半田さんの言葉が頭の中で何度も反響する。
——儀式の日、死体が燃やされる。瑞樹さんも、その対象になる。信じられなかった。だが、半田さんの表情は真剣そのものだった。
儀式まで時間がない。ことは急を要する。
瑞樹さんを見ると、あらためて因習を聞いたことによって恐怖で震えが止まらないようだった。さっきまでは、そんなそぶりは見せなかったのに。
「瑞樹、大丈夫。加賀さんと三人で因習を断ち切るんだ。今年は誰も犠牲にならない」
小鳥遊は元気づけるように言うが、彼の声も震えている。
島民は儀式の恐ろしさに支配されているのだ。無意識のうちに。過去の因習村でも、こういう事態は経験している。小鳥遊が当てにならない以上、俺が引っ張るしかない。
「三人寄れば文殊の知恵って言います。何とかなりますよ。いえ、俺が何とかします。瑞樹さんは死なない。死なせはしない」
こういう時は、一種の暗示にかけなくてはいけない。そして、ひたすら励ます。メンタルがやられている時は、ポジティブな言葉をかけるのが一番だ。
「……。そうだといいのだけれど」
「瑞樹さん、まずは作戦会議をしましょう。小鳥遊さん、真紀さん。手を貸してください。彼女を広間に移動させましょう」
三人がかりで瑞樹さんを支えていると、ガコンという音がする。後ろを向くと、半田さんが自転車を立ち上げて去ろうとしていた。
「……悪かったな。だが、事実でもある。加賀さん、気をつけな。特に夜道は」
漁師にも言われた。「気をつけろ」と。そして、半田さんの場合は「夜道」と付け加えられている。つまり、儀式に賛成している一派は日中は普通を装っていることになる。ならば、日が昇っているうちに事を進めるしかない。
「それで、まずはどうします? 加賀さんから依頼のあった古文書、うちから持ち出すのが難しくって。あれの中身は見たことがないので、僕が知りうる情報を話します」
小鳥遊は一呼吸おくと続ける。
「昔の『火送り』の儀式では、神託で選ばれた人を神様に捧げていたんです、生きたままで。でも、近代化するにつれて形が変わった。つまり、
「そして、選ばれた人の名前を書いていたと」
「ええ、その通りです。でも、異変が起きました。だいたい三十年近く前でしょうか。もう少し前かもしれません。間違いないのは、
「だから、それ以降は実際に遺体を燃やすようになった。結局、もとの形に戻ってしまったわけだ……」
因習は蘇ってしまった。最悪な形で。
瑞樹さんは落ち着きを取り戻しつつあった。さっきまでの呼吸の浅さはなくなっている。
「気になるのは、選ばれた人が
「ええ、そうです。前日までは元気なんです。それが当日になると……」
「なるほど。そうなると死因が気になる。決まった日に死ぬなら、殺人と考えるのが自然ですね。問題は誰が殺しているか」
「死因は分かりません。遺体は、すぐに『火送り』で燃やされますから。呪いだと言う人もいます」
「呪い! まさか、非科学的なことを信じる人がいるとは!」
「しょうがないんです……。この前は
儀式の犠牲者は燃やされる。それを踏まえると、死因がバレないように犯人がすぐに儀式を行うように操っている可能性もある。ただ、それでは見張り台の一件の説明がつかない。
「あとは、伝染病を主張する人もいます。どちらの場合も肌に独特のブツブツが浮かび上がりますから」
「それは気になるな。儀式と見張り台以外で死んだ人にいないんですか? その特徴が出た人は」
つまり、島独自の伝染病の可能性は消えた。呪いは考えるまでもなく却下。そうなると、二つの事件を結ぶ何かしらの共通点があるはずだ。
「蓮、まだ話してないことがあるわよ。そう、五年前の事件よ」
いつの間にか、瑞樹さんが起き上がっていた。
「瑞樹、もう大丈夫なの?」
小鳥遊の問いに対して、こくんと頷くとこう言った。
「私が話します。五年前に何があったのか」