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17.リンドン2

「……結婚」

「そう、僕と。うちは伯爵家だし、リアムは侯爵家の中でも序列は上の方で、厳密にいえば身分が違いすぎるかもしれないけれど……うちはすこし特殊な家だし大丈夫だと思うよ?大事にするよ、僕」


ね?とリンドンは小首を傾げた。

ははは……殺さずに性奴隷にしたのもある種優しさと思ってるかもしれんけどな、こいつな。スチルの感じだと衛生管理はしていたような小綺麗な部屋でしたし?


しかし。

しかしな?


絶対に嫌じゃああああああああああああああああ!!

だああああれがするかあああああああああ!!

いやさ!良い奴なところもあるだろうよ!でもな!

俺はいやだああああああああああああああああ!!!!


とは言えないので、俺は困ったように首を傾げる。


「でも、僕……リンドンのことあまり知らないし、リンドンも僕のことあまり知らないよね?だから、結婚は無理かな……」


言葉を選びつつ、猫を最大限にかぶりつつ、ごめんね、と付け足して頭を下げた。

リンドンは俺の姿を見て、えー、と声を上げる。


「一目ぼれなんだけどなー。僕、リアムの顔、好みで。ノエルの顔も好きだなぁ」


屈託なく笑いながらリンドンは言う。

リアムの顔が、ね。ああ、うん、だからあのエンドなわけか。

はっはっは。変なところで点が線になったね。ノエルも手に入れてリアムもって、そりゃお前にとってはハーレムエンドなわけか。お前、神官になるのにすげーよ!今のリンドンじゃないけどさ!

ノエルはありがとうと示すように頭を下げた。声を出さないのはいまだにパンを食べているからだ。……ねえ、それ、本当に何個目?


「……俺が入ってないのは面子を考えるとわからんでもないが微妙だな……」


セオドアが微妙そうに呟くと、


「可愛い顔が好きなんだよね、僕。セオドアは格好いい系だからねぇ」


そう言って、リンドンはまた笑った。

2回ほどではあるが、実際に接してみると、同い年ということもあり接しやすくはある。

俺をどうしようもないルートに巻き込まないならば、そう、悪い奴ではないのかも……?と思いたいところだが、ノエルとはちょっと違うし注意は必要なんだろうな……。



昼休みはそれなりに和気藹々と時間が過ぎ、あっという間に放課後だ。

放課後は生徒会室に行くことが多くなっており、現在、何故かディマスとノエルと三人で向かっている。俺が真ん中で左右にディマスとノエルである。

ノエルはなんか……食べてるな?!お前、今日ずっとなんか食べてないか?!

今食べてるのは……、


「リアムも食べる?フルーツバーみたいで美味しいよ、これ」

「いや、いいよ、ありがとう……」


ディマスは隣でずーーっと嫌味を言っている。そんだけレパートリーあるのも凄いよね、びっくりするよ、その語彙力。小説でも書けばいいと思う。悪役が毒舌で活躍するタイプの。


「失礼します」


生徒会室へ続く扉をノックして開けると、そこにはリンドンだけだった。

中央にある大きな机の上にある書類を整理していた。

いつものメンバーはそこにはいない。


「あれ?皆さんは……?」

「それぞれに出てるよ。ノエルとディマスにもお仕事あるよー。二人でこれ持って行ってね」


俺の両方を見ながら、リンドンは手元にある書類を示すようにあげた。


「そんなの下民一人で……」

「お仕事したらレジナルド先輩の評価もあがりそうだけどなぁ……」


ディマスが嫌そうな顔を隠さず、さっそく職務放棄しようとしたところでリンドンがそう言うと、ディマスは顔色を変えて足早くリンドンの元まで行き、書類を受け取る。ちなみに下民とはノエルのことである。肝が太いのか、愛称くらいに受け取ってその呼称を正そうともしなかったので、根付いてしまった。


「行くぞ、下民。私を案内しろ」

「はいはい。ねえ、ディマス様、そっちの国にあるお菓子で……」


偉そうに歩き出したディマスへとノエルが世間話を振りながら、二人はまた出ていく。

……肝が太いというより、あれは剛毛が生えているのかもしれない。主役って強いわ……。俺は改めて、リンドンの方を見る。


「僕には何かありますか?」

「あ、うん。そういえば、リアムって属性は何?」


リンドンがまだ扉近くにいる俺の元に寄ってきて、首を傾げる。

属性と言えば……魔法の話か。


「僕は、雷かな」


この雷という属性は役には立つものの、どうにも静電気体質になりがちで困るのだ。冬はバッチバチと静電気が起こるので、痛いったらない。そういえば、転生前も静電気がよく起こるほうではあったが、何か影響してたりは……しないだろうな。

ふうん、とリンドンが頷く。


「そうなんだ。僕はね、水だよ」


リンドンが俺の前に自分の手を持ってきて、ぱちん、と指先を鳴らす仕草をすると、小さな水しぶきがおこった。魔法とはそれなりに制約があって、使うには詠唱が必要だ。それはどんな小さな魔法でもそうなのだが、魔力が高く、魔法を極限まで扱えるようになると無詠唱でも使える。今、リンドンは俺の前でそれをやって見せた──つまり、リンドンの水属性魔法を極めているということだ。


「え、凄いね。無詠唱なんだね」


素直にぽろっと言葉が出た。俺も悪役令息という立場もあってか、魔力はかなり高い。が、極めてもないので詠唱が必須だ。あー……極めたら静電気なくなるかもしれないな。毎日毎日用意のたびにバチっとなるのは嫌気さすし。

リンドンは、ふふ、と笑う。


「でね。この水魔法をね薄ーく伸ばして……部屋の壁沿い、床沿い……そして天井に沿って張るでしょ?そうするとどうなるか知ってる?」


リンドンは声と一緒に手を動かして、言ったとおりに水の膜で周囲を覆っていく。床のところに膜が覆ってきた時、靴が濡れるのかと思ったら、そういうものでもないらしく……濡れなかった。何気にしてるけど、これ相当凄い気が……いや、魔法自体は出来る人間もいそうだが、無詠唱ってのがとにかく能力の高さを物語っている。


「なんか……シャボン玉の中にいるみたいだねぇ……」

「シャボン玉かぁ。リアムは純真だなぁ……うん、やっぱり……」


俺がしげしげと周囲を見回してそう漏らしていると、ぐっと手が強い力で引かれた。そのまま俺の身体は机の上に仰向けの状態で投げ出される。


「うわっ」


背中に軽い衝撃が走ったが痛みはない。何かクッションのようなものが背中にはあり俺の前には、リンドンが居た。……あれ?この体勢……。


「ねえ、やっぱり僕と結婚しようよ。僕、リアムのこと気にいちゃったなぁ」


俺は見事なまでに机の上に押し倒されていた……!

え、まって、意味が分からないのだが?!


「ちゃーんと気持ちよくしてあげるよ?たくさん声出しても大丈夫!水の結界はったからね」


はーーーーーーーーーーーー?!?!?!

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