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第2話 因習の島と配信者

「さて、九時になったし配信といきますか」


 配信ボタンをクリックして数分経つと、リスナーが徐々に集まる。有名配信者ではないから、数十名だけど。


「今日も各地の因習について取り上げます。まずは山陽地方の因習です。ここには……」


 いつも通り各地の因習を取り上げる。そして、いかにして因習をやめさせたかを語る。そう、それが俺のスタイル。


「さすがです!」

「加賀っち、次はどこ行くの?」


 リスナーの質問に答えていると、ピコンと音が鳴る。スパチャの音だ。金額は三万円! これは嬉しい。名前はRさん。何やら長文が書いてあるが、読んでいては他のリスナーとの会話に支障がでる。


「スパチャ、ありがとうございます。次にどこ行くか? それは秘密」


 ピコン。まただ。今度は五万円。どうしても長文を読み上げて欲しいらしい。しょうがない、読み上げてやるか。


「えーと。うちの島には『火送りの儀式』というものがあります。毎回死者が出るんです」


 死者が出る儀式?


「死者が出るのは気になりますね。メールで詳しく教えてください。次に行くかもしれません」


 配信を終えてメールボックスを確認すると、「小鳥遊たかなしれん」という人物からメールが届いていた。なるほど、蓮だから「R」というニックネームか。


「先ほどはありがとうございました。うちの島について詳しく書きます。長文ですが、最後まで読んでいただけると幸いです」


 「見張り台で一夜を過ごした者は死ぬ」「死者は『舟流し』であの世へ旅立たせる」そして、「神託で選ばれた人物は、『火送りの儀式』当日に謎の死を遂げる」。確かに変わった島だ。


 そして、文末にはこう書かれていた。「今年は幼馴染が神託で選ばれました。どうか、儀式当日までに因習をやめさせてください」と。


 事態は深刻だ。もし、これが事実だとしても警察は動かないだろう。まずは現地に行くしかない。「百聞は一見にしかず」。


 多くの因習に関わってきたが、今度ばかりは一筋縄ではいかなさそうだ。胸がざわつく。死にまつわる因習。忌々しい村を思い出す。因習は断ち切らなければならない。何があろうとも。


〜〜


 小鳥遊のメール通りなら、ここが島への定期船の発着場だ。港と言ってもかなり寂れており、村民は皆無といっていい。


「あのー、島へ行くにはここからですよね?」


 漁師は手を止める。


「もしや、島に行くつもりか? それも、この時期に。悪いことは言わん、やめておけ」


 おそらく、「火送りの儀式」があるからだろう。部外者が行くには最悪のタイミングだから。


 彼は決意が揺るがないと悟ったのか、ポツリと漏らす。


「あの島は、もうすぐ『火送りの儀式』が行われる。神託で選ばれた者は、なぜか儀式当日に死ぬんだ。死を見る覚悟はあるということか?」


「ええ、知っています。今年は知り合いが選ばれたんです。何としてでも止めてみせます。いえ、止めなければならないんです」


「なるほど、そういう理由があるのか。あんたを止めるのは無理そうだ。一つ、忠告しておこう。小鳥遊たかなし一族には近寄るな。もし、近寄れば……あんたも死にかけない」


 小鳥遊一族に近寄るな。そう言われても、依頼者は小鳥遊蓮だ。当然、小鳥遊一族との接点が増えるはず。


「……。どうやら、命知らずらしいな。いいだろう、わしが島まで送ろう。道すがら、島について詳しく語ってやる。あんたが生き残る確率を上げるために」


〜〜


「あんたも知っていると思うが、村にはいろんな噂と因習がある。最近だと、見張り台で一夜を過ごした者が死んでる」


 それは初耳だ。小鳥遊は意図的に隠していたのかもしれない。噂を恐れて俺が島に来ないかもしれないと考えて。


「でも、たまたまかもしれません」


「偶然じゃあない。わしも友人を亡くしたんだ。一夜を過ごして」


 まさか。噂は本当だとでも言うのか?


「あとは……そうだな、島に着いたら佐倉家を訪ねるといい。あんたは因習を止めたいんだろう? あそこは因習に反対するグループの筆頭、佐倉さくら瑞樹みずきがいる。力になってくれるだろうよ」


 佐倉瑞樹。その名前は知っている。依頼者のメールに書かれていた。そして、神託で選ばれて今年の犠牲者になる可能性があると。これは面倒なことになってきた。依頼者は近づくべきではない小鳥遊一族。そして、犠牲者が出るであろう佐倉一族。


「まあ、無理はするな。さもないと……」


「どうされましたか?」


「あれを見てみろ」


 彼が指さす先には、一隻の小舟が漂っていた。パッと見たところ、乗り手はいなさそうだ。


「あれは『舟流し』の舟だ。最近死んだのはさとるだったな。見張り台で一夜を過ごした。あれには、彼の死体があるはずだ」


 「舟流し」は島の風習の一つだ。まさか、このような形で出会うとは。


「あんたも、小舟に乗せられないようにするんだな。お、島が見えてきたぞ」


 前方に見える島は、緑が多く穏やかに見える。因習がある島だとは思えない。港とおぼしき場所に一人の青年の姿がある。おそらく依頼者の小鳥遊だ。老人が忠告してくれた小鳥遊一族の一人でもある。果たして、彼との出会いは何をもたらすのか。その結末は神しか知らない。

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