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第4話:日の出てるうちは前哨戦だ!

 セラディスをその気にさせるどころか、ライバル出現。

 しかも、ライバルがシスターなんて、そんなのあり!?


「あの女、ほんとにただの隣人愛(とは言ってなかったけどそういう意味でしょ?)って思ってるのかな……?」


 白いバラをじっと見つめる。

 いやいやいや、どんなに考えてもおかしいって! 普通、妻帯者にバラを渡す(結局あたしがもらったけどさ)!?


 セラディスはすごく鈍感そうだから、自分の貞操の危機に気づいてないのかもしれない……。

 だとしたら最悪だ。


 セラディスみたいな顔良し・体良し・性格良しで主任司祭という地位まである男がモテないはずがない。お堅そうなところがまた一部のアブナイ女(あたしは違うけど)には刺さるわけで……。


 ……ということは 今後もライバルが増える可能性大!?


 あたしは焦りに駆られて立ち上がった(もともと廊下に立っていたわけだが、気持ち的にね)。


「これは、急がないと……!」


 このままでは、セラディスが他の女に寝取られる未来しか見えない。



◆第1の対策:夫婦っぽさを世間にアピール!


 昼過ぎ、セラディスが教会へ向かうというので、一緒に行くことにした。いつもは朝早くから出掛けるようだが、今日は朝っぱらからあたしが階段下で倒れていたので午前休をとったらしい。


「セラディス、せっかくだし腕組んで行こうよ。夫婦なんだから」

「えっ? ですが……」

「大丈夫大丈夫、ほらっ」


 さっとセラディスの腕に絡みつく。

 おお、これが合法的密着!!

 硬くて引き締まった腕、温かい体温、最高……!


 ……なのに。


「マナシア、だいぶ歩きづらいので、すみませんが」


 気遣いの塊みたいな顔でやんわり外された。


 えぇぇぇぇぇ!!?


 諦めきれなくてもう一度手を伸ばしたら、その手を大きな手でそっと包み込まれた。


「腕を組むのではなく、手を繋ぐのでもいいですか? 私はあなたを大切に思っていますが、外での過度なスキンシップは慎むべきです。節度ある大人として」


 あたしたちのそばを、二人の幼い男の子たちがきゃっきゃとはしゃぎながら過ぎていく。そしてあたしたちに気づいて振り向き、


「あっ、セラディス神父様とマナシア様、こんにちはぁ」

「はい、こんにちは」

「こ、こんにちは」


 と、セラディスに続き、あたしも慌てて挨拶を返す。

 子どもの目があると思ったら、さすがのあたしもイチャイチャしづらい。


「さあ、行きましょうか、マナシア」


 セラディスはあたしの手を握り、爽やかに歩き出す。


 温かい手に包まれる安心感。

 あ、これはこれでいいかも――よくないっ!

 お手て繋いでお散歩なんて、3歳児でもやってるわ!


 子ども騙しみたいな手繋ぎにほだされそうになったあたしはブンブンとかぶりを振った。そして、騙されてなるものか、と彼の手を振り払い、踵を返して屋敷へ走る。


「マナシア?」


 困惑する声が聞こえていたが、今は無視。

 帰って今夜のための作戦を練らなくては。



◆第2の対策:夫婦ならではの特権を利用!


 その日の夕食後、あたしはダイニングからセラディスが立ち去る前に、彼をリビングのソファに座らせた。


「マナシア、何か大事な話でも?」

「ねえセラディス、肩揉んであげる」

「肩?」

「だって、神父様って大変なんでしょ? ほら、じっとしてて」


 これなら絶対ドキドキするはず!

 しかも肩揉みなんて接触、他人同士ティアリナじゃできないでしょ。


 あたしはセラディスの肩に両手を置いた。

 ……分厚い。無駄な肉がない。


 適度な力と愛情を込めて、もみもみする。


「どう? 痛くない?」

「ええ、マナシアの手は温かくて心地よいです」

「でしょ~?」


 よし、これは成功か!? このままこの手を下の方に持っていけるか!?


「それにしても、マナシアはとても器用ですね」

「それはもう! あたし、テクニシャンってよく言われてたんだ~(いろんな意味で)」


 トウマからね(リップサービスかもだけど)。


「なるほど、他の方にも同じようにほどこしていたのですね」

「……え?」

「いつもこうして誰かの疲れを癒していたなんて、素晴らしいことです」


 いや、待て。


「違う、他の人にはやってないよ! これはセラディス限定だから」

「そうなのですか?」


 不思議そうな顔。なんでだよ。

 いや、あたしがテクニシャンとか言ったせいか。


「……はぁぁぁぁ(溜息)」



◆作戦失敗。でも、まだ夜がある!


「マナシア、なんだか疲れていますね。甘いもの……ホットチョコレートでも作りましょうか」


 なんか、めちゃくちゃ優しく言われた。

 ホットチョコレート……飲みたい。

 こくんと頷くと、セラディスの目が柔和に細められ、あたしの心臓がトゥンク……!


「ち、違うの! あたしがセラディスを落とすの!!」

「……何を言ってるんです。私はもう、とっくの昔にあなたに落ちていますよ」


 ほんとにこいつ、鈍感すぎる。そういう少女漫画みたいな意味じゃない。

 あたしが求めてるのはレディコミなの!


 セラディスが用意してくれたホットチョコレートを、セラディスと向かい合ってちびちび飲みながら、あたしは考えていた。


 決戦は、今夜の就寝前だ……!


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