はそいつを捕まえて、忌々しい因習に終止符をうつ」


 先輩の主張は理解できる。しかし、納得できるかは別の話だ。


「何あったら、後は頼んだぞ」


 それが、私が見た先輩の最後の姿だった。


〜〜


「……で、以上が私の知っていることです」


 瑞樹さんが話を終え、静かに息をつく。部屋には静寂が広がっていた。


 俺は腕を組み、沈黙を破る。


「なるほどな。つまり、五年前の儀式で勇気先輩は……」


「亡くなった。そういうことになります」


 勇気先輩が亡くなったために、瑞樹さんが儀式反対派のまとめ役になったのだろう。そして、明石勇気は、この旅館の女将である真紀さんの息子ということになる。つまり、真紀さんは夫と息子が亡くなっているのだ。気の毒としか言いようがない。


「いくつか聞かせて欲しい。勇気先輩の遺体にも、独特のブツブツがあったのか?」


「ええ。他の犠牲者と同じで」


 単に儀式を続けたい人間が刺殺したわけではないのか。あくまでも、儀式によって死んだと見せかけたかった。相当な狂信者と考えて間違いない。


「あのー、一度神社に行きませんか? つまり、僕の家ってことですけど。あまり身内を悪くは言いたくないんですが、儀式推進派の中心ですから」


「ちょっと、待った! 小鳥遊、お前の家族は問題の神社の神主なのか!? 初耳だぞ。そりゃ、古文書を持ち出せなくて当たり前だな」


「すみません、言い忘れてました……。現場百回っていいますし、どうですか?」


 ここまできて、行かない手はないだろう。


「じゃあ、案内してもらおうか」


 そして、心の中でこう続けた。「敵の本拠地へ」と。

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