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十九、新たな情報

煌星が目を覚ましたとき、寝殿の中はすでに朝の光に満たされていた。

ゆるやかに揺れる帳の隙間から、微かな風が入り込んでいる。


(……ん、朝……?)


ぼんやりと瞬きをすると、視界に入ったのは――隣に寝ている景翊の姿だった。

あまりにも自然に、煌星のすぐそばで眠っている。


(もうさぁ……!本当にちっかいんだよ!)


一瞬で完全に目が覚めた。

思わず身じろぎすると、景翊の腕がわずかに動く。

すると、その琥珀色の瞳がゆっくりと開かれた。


「……起きたか」


低く掠れた声に、煌星は一瞬ぎくりとする。


「え、あ……いや、その……」


まだ寝ぼけているのか、景翊はわずかに目を細めたまま、煌星の顔をじっと見つめていた。


「……ふむ」


なぜか納得したように呟くと、ゆるく微笑みながら、指先で煌星の髪をかき上げる。


「何……?」


煌星は戸惑いながら身を引こうとしたが、景翊はその動きを止めるように軽く額を突いた。


「寝顔、可愛かったな、と」

「はぁ!?!?」


煌星は、勢いよく飛び起きた。


「それに、お前は寝てる間も隙だらけだな」


景翊は、のんびりと身を起こしながら言う。

煌星は、顔を赤くしながら頭を抱えた。


(寝てる間に隙をつくらないってどうすんだよっ!それぶなんでこいつは朝からそんなことをサラッと……!)


気を取り直すように、大きく息を吐く。

牀から抜け出そうとすると、景翊も自然な動作で身を起こした。


「……どこへ行く?」

「寝室に戻る」

「なら、一緒に行こう」

「はぁ!? もう襲撃者はいないってば……!」

「警戒を解くのはまだ早い」


煌星が何を言っても、景翊は当然のような顔で立ち上がり、煌星の肩へ軽く手を添えた。

結局、景翊に付き添われたまま寝室へと戻ることになる。


(昨夜の騒ぎで、そのまま客間にいたけど……早く戻らないと)


寝殿の前に立ち、煌星はそっと扉を押し開ける。

昨夜の出来事を思い出しながら部屋の中を見回したそのとき――ふと、視線が止まった。


(あ……酒瓶……良かった、あった)


封をされたままの酒瓶が、牀の端に静かに置かれている。

そこには、まだ微かに昨夜の甘い香りが残っていた。

煌星は、布団を払いのけ、酒瓶を手に取る。

昨夜は襲撃の混乱で、しっかりと分析する余裕がなかった。

けれど、今なら――


「……今のうちに確認しておきたい」


煌星がそう呟いた瞬間、隣にいた景翊が眉をひそめた。


「寝起き早々に何をする気だ?」

「調香師としてこの酒の成分を分析するんだよ!」


煌星は、景翊の呆れたような視線も気にせず、酒瓶の封を解く。

ゆっくりと鼻を近づけ、慎重に香りを嗅いだ。


(……やっぱり、ほんの僅かに甘ったるい香り……でも、単なる香料じゃない……)


「……!」


何かが脳裏で弾けた。


(待って……これは、たしか……!)


煌星の表情が変わる。

だが、決定的な答えが出る前に、寝殿の外から控えめな声が響いた。


「貴妃様、お目覚めでしょうか?」


柳蘭の声だった。


「……うん、起きてる」


煌星は素早く寝巻の襟を整え、景翊を睨む。


「ほら、もうさっさとどいてよ!」

「お前、俺を追い出す気か?」

「当たり前だろ!」


景翊はため息混じりに肩をすくめると、ゆったりと立ち上がった。

煌星が扉を開けると、そこには柳蘭と魏嬪の姿があった。


「貴妃様、おはようございます」


魏嬪は、いつものように優雅に一礼する。

だが、そのまま真っ直ぐに煌星を見つめた。


「……新たな情報が入りましたわ」


煌星は、背筋を正す。


「酒蔵の管理をしていた女官が"急に辞めた"という話があるそうです」


魏嬪が静かに告げた。

煌星と景翊の視線が、一瞬であった。


「……それだ」


二人の声が、ほぼ同時に重なった。

酒蔵管理をしていた女官……それが、急に辞めた。


(……何かを隠すためだ)


煌星の眠気は、一瞬で吹き飛んだ。

景翊もまた、琥珀色の瞳を鋭く光らせる。


「すぐに調べるぞ」


煌星は無言のまま頷く。


(――絶対に突き止めてやる)


そう強く決意しながら。

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