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9.招かざる事態

「最近仲良くね?」


昼休みに、俺とノエルとを交互に見ながらセオドアがそんな風に言った。

先日王城で行われたお茶会でお互いの素性を知った俺たちの距離は、セオドアが言う様にぐっと近くなったように思う。

あの後──俺が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らい、攻略対象者が並ぶテーブルに戻った後も、ノエルはなにかと俺を庇うように動いてくれて、問題なくお茶会は終わりを告げた。帰り際、レジナルドが申し訳なさそうに俺に近寄って来た時もノエルは俺とレジナルドの間に立って『先輩が虐めるから悪いんですよ!』と諫言まで付け加えてくれたのだ。

レジナルドは言葉に詰まった後に、すまない、と再度俺に向かって謝罪をした。本来ならば王太子にこんなことをさせるだけでもまずそうなのだが、大丈夫です、とだけ返して頭を下げてから俺らは帰った。

ナイジェルに会いたいという希望を持っているノエルをそのまま侯爵邸に連れ帰ろうとも思ったが、お互いに次の日が試験ということもあったし、偶然ではあるもののノエルと関係が築けたこともあって、ノエル自身もそう焦る必要性がなくなったらしく、後日改めてという話になった。

どうにか次の日の試験も乗り越えて、今はまた学ぶ日々だ。

あまりにもあまりに迂闊で天然を晒すノエルに対し、俺の警戒心は以前のようにはない。

これが演技だとするならば、俺にはもう見抜ける自信はないし、騙されたとしても仕方ない気がした。そりゃ雌堕ちエンドは真っ平ごめんだが。


「なんとなく、お茶会で話したら……仲良くなって」


内容を大っぴらに話すわけにもいかず、濁してセオドアに答えると、セオドアは少し不満気に、ふうん、と言ったところでノエルが手鼓を叩く。


「ああ!僕とリアムが仲良くなったから、セオドアは嫉妬してるんだね!」


あはは、とノエルが笑う隣で首を傾げる。

え、どういうこと?セオドアの方を見ると、顔が一瞬にして真っ赤になった。

え、ちょ、大丈夫か⁈うーん?


「お、ま、なっ」

「ねー。そうだよねー。セオドア結構わかりやす……」


からかうようなノエルをセオドアは睨んだ。むしろお前あの方が仲が……ああ、そういうこと?もしかして……。


「そうか、セオはノエルと仲良くしたいのか!」


俺は思ったままに声を上げる。

俺はそうじゃないとしても、この世界は男女の垣根なく恋愛が可能で、貴族間もそれは変わりない。ノエルの出自は平民であるし子爵家とセオドアの侯爵家では身分違いではあるものの、ノエルは稀なる聖属性の力を持っているのを加味すれば、ゲームの中で王太子の妃ルートがあるように、侯爵家への嫁入りも可能だろう。

まあ、見た目は本当に可愛いのだ。天然オタクだけど、性格は悪いように思えない。

俺が一人納得をしていると、二人が大きなため息をついた。

「これじゃあねぇ……いやぁ、さすがの僕でも……」


ノエルがそう言った横でセオドアが項垂れた。

なんだよ、この二人!俺が反論をしようとした時──


「先日の試験結果が張り出されたぞ!」


と生徒の一人が教室内に走り込んできた。



で。

俺とセオドア、ノエルの三人で試験結果が張り出された廊下へと来たわけだ。

王立学園は定期的な試験がされた後、必ず試験結果が発表される。

それぞれの学年10位までがその紙に載り、結果が良ければそれなりに学園内で生徒会に勧誘されるなど──この学園において生徒会に入るのは大変名誉なことなのだ──尊重される。ゲーム内であれば、ノエルはこの試験で高得点を取り、生徒会に勧誘されるはずである。お互いにそのことは知っていて、ノエルから『1位ではないと思うけどそれなりの順位では』と先んじて聞いていた。

今は10位から2位までが発表されており、1位は隠された状態だ。


「あ、俺……9位だ」


まずセオドアがそう呟いた。

へぇ、と心の中で思う。本来であればセオドアがこの順位に食い込んでくることはなかった。基本的にセオドアは馬鹿でないことは承知ではあるものの、番狂わせな展開ではある。おめでとう、と告げるとセオドアは嬉しそうに微笑む。


「僕は……4位だね」


次にノエルがそう言った。

すげーじゃん、とセオドアがノエルの背を叩いた。確かに凄い。俺も受けた試験だが、それなりにやはり難しかった。

じゃあ、俺はどこだ?と思って結果に目を向ける。


「あ、僕の名前はないなぁ……今回は順位外かな。残念」


俺の名前は発表されている2位までにはなかった。

肩を竦めると、慰めるようにセオドアが、次があるさ、と言う。まあ、そう落ち込む必要も俺にはない。落ちこぼれない程度ならば侯爵家の面子を潰すことにはならないし。

じゃあ行こうか、と踵を返したときにワッと周囲が沸き立つ。

1位を隠していた紙が剥がされたらしい。自分に関係ない俺は歩き出そうとした。

──が。


「リアム様凄いですね!!」


同じクラスの生徒が俺の前に興奮した様子で前に立った。

……?なんかしたっけ?俺の頭はハテナだらけだ。目の前にいるクラスメイトは名前は知っているし、何回か話したこともあるが、特別何かをしたことはない。

俺が首を傾げていると、セオドアが声を上げる。ノエルもそれを聞いて振り返った。


「リア……!首位だぞ!!」


シュイ?なんだっけ、それ?

やはりハテナを飛ばす俺に、セオドアがしびれを切らして、俺の肩を掴み進行方向を変えさせた。

ぐるっと俺の身体が回り、自然と試験結果が目に入る。

先ほどまでなかった俺の名前が、そこには載っていた。


「嘘だろ……」


思わず呟く。


1位 リアム・デリカート


間違いなくそこにはそう書かれている。

俺はセオドアとノエルを振り返った。

セオドアは嬉しそうに笑顔を浮かべており、ノエルは事情を知っているだけになんとも複雑な表情ではある。えぇ、ありえないだろ?!

俺が1位って……いや、そりゃね。勉強はちゃんとしてきたよ!

なので結果が出ると嬉しくはあるが……素直に喜べない。

俺は目立つのを避けたいのだから。

しかし、微妙な感じの俺とノエルを置き去りに、周囲は沸いていた。

なんとなく、俺はノエルの隣についていた。ノエルも若干俺を守るように側にいる。

セオドアは、相変わらずすごいすごいと俺の首位を自分のことのように喜んでいた。

良い奴なんだよなぁ……セオドア。

しかし、これどうするか……一番避けたいのは生徒会だ……まあ、これでどうにかなるわけではないとは思うが……。

ここは素直に喜んでおく方が嫌味もないのかもしれない。

はあ、と周囲には悟られないように静かに息を吐いた俺の前に、すっと、俺の前に一人の男が立った。

怜悧な美形を持つ──ド変態眼鏡のスペンサー・トランクイロだった。


「やあ。リアム君にノエル君。先日は楽しい時間をありがとう。さて、君たちに生徒会副会長として勧誘に来た。二人をぜひ、我が王立学園生徒会にご招待したい」


…………なんて?

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