「れーちゃん、起きて」
凛の声が、耳元で響く。
「……っ……」
まだ、頭がぼんやりする。
けど、昨日のことは 鮮明に覚えていた。
目を開けると、凛がベッドの横に腰掛けていた。
「おはよう、れーちゃん」
「……っ……」
全身が、妙にじんわりと熱い。
だけど、まだ我慢できる範囲。
(……誤魔化せる……はず……)
そう思いながら、ゆっくりと身体を起こそうとした瞬間――
「今日は、剃るね」
「…………は?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「れーちゃんの、毛」
「…………っっっっっ!!!!!!!!?」
一気に血の気が引く。
「は!? ちょっ、おまっ……!!??」
──ガチャ。
動揺する間もなく、手首に手錠がかけられた。
「っ!!??」
「危ないから、手は固定するね。れーちゃん、暴れるでしょ?暴れたら切れちゃうから」
そう言いながら、凛が カミソリを手に取る。
「…………っっっ!!!!!!!!」
(嘘だろ……⁈)
喉が引きつって、こえがまるで出なかった。
凜はそんな俺に構うことなく、俺の身体を見ていく。
「れーちゃんの脇は綺麗だね。あ、そうか、撮影とかあるもんねぇ」
凛が、軽く指で撫でる。
「ここは、剃る必要ないね」
(っっ……!!!!!!!)
「でも、こっちは……ふふ、ちょっと伸びてるね」
視線が移動して、凜は俺の股間を見ていた。
指先が、ふにり、と恥骨の上を押す。
その僅かな感覚に、俺は思わず息を飲んだ。
(――!!!!!!!!!!!!!)
「れーちゃん、少し冷たいよ」
「っ……!!」
ぷしゅっ……
ひんやりとした泡が、俺の肌にのせられる。
「っ……やめ……っ……!!」
反射的に体を引こうとするが、膝を押さえつけられて逃げられない。
「ほら、大人しくして?」
凛が、シェービング剤を丁寧に塗り広げる。
(いやだいやだいやだ……!)
「……っ……!!!」
「ふふ、すごく敏感になってるね」
「っ……!!!」
泡の冷たさが、肌の感覚を余計に研ぎ澄ませる。
「ちゃんと綺麗にするね」
――そっ……
「っ……!!!」
カミソリの刃が、肌の上を滑りだした。
(っ……!!!!!!!!!)
叫びたい。なのに声がまるで出ない。
よくドラマなんかだと悲鳴を上げるシーンを見るが、その通りではないと身をもって知る。
人間、真に恐ろしいと声なんか出ないのだ。
凜は丁寧に手を動かす。俺を傷つけないように。
こそげ落とされる感覚。
ゆっくり、確実に、俺の毛が剃られていく。
「うん、すごく綺麗になってるよ」
「……っ……やめろ……!!」
漸く、ちょっとだけ出た声だったが、
「ダメだよ、最後までちゃんとやらなきゃ」
呆気なくそれは凜に落された。
(なんで、こんなことに……!)
「うん、もう少し……」
凛の指が、滑るように俺の肌をなぞる。
「れーちゃんの肌、すごくスベスベになったね」
そして、泡が全てなくなり、それと一緒にそこはつるりと素肌が出ている。
(っ……!!!!!)
「これで……うん、完璧」
カミソリを脇に置き、凜は嬉しそうに微笑んだ。
「見て、れーちゃん」
俺の肌を、ゆっくりと撫でながら――
「赤ちゃんみたいに綺麗だよ」
(――!!!!!!!!!!!!!!!!)
脳が、一瞬で沸騰する。
「っ……っっ……!!!」
羞恥と屈辱で、喉が詰まる。
「これで、ちゃんと準備できたね」
(どうしてだよ……俺が何をしたって言うんだ……)
俺の 2日目の朝は、最悪の羞恥で幕を開けた。