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5-3

目を覚ました時、俺は橡様の腕の中にいた。


……おん……まって、すごい抱きしめられている……。


寝ぼけながら身体を動かすが、俺の身体にはがっちりと橡様の腕が巻き付いていた。

この寝殿に入ったのは夜で、帳の隙間からは朝の気配が差し込んでいる。


「……おはよう、長くん」


橡様が優しく囁く。

その瞳には、今まで以上に深い愛情と、何かを確信したような輝きが宿っていた。


「……おはよう……ございます」


小さく答えながら、俺は自分の体が不思議と軽くなっていることに気づく。神域の空気が、昨日までとは違って心地よく感じられる。下半身の違和感は半端ないが、まあそこも……痛みはない。

え、すご…………。


「凄いですね……身体、軽いです……これが儀式の効果」


俺が思ったままにそう呟くと、橡様がなんとも言えない表情で俺を見る。

そして、


「ねえ、長くん。ひとつ、言い忘れてたことがあるんだけど……」


そういわれた瞬間、嫌な予感がした。虫の知らせってやつだ。


「……何でしょう?」

「実は、契りは一度だけでは完成しないんだ」

「……え?」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

頭の中で言葉を反芻して、ようやく意味を理解する。

……え、完成しない?つまり……。


「完全に君の身体と神域が馴染むには、何度か契りを繰り返す必要があってね」


橡様はあくまでも穏やかにそう説明するけれど、俺は完全に固まった。

……嘘だろ……いやいやいやいや⁈

何度か……何度か⁉ あれを何度も⁉ 

心の中で思わず叫びながら、俺はなんとか言葉を絞り出した。


「……それって、どのくらい……必要なんですか?」

「そうだね……完全に馴染むまでに、少なくとも連続で数回は必要だと思うよ」


さらりと言われて、俺は頭を抱えそうになった。


あれを?

連続で?

数回?


いや、無理だって。そんなの……。昨夜だってあれだけ……。

あの情事を思い出してしまい、俺は耳が熱くなるのを感じる。

駄目だ、あれ、駄目だわ……!

痛いかと思えば気持ちよくて……俺は正気を保てなかった。

しかも俺、初めてなのに目の前の方は一度じゃ止まらなかったじゃないか⁈

俺は男女ともに経験がないので、ああいう行為の上で何が常なのかは判断できない。

けれども……あれは、その、うううううう……。

いやでも、神嫁ってそういうものなのか……?


「長くん?」

「あ、いえ……なんでもないです……」


橡様が不思議そうに俺の顔を覗き込む。ああ、なんてこった。

神様相手だからどうこう言えないし、あの行為が俺を馴染ませるためであって下心がないのだったらなお更に何も言えない。


「大丈夫だよ。君に負担がかからないよう、ちゃんと時間をかけながらするからね」


負担……。いや、そういう問題じゃない……。けれども。

橡様の説明によると、神域の力は人間にとって異質なものだから、一度の契りだけでは完全に馴染むことができないのだそうだ。何度か繰り返し契りを行うことで、少しずつ力が体に染み込み、完全に馴染んで初めて「神嫁」になるのだという。


「そういうものなんだよ。だから、焦らなくていいからね」


橡様は優しく微笑むけれど、俺はそれどころじゃなかった。


──これが……神嫁の運命ってやつなのか……。先輩神嫁にお話聞きたい……どこにいるか分かんないけど。


心の中で静かに涙を流しつつ、俺はどうにか平静を装う。

だが、橡様の言葉が追い打ちをかけてきた。


「その後はちゃんと祝言をあげて、夫婦になろうね」


あ、やっぱり夫婦になるんですね。

もうどうなんだろう、これ……。

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