――神嫁だのなんだの、まるで他人事だと思っていた。
村の祭りはいつだって賑やかだ。けれど、数十年に一度の「神嫁選び」となると、村全体がいつも以上に浮き足立つ。
神嫁は本人にとっても、その家にとってもとても名誉なことなので、候補に選出されるだけでもその後は違う。
候補の選出は巫女によって行われ、そこには貴賤も美醜も関係ない。
まあそうは言っても、どうせ綺麗な女の子が選ばれるんだろ、と俺は勝手に決めつけていた。
「おーい、
「してるよ。見ればわかるだろ……村長のところへの届け物も終わったよ」
友人が笑いながら俺の肩を叩いてくる。
痛いってんだ……力が強いんだよ、こいつは。
俺は軽く手で払いのけながらため息をついた。
「お前さ、意外と真面目だし、選ばれたりしてな」
「は? そんなわけないだろ。俺なんか普通の村人だし、そもそも男だぞ。選出もされてないしな」
「神様が選ぶんだ、男だ女だは関係ねぇんじゃねーの?」
友人はからかい半分の顔で言ってくるが、俺は鼻で笑って返す。
こんなの、完全に縁のない話だ。
だから、俺はまだ気楽にいられた――その時までは。
神嫁選びは村にある神社で行われる。
ここでひとつ補足をすると、神嫁は生贄のようなものではない。
真面目に神様の嫁となって、嫁ぐことを意味する。
なので時期もまちまちで、毎年行われるわけではない。
神様が「あ、嫁がそろそろ欲しい!」という時だけ巫女に神託がおりるのだ。
そして、この年はウン十年ぶりに神託がおりた年だった。
神社の境内は、いつもの何倍も神聖な空気に包まれていた。
白無垢姿の候補者たちが並び、巫女が神前に跪いて神託を請う。
村人たちは息を呑んで静まり返り、まるで時間が止まったみたいだ。
すっご……まあ、ここに並ぶだけでも倖せになるって話だしな……ましてや神嫁。そりゃなりたいか。
俺は少し離れたところで手伝いをしながら、ぼんやりとその様子を眺めていた。どこか別世界の出来事みたいだな、と思いつつ。
実際、俺はあの中にいるわけでもないし、身内だってその中にはいない。
完全に他人事なわけだ。
「……神の声を聞きました」
巫女の声が響く。その瞬間、空気がピンと張り詰めた。
「神嫁は……お前です」
指さされた先は――俺の方だ。
「……は?」
俺は周囲を見渡す。
……まってくれ、ここ、俺しかいなくない……か?
俺の周りには面白いくらいに人がおらず、ぽっかりと空いていた。
「……へ?」
呆けた声が出た。何を言われたのか一瞬理解できず、再度周りを見回す。
矢張り俺一人……。
村人たちも目を丸くし、友人は「あ?」と驚きすぎて変な声を上げている。
「えっと……待ってください。俺、じゃないですよねぇ……?」
巫女に向かって俺は首を傾げた。ありえんだろ、それ。
俺は花嫁装束でもないし、ぶっちゃけもう……仕事上、身なりだけは小綺麗にしているだけで、その辺にいる村人と変わらない。
しかし巫女は、首を横に振る。
「神託です。選ばれたのは、あなた――長様です」
巫女が真剣な顔で言い切った。周りのざわめきが一気に広がっていく。
様、までついた……えええええ……。
「おいおい、冗談だろ?」
「長、本当かよ……!」
友人たちの動揺が聞こえるけど、俺自身が一番動揺していた。
「なんで……俺が?」
誰も答えはくれない。境内の中心に立たされた俺は、ただ呆然と立ち尽くしていた。