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黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BLファンタジーBL
2025年03月31日
公開日
1.3万字
連載中
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。


――神嫁だのなんだの、まるで他人事だと思っていた。




村の祭りはいつだって賑やかだ。けれど、数十年に一度の「神嫁選び」となると、村全体がいつも以上に浮き足立つ。

神嫁は本人にとっても、その家にとってもとても名誉なことなので、候補に選出されるだけでもその後は違う。

候補の選出は巫女によって行われ、そこには貴賤も美醜も関係ない。

まあそうは言っても、どうせ綺麗な女の子が選ばれるんだろ、と俺は勝手に決めつけていた。


「おーい、なが! 祭りの手伝い、ちゃんとしてんのかよ?」

「してるよ。見ればわかるだろ……村長のところへの届け物も終わったよ」


友人が笑いながら俺の肩を叩いてくる。

痛いってんだ……力が強いんだよ、こいつは。

俺は軽く手で払いのけながらため息をついた。


「お前さ、意外と真面目だし、選ばれたりしてな」

「は? そんなわけないだろ。俺なんか普通の村人だし、そもそも男だぞ。選出もされてないしな」

「神様が選ぶんだ、男だ女だは関係ねぇんじゃねーの?」


友人はからかい半分の顔で言ってくるが、俺は鼻で笑って返す。

こんなの、完全に縁のない話だ。

だから、俺はまだ気楽にいられた――その時までは。


神嫁選びは村にある神社で行われる。

ここでひとつ補足をすると、神嫁は生贄のようなものではない。

真面目に神様の嫁となって、嫁ぐことを意味する。

なので時期もまちまちで、毎年行われるわけではない。

神様が「あ、嫁がそろそろ欲しい!」という時だけ巫女に神託がおりるのだ。

そして、この年はウン十年ぶりに神託がおりた年だった。

神社の境内は、いつもの何倍も神聖な空気に包まれていた。

白無垢姿の候補者たちが並び、巫女が神前に跪いて神託を請う。

村人たちは息を呑んで静まり返り、まるで時間が止まったみたいだ。


すっご……まあ、ここに並ぶだけでも倖せになるって話だしな……ましてや神嫁。そりゃなりたいか。


俺は少し離れたところで手伝いをしながら、ぼんやりとその様子を眺めていた。どこか別世界の出来事みたいだな、と思いつつ。

実際、俺はあの中にいるわけでもないし、身内だってその中にはいない。

完全に他人事なわけだ。


「……神の声を聞きました」


巫女の声が響く。その瞬間、空気がピンと張り詰めた。


「神嫁は……お前です」


指さされた先は――俺の方だ。


「……は?」


俺は周囲を見渡す。

……まってくれ、ここ、俺しかいなくない……か?

俺の周りには面白いくらいに人がおらず、ぽっかりと空いていた。


「……へ?」


呆けた声が出た。何を言われたのか一瞬理解できず、再度周りを見回す。

矢張り俺一人……。

村人たちも目を丸くし、友人は「あ?」と驚きすぎて変な声を上げている。


「えっと……待ってください。俺、じゃないですよねぇ……?」


巫女に向かって俺は首を傾げた。ありえんだろ、それ。

俺は花嫁装束でもないし、ぶっちゃけもう……仕事上、身なりだけは小綺麗にしているだけで、その辺にいる村人と変わらない。

しかし巫女は、首を横に振る。


「神託です。選ばれたのは、あなた――長様です」


巫女が真剣な顔で言い切った。周りのざわめきが一気に広がっていく。

様、までついた……えええええ……。


「おいおい、冗談だろ?」

「長、本当かよ……!」


友人たちの動揺が聞こえるけど、俺自身が一番動揺していた。


「なんで……俺が?」


誰も答えはくれない。境内の中心に立たされた俺は、ただ呆然と立ち尽くしていた。

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