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13.ぶち壊された昼休み

試験結果が出てから、俺の評価は生徒の間でウナギ上りで、わらわらと生徒たちが俺を囲むようになっていた。それをセオドアとノエルが適宜うまい具合に散らしてくれる。

人に慕われるのは決して不快なことではないが、目立ちたくない俺としてはちょっと困る。

ノエルは俺の意図ははなから分かっているので率先して動いてくれており、セオドアは昔なじみゆえにある程度俺の考えを分かってくれているのか、ノエルと同等に動いてくれていた。


「いつも、ごめん」


今日は天気が良く、昼は中庭で摂ろうということになり、三人で購買にてパンを購入しランチタイムだ。芝生の上で円をくむように俺たちは座っていて、目の前にいる二人に俺は頭を下げた。


「別にどうってことないし、大したことしてないよ。ねぇ、セオドア」


ノエルが隣にいるセオドアを見ると、セオドアが頷く。


「そうそう。リアは人付き合いは下手じゃないけど、小さいころから多人数は嫌いだもんな。側にいるだけなんだし、気にしなくていいんだぜ?」


気の良い笑顔を浮かべてセオドアが言った。

良い友達を持ったよなぁ……、ありがとう、ともう一度俺が頭を下げる。


「リアムはちょっと律儀すぎるよ。お侍さんじゃなんいんだからさ」

「オサムライ?」


ノエルの単語にセオドアが不思議そうに首を傾げた。

この世界には侍はいないと思うんだよ……うっかりがすぎる。


「なんでも世界の西の果ての国にはそういう……騎士みたいな人がいるらしいよ?」


俺がそう言うと、セオドアは関心したように頷いた。

ノエルはてへぺろムーブである。ごめん、セオドア……真実は知らんので、いつか自分で調べてみてくれ。恥をかかんうちに(丸投げ)。


「さすがだなーリアム。あ、ノエルも……」

「フン、知識を人にひけらかしてマウントを取ったつもりか?」


急にその声は混じってきた。

見上げた先にはディマスがいる。……そう、最近……ディマスは出会ってから、日を空けず俺にやたらと絡んでくるようになった。クラスメイトとは違い、嫌味と侮蔑を毎回混ぜてくるので、正直うんざりしている。はじめの何回かは気のせいか?自意識過剰か?と思いもしたが、ほぼ毎日毎授業時間後に毎昼休み、毎放課後……さすがここまで重なったら故意的だ。お前暇人かよ。他に趣味持てよ!……といっても、ゲーム内のリアムもこんな感じだったので、現状でディマスの立ち位置がそこなのかもしれない……。

俺とノエル、セオドアはため息をついて立ち上がる。昼食終わってて良かったよ……。


「こんにちは、ディマス様」


ノエルが挨拶をしたが、無視だ。もとは平民出身であるノエルは人のうちに入らないと言い放ち話す価値がないと先日仰ってたのでそれを実行しているのだろう。クソか。


「ご機嫌麗しく……何か、俺たちに用でしょうか?」


今度はセオドアが言った。フン、とディマスはもう一度鼻を鳴らす。

あーセオドアの挨拶は一応受けるけど、てことですかね……。

なんつーか……これがリアムの代わりでリアムもこんな態度をとっていたのだったら、そりゃ総スカン食らうよなぁ。あのエンドはおかしいにしても、それなりの叱責は免れなさそうな感じはする。しかも、だ。リアムは侯爵家だったが、ディマスは王族だ。さらに高慢とプライドには磨きがかかっている。


「……どうも、ディマス様……」


腹が立っているということもあり、俺は三人の中でも一番いい加減な挨拶を口にした。ただ頭だけは意識して綺麗な所作を心がけて下げてやる。

ディマスは気に食わなさそうにもう一度、フン、と繰り返した。


「少し高慢がすぎるんじゃないか、リアム・デリカート」

「…………」


え、おまいう?お、ま、え、が、い、う?!高慢が服着てるみたいなやつが言う?!

あとなんでフルネームで呼ぶのかね!まあ、いいですよ。別に仲良くしたいわけじゃないですしね!

無言で笑顔を浮かべて、俺の頭の中では悪態祭りである。

これでも最初のうちはちゃんと説明したり、ご機嫌を取ってみたりと頑張りはしたんだ、俺だって。しかしこいつときたら、説明をすれば口答え、ご機嫌摂ればゴマすり……何をどうしても俺を悪者に位置付けたいらしい。ここ2~3日あたりから俺は急激に疲れてしまい、最終的には黙るようにした。


「人が注意してやっているというのに、生意気なやつだ……!」


その行為がディマスにはいたく気に入らなかったのだろう。ぎり、と奥歯をかんだ後にディマスの手が上がって、俺の頬を目指して振り下ろされていた。

瞬間、痛みに備えて歯を食いしばり、目を閉じる。どれくらいの打撃か知らないが、なんとかなるだろう。俺だって男だし。


が、しかし。

いつまでたっても痛みは来ない。

あれ?おかしいな……、と思っていると、


「離せ!スペンサー!」


ディマスの金切り声が聞こえてきた。

俺が目を開けると、振り下ろされようとしたディマスの手を掴んだ、スペンサーが──居た。

ディマスは俺よりは多少背が高いものの、スペンサーなどよりはだいぶん低い。

なので力も変わってくるのだろう。アレックスほど鍛えることはなくとも、スペンサーもそれなりに鍛えていそうだし。なので、ディマスから振り払うことができないようで、苛立たし気に舌打ちをした。


「お前、自分の立場を分かっているのか?!私は王族だぞ!」

「ここは学園内ですよ。ディマス君。ここでは皆が平等です」


興奮のあるディマスとは対照的にスペンサーは静かに言い放った。

俺達には努めて優しい声で話しかけてくるその人の声は、随分と低い。


「これも、レジナルドに報告しますがよろしいですか?」

「な……!」


ディマスは言葉に詰まる。わかりやすいくらいにディマスはレジナルド狙いだ。ネガティブな印象は控えたいらしく、唇をかむ。てか、俺を追い回すのもネガティブイメージ案件だと思うので即刻やめていただきたいが……。


「薬学の先生が呼んでいらっしゃいましたから、早く行かれては?」


スペンサーはディマスの手を放し、校舎側を指さした。

それを聞いたディマスは、くそっ、と漏らして校舎へと向かっていく。

去り際、


「覚えていることだ、リアム・デリカート!」


と捨て台詞を残して。

ええええええええええええ……そもそもお前じゃん!絡んできたの!

俺たちと、スペンサーは顔を見合わせると、それぞれが苦笑いを漏らした。

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