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橡様と契りを交わしてから数日。俺は神域での生活に慣れようと、毎日少しずつ動き回るようにしていた。

神使の子たちと話したり、庭で草花を見たりするうちに、最初の緊張は少し和らいできた。屋敷内についても色々とわかってきたように思う。


ただ、問題がないわけじゃない。


「長様、橡様がお呼びです!」

「あ、はい……」


宵が近づき身体を清めた後、神使たちが元気にやってきて俺を連れていくのは、決まって橡様の寝殿だ。理由はもちろん――契りを続けるためだ。


……もう何回目だっけ……毎日して、るんですけど……。


橡様の言う通り、回数を重ねるたびに体が軽くなっているのは確かだ。それに神域の空気も馴染んできて、吐く息さえ心地いい。けど、けれどもね⁈だからといってこの状況を簡単に受け入れられるかっていうと、それは別の話だ。

寝殿に入るたびに、ほんっとあれまずいって!と俺の心は静かに叫び声を上げている。

とはいえ、橡様と契りを交わす生活にも、さすがに少し慣れてきた。というか、慣れざるを得ない……。


「長くん、また少し馴染んできたみたいだね」


俺を寝台のある帳の内へと引き込みながら、橡様がそう言って微笑む。

その顔を見るたび、俺は「神嫁の運命ってやつ」を改めて痛感するしかなかった。


「ふふ、花の香りがするね」


促されるまま寝台の上にゆっくりと俺は横たわり、橡様を見上げた。

橡様の手が俺の頬を嬉しそうに撫でる。

いつ見ても整った顔だ。人の世ではいないであろう美しさ……。

毎晩、こうしたことが日課になりつつあるのだが、問題はその「慣れ」が俺の中で妙な感情を生み始めていることだった。


…………この行為、戸惑いは大きいが嫌じゃないのが困りもので…………。

嫌じゃない……むしろ、最近ちょっと……いや、かなり気持ちがよ……いやいやいや!俺、何考えてんだ⁈


自分で自分にツッコミを入れながらも、神域の空気に馴染んできたせいか、身体だけでなく心も少しずつ落ち着いているのを感じていた。


「長くん、今日もよろしくね」


その声には相変わらず優しさが満ちているけれど、どこか隠せない熱っぽさが含まれている気がした。

……よろしくお願いします、そう返そうとした俺の言葉は橡様の唇に奪われたのだった。



夜が更け、橡様の寝具に包まれながら、俺はぼんやりと天井を見上げていた。

疲労感はあるものの、それに勝る不思議な感覚が体を覆っている。

色々と橡様の行為を受け入れるうちに、俺の身体が変わっているのが、わかる。

いろんな意味で……。色々な意味で……。


「ねえ、長くん」


橡様の柔らかな声が耳元で響く。


「……はい?」

「君がこうして僕の隣にいてくれることが、本当に嬉しいんだ」


静かに囁かれる言葉に、俺は思わず顔を横に向けた。橡様の金色の瞳が、どこまでも真っ直ぐに俺を見つめている。


「君が僕と契るたびに、神域に馴染んで、僕のものになっていく感じがしてね」

「……っ!」


その言葉に、俺は息を詰める。

軽々しくそういうことを言わないでほしい……。

なんとも面映ゆい感情が湧き出てきて、俺は視線をそらした。


「ええと、まあ……そう、ですね……」

「ああ、本当に君は可愛いなぁ……君がいない時間はもう考えられない……」


その声には、穏やかさの中に深い執着心が滲んでいた。

俺の身体を橡様の腕が抱く。心地よい温かさと、少しの怖さ。

それはまだ完全にこの状況を受け入れられてない、ほんのちょっとの心の抵抗が生み出しているのかもしれない。


「……橡様」


俺は返す言葉を見つけられず、ただ彼の温かさに身を任せるしかなかった。

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