性欲が高まるのは夜! だから夜こそが本番だ!
あたしは決戦の時を見据え、意気込んでいた。
セラディスをその気にさせるには、就寝前が最適だ。
だって、暗闇には魔力があるでしょ? 雰囲気が大事でしょ?
あたしはセラディスの寝室のドアを開けて、堂々と侵入した(そもそも寝室が別々なんておかしくない?)。
すると、燭台の明かりにぼんやりと照らされた部屋の奥でセラディスが、聖アレオン大聖堂の方角を向いて膝をつき、祈りを捧げていた。
白いロングのナイトシャツ姿で両手を組み、静かに目を閉じる姿は、まるで聖人のよう。いや聖職者だから聖人か。
「アレオン神よ。我が魂を正しき道へと導きたまえ。夜の闇に迷いを抱くことなく、己の信念を貫く強き光を示したまえ――」
セラディスは
入ってきたのがあたしだと気づいた瞬間、彼の表情が一瞬驚いたものに変わる。きっと使用人が用聞きにでも来たと思ったのだろう。
「マナシア?」
きっちり上までボタンを留めたナイトシャツが逆にエッチ。ズルい!
「今夜は、一緒に寝たいの」
「え?」
「夫婦なんだから、当然でしょ?」
「ですが、私たちは……」
「わかってる。でも、そばでただ眠るだけなら問題ないよね」
セラディスは困惑した顔で、少し考え込む。
よし、このまま押せる!
「ね、お願い。誓いには反しないでしょ?」
「それは、確かに……」
「でしょでしょ!」
あたしは彼の言葉を肯定と受け止めて、ベッドに潜り込んだ。
ふかふかの布団、心地よい香り……。
トウマのくらくらするような香水の匂いとは違う、ほんわかしたお日さまみたいな匂いだけど、これはこれでなんだかドキドキウズウズする。
「ほら、早く寝よう」
あたしが布団を捲って手招きすると、セラディスは観念したようにベッドに上がり、セミダブルくらいの広さのベッドの端のほうに、あたしに背を向けて横たわった。
あからさまにッ、ものすごくッ、距離を取られているッ……!
「ねえ、そんなに端に寄らなくてもいいじゃん」
「私は、あなたに不快な思いをさせたくないので……」
「不快じゃないよ! むしろもっと近くに来てよ」
あたしはセラディスの方へもぞもぞ移動し、その広い背中にぴとっと張り付いた。
「……温かい」
布越しに伝わってくる体温だけで、ああ……あたしは幸せを感じてしまう。
これだけでもいいかもしれないと思えてくる。トウマと瓜二つの夫の熱を、鼓動を、彼と共にあたしが生きているという事実を、感じながら眠れるだけで。
最期の時、抱き起してくれたトウマの腕を思い出す。
この人があんなふうに、少し強引にあたしに触れてくれたなら。
トウマそっくりなのに、トウマとはまるで違う。
トウマはあたしを誘惑する側だった。あたしを求める側だった。でも、セラディスは……。
「マナシア」
「……なに?」
「悲しいことを考えていませんか」
「……どうして?」
「小さく鼻をすする音が聞こえたので」
セラディスが体を動かし、こちらを向いた。
あたし、いつのまにかちょっと、おセンチ(死語かな)になってたみたい。鼻の奥がツンとからい。
ああ嫌だ。これからエロティシズムを体現しようってときに。
せっかくセラディスがこちらを向いたのに、あたしは彼の目を見られなかった。
なんなんだろう、この気持ち。あたしはセラディスをトウマと比べて、何がしたいんだろう。
比べたってもう、どうにもならないのに。
だって、あたしは死んだんだから……!
あの世界には戻れないんだから!!
「おやすみなさい、マナシア」
セラディスはそう言って、すっとあたしの額に優しく口付けた。
「え……?」
「これなら、誓いを破ったことにはなりません」
驚いて顔を上向けると、夜明け前の空のような深い青色の目があたしを見つめていた。
トウマと同じ。
あたしの涙腺は途端に緩み出す。それをグッと耐えて、あたしはまた俯いた。
セラディスの手があたしの髪をゆっくりと撫でる。まるで小さな子どもをあやすように。
悔しい。あたしは大人の女だぞ。
でも、どうしてだろう。撫でられるたびにひとつずつ、心に刺さった棘が抜けていくような心地がする。
「愛してたんだ……」
思わずこぼしてしまった言葉を、セラディスは聞き咎めなかった。
その代わりに、トウマと同じ、でもトウマよりも優しく響く声で言った。
「愛していますよ、私のマナシア」